見出し画像

玉葱を巡る

ひと匙を求めて掬う 呼ぶマンマ 幼き口に初めての聲

ひとさじをもとめてすくう よぶマンマ おさなきくちにはじめてのこえ

亜希


夜、クルマで通りかかった道沿いにある 建物が気になった。
こどもが被る麦わら帽子のようだった。

円形で、簡素に建てられた建物に 木の十字架が架けられている。
いったい何の建物だろう… 教会だろうか?
意匠は、忘れられず、 心の片隅にあるのに 場所がどの辺りなのか わからないままになった。

随分経ったある日
また建物の前を通りかかった。

今回は、昼間だったおかげで、 建物のアドレスとうっすら看板にある名前がわかった。

すぐにネットで検索してみる。

ミッション系の幼稚園だった。

写真を見ると
幼稚園の中央に礼拝堂があった。

隔てられることなく、 祈りたい時に誰もがそこへいける。
陽のひかりのみ差し掛かかった 木の十字架と木の椅子のみ。

なんて温もりのある場所なのだろうと思った。
私の愚かさも、背負ってきた哀しみも 誰かを憎んだことも、 そこにいけば、 すべてが赦されるような気がした。

どんな人が設計したのだろう?と 気になって、 今度は設計者を検索してみた。 建築家のHPがあった。

そしてなぜか 玉ねぎスープの話が目に飛び込んだ。体調を崩した学生(若者)に魔法のスープを すすめている。

魔法のスープを要約すると、 圧力鍋に玉葱をザクザク切って水から煮て、 少量の塩とバターを加えて フードプロセッサーにかけたものだそう。

体調を崩したら、まず食生活を疑ったほうがいい。やってごらん。

玉ねぎのスープ 若者達へ:手塚建築研究所

と書いてあって衝撃を受けた。

材料は、玉ねぎ、水、バターと塩。 たったこれだけ。

スープのことを考えていたら、 同じタイミングで 小田原で100年以上前から栽培される 下中玉ねぎの販売のお知らせが届いた。
その玉ねぎは、 お寺の住職さんに師事を仰ぎ、 お寺の敷地で大学生が学業の傍ら、 起業して作ったものだった。

下中は、古くから玉ねぎを作っていて 潮風が玉ねぎを育む場所。
希少ゆえに、 スーパーには並ばず、 地元以外では、 なかなか手に入らないのだという。

小田原は馴染み深い場所だけに 直ぐに購入のボタンを押した。 数日のち、 玉ねぎのどっしりとした重い箱が届いた。

箱を開けると、 ほのかにヨーグルトのような乳酸菌のような 甘酸っぱい薫りが漂った。 土がいいのだろう。 赤ん坊の頭くらいの大きさで オレンジ色の皮を剥くと真珠のように光っている。

私はさっそく魔法のスープを作ってみる。
ウチに圧力鍋がないので、普通の鍋。 潮風が育んだ玉ねぎなら きっと、昆布とも相性がいいはず。

出汁昆布と月桂樹の葉を入れて煮る。
丁寧にアクを取り、 透き通るほどに煮えたところで 火を止める。
半分は、塩とバター又は、オリーブオイルで
フードプロセッサーに掛けて魔法のスープに。

半分は、丸ごとスープで頂いてみた。
下中玉ねぎで作る玉ねぎスープ。
アクを丁寧にとりながら。

繊細な白磁の深皿から淡い玉ねぎ色のポタージュをそっとひと匙すくって口へ運ぶ。

じんわり身体がお包みに包まれるように 強張った心を柔らかにしてくれる味がした。私は、世の中の機微に敏感に 反応してしまうことが多く、 食べられなくなってしまうことが よくあった。

シンプルに。 身体が素直なところへ戻そう。

これは、私が私へ掛けてあげられる 「愛」ではなかろうか。

幼稚園の建物から建築家さんを経て、 魔法のスープに出会い 希少な玉ねぎの存在を知り 辿り着いて、わが家のレシピに加わった。

玉ねぎは、 剥いても 剥いても 真っ白な玉ねぎ。
あるのは、 唯ひとり、私なのだろう。



この記事が参加している募集

今日の短歌

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?