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成人年齢引き下げと性別の取扱いの変更

各地で満開の桜が咲き乱れています。週明けにかけて全国的にお天気が下り坂なのでお花見日和のラストの週末となりそうですが、しっかり楽しんで目に焼き付けておきたいですね。

4月1日から民法改正で成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。今年は入社式とともにこのニュースが取り上げられましたが、携帯電話、アパート、クレジットカード、ローンの契約などが18歳から自分の判断でできるようになるほか、10年有効のパスポートを取得したり、公認会計士や司法書士などの国家資格の仕事に就くことができます。

これら以外では、性別の取扱いの変更審判も18歳から受けることができるようになりました。民法と同時に改正された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の第3条(性別の取扱いの変更の審判)は、以下のように規定されています。

(性別の取扱いの変更の審判)
第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
2 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律


改正されたのは、第1項第1号が「20歳」から「18歳」に変更された点のみですが、これによって文字通り18歳から家庭裁判所に性別の取扱いの変更の審判を行うことができるようになりました。性別違和を感じて医師の診断を受けて戸籍の変更などを希望する人は、幼少の頃から悩みや苦しみを抱えて早い時期からホルモン療法などを受けている例も少なくないことから、成人年齢の引き下げと併せて18歳から変更審判が可能となったことは基本的には一歩前進だといえると思います。

一方で第4号、第5号の要件が国際的にみてもかなりハードルが高いものであり、全身麻酔をともなって相当期間の入院を前提とするオペを受けることから、身体の状況や就業上の事情、経済的な理由などによって事実上適用することが困難であり、現実的な選択肢となり得ないケースも少なくないといわれています。ただ、今回はあくまで民法改正に並行した年齢要件の改正であり、その他の要件の改正についてはいま少し国民的な議論の成熟が必要なのかもしれません。



従来、未成年者に特例法による性別の取扱いの変更が認められていなかったのは、心身の成長が未熟なことから第4号、第5号を満たすための相応の手術を受けることを規制していたという側面もあったとは思いますが、主にはその理由ではなく法律上の権利義務や身分関係に関わる行為は成人を前提とするという全体の法体系の立てつけに由来していたと考えられます。その意味では、この改正によって18歳の段階から適用される第4号、第5号の適否について、あらためてさまざまな角度から議論がされていくのは当然の流れになっていくように思います。

その上で個人的に気になるのは、性別の取扱いの変更がそれを実施したその後の本人の人生にとって必ずしも幸福や満足をもたらす例ばかりとは限らないという点です。不可逆的なホルモン療法や合併症などを引き起こしかねない手術がその後の心身に影響を与えるという点もありますが、自らが適合すると望んで変更した性別がかえって新たな悩みや苦しみをもたらしたり、性別自体には違和感がないもののパス度やコミュニケーション上の理由から社会生活に問題をかかえてしまう例もあります。

適用年齢の引き下げは確信をもって性別変更をしたい人にとっては幸せを実感できることから、全体からみれば改正自体は大いなる一歩前進であったと思いますが、もとよりそれだけですべて問題が解決するわけではなく、引き下げによってかえってその周辺に抱える問題が顕在化してしまうことにもなります。具体的には、若くして性別変更を希望する人に対する社会的な啓蒙やケアだけでなく、そもそもの人間のジェンダーのあり方全般とキャリアやライフスタイルの全体像との関わりについて、さまざまな角度から事例や認識を共有していく場や仕組みの必要性がますます高まっていくと思います。



そもそもジェンダーはグラデーションであることが知られます。その意味は、男性であれ女性であれ、ほぼほぼ100%の男性、100%の女性というものは存在せず、多くの人はそれぞれ幾ばくかの異性の要素を兼ね持っており、それは全人生において必ずしも一定するものでもなく、環境の変化や人格形成やキャリアやライフスタイルによっても変化し、常に揺らいだり揺れ戻ったりする可能性を秘めているということです。このような認識を共有してきめ細かな人間関係を醸成していくことが、まさにダイバーシティの時代には求められるのだと思います。

性別変更にともなう制度や運用についての真剣な議論と並行して、ジェンダーのあり方や向き合い方全般についての議論の成熟がこれからますます必要とされるのではないでしょうか。その先にまさに多様なジェンダーのあり方が社会性をもって迎えられる未来像が共有できたとき、今回の法改正さらにはその後の具体化が本当の意味を帯びるのだと私は考えています。

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。