見出し画像

【短編】 アウラカチューレ

 私は、牛の背中にまたがっており、目の前には田園風景が広がっている。
「ねえ、アウラカチューレはまだなの?」
 声に振り返ると、一人の少女が私の腰にしがみついている。
「あたし、昨日から何も食べていないのだけど」
 そういえば子どもの頃、泣いている私にキャンディーをくれた親切な叔母さんがいたなあと思い出して、上着のポケットを探すとそれらしきものがあった。
「なんか古くてベトベトするけど、甘いからまあいいわ」
 アウラカチューレとは何かという疑問はあるが、私も空腹だ。
 そこで牛の歩みを止め、近くにいた農夫に声をかけて食べ物を分けてくれないかと頼んでみた。
「何か交換するものはあるかい? タダというわけにはね」
 それはそうだと思って探していると、腰の巾着袋にキラキラした小石が沢山入っているのを見つけた。
「おい、この石一つで村ごと買えるよ! 俺は採掘場で働いてたから知ってる。おい、みんな集まれ!」
 私はトラブルの予感がして、急いでその場を立ち去った。
 
「カチューレを下民に見せるなんて、あなた馬鹿なの? きっと追手が来るわ」
 そういうことは先に知りたかったが、そんなもの追手にくれてやればいい。
「あなたはカチューレをアウラ王へ届ける任務を忘れたの? 一番間抜けそうな人間のほうが警戒されないという戦術だったのにね……」
 私は牛から下ろされ、少女の乗る牛を見送った。
 
 まあいいさと私は思ったが、とにかく腹が減っていたので、村人に頼みこんだら何とか仕事と食べ物を貰えた。
 でも、他にいた奴隷と同じ部屋へ押し込まれ、重労働と、酷い食事と、馬小屋の寝床しか与えられなかった。
 生まれて初めてムチで打たれた。
 
 私は一カ月で農園を抜け出して、近くを進軍していたアウラ王討伐隊に加わり、みごとに王を倒した。
 
「このままだとあたし奴隷や性の道具にされちゃう。ねえ助けてよ」
 かつての少女は、縄に縛られながらそう私に懇願する。
 私は少女にツバを吐き、これは私が貰うぞと周りに言って自分の奴隷にした。
 王の討伐隊は、新しい王座やカチューレを狙う連中ばかりだったので、奴隷の扱いなど誰も興味はない。
 
 私は王都の外へ少女を連れ出し、縄を解いて、どこへなりと行けと言った。
「それで正義のつもり? ツバ臭いんだけど」
 助けてやらなきゃよかった。
「あたし、あなたを元居た世界に戻す方法を知っているわ」
 元居た世界はもっと酷いから、もういいよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?