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男性のメイクはなぜ嫌われるのか?

メンズコスメがふつうの時代になってきました。ネット上でもドラックストアでもずらりと男性向け化粧品のラインナップが並び、高校生になったら男子でもメイクして過ごすのに違和感がないと感じる人が増えてきているといいます。

芸能人やタレントでもキレイにメイクした姿をインスタなどにアップして話題になる人が少なくなく、「女性のように美しい男性」どころか「女性以上に美しい男性」すら存在するのがもう今の時代の流れかもしれません。

こんな時代の趨勢に対して、若い世代ではおおむね好意的に受け止める人が多いですが、氷川きよしやryuchellが最近急に変身した姿が芸能ニュースになると、美しいとか可愛いといった声とともに、必ずといってよいほど辛辣な意見が飛び交います。

人それぞれ価値観や考えが違うのは当然ですが、これらの否定的な意見の中には、人格攻撃に近いものや誹謗中傷としか思えないようなコメントもあり、自由な言論の範疇を超えて対立構図が浮き彫りになる危険性をはらんでいるとも思います。



そもそも男性と女性とでは身体の構造や社会的な役割が違うから、男性がやむくもに女性化してしまったのでは世の中は混乱し、従来の家族関係や社会活動にも悪影響を及ぼすのではというのが、否定的なコメントをする人たちの考えのようです。

このような意見について私も心情的には理解できないことはありませんし、多くの人が無制約に従来のジェンダー規範を飛び越えて自由気ままに生きるようなカオスの状態が生まれてしまったら、それは世の中は混乱するだろうという懸念は分からなくもありません。

でも、今の時代に起こっていることは、はたして多くの人がこぞってカオスな状態に突入するような現象なのでしょうか。

男性で堂々と着飾ってメイクをするような人は、若い世代で増えつつあるとはいえ、明らかに社会全体においてはマイノリティです。だからこそ、男性タレントがキレイで可愛い姿を公開することが、芸能ニュースとして話題になるのです。

一般人の中でメイクをする男性はまだまだ明らかに少数派ですから、保守的な考えの大人たちに囲まれた若者の中には、自分ははたして孤立したり攻撃されたりしないかとビクビクしながら、メイクしたりオシャレをたしなむ人も少なくないのではないかと思います。



ひるがえって、女性がメンズの格好をしたり、刈り上げカットでファッションを楽しんだとしても、その場の雰囲気で浮いてしまったり、年配の男性があまり快く思わないような場面はあるにせよ、男性がメイクするほどの誹謗中傷を受けるケースは少ないのかもしれません。

もともと女性がズボンを穿いたり、ジャケットやネクタイを着用することは社会通念としても認められているからかもしれませんが、それにしても価値観の多様化が急速に進む時代にあって、男女の非対称性はファッションをめぐる意識においてかえって顕著になってきているように感じます。

男性がメイクするのをみて不快感を感じたり、露骨に毛嫌いするのは、やはり年配の男性が多いと思います。彼らは、なぜ同性がメイクすることを過剰に嫌悪するのでしょうか。

それはおそらく、見た目が美しくないといった審美的な価値観に由来した感情ではないと思います。より美的に完成度が高いメイクやファッションを目にすれば嫌悪感が肯定的な評価に変わるというよりは、むしろ誰が見ても美しいような審美性を備えることが、かえって嫌悪感を増幅させるケースもあるのではないでしょうか。



そう、彼らの深層心理にあるのは、男性社会の性別規範を根本から規定するホモソーシャルな思考や仕組みに対する、強烈な自己防衛本能だと考えられるのです。だから、美しいかそうではないかといった価値基準ではなく、そもそも男性は女性化してはいけないという不文律を何よりも意識の根っこに置いているのです。

男性が女性性を帯びることは自然界の法則に反し、私たちのの文化伝統や社会習慣を破壊するのでしょうか。

女性が男性性を帯びて社会進出を加速させても、真っ向からそのような評価がされることは少ないことからすると、そのような懸念は少なくともあらゆる異論を排除できるほどの位置づけにあるとはいえないでしょう。

男性が子育てや介護といったケア労働を行うことが以前に増して社会性を帯び、各方面で現実的な対応が求められる時代。

たかだか百年程度の歴史しかない「男はメイクしてはいけない」という規範をあたかも永遠不滅の摂理かのように振りかざすことの方が、よほどこれからの私たちの社会の発展にとって懸念材料になり得るのではないかと個人的には痛感します。



タフに力強くリーダーシップを活躍する女性や、美的センスを備えておしとやかに気配りができる男性。

そんな彼ら彼女たちの生き方を、たんに今までは違うから、男らしさや女らしさに反するという理由で固定観念をもって排除するのではなく、それぞれがそれぞれに自分らしさを発揮するからこそ、かけがえのない個性を認め合って支え合うことができる社会を目指していきたいものです。

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。