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放っておけない映画「四月物語」


You Tubeで映画「四月物語」全編を期間限定で公開していた。
DVDも持ってはいたが二度とない記念だと早速視聴してみた。
昨年も四月になるとTwitterで「四月物語」についてのツイートをしていた。
私は「四月物語」が大好きなのだ。
「四月物語」は岩井俊二監督の1998年の作品で当時私はまだ中学生だった。主演が松たか子さんと知って熱烈なファンだった私は(後に人生初のファンクラブに入会する)映画の内容も知らないでCDショップへ自転車を走らせ値段も尋ねずVHSを取り寄せてもらった。地方だからだったのか映画館では観たことがなかったし、映画の情報も何かの雑誌で知ったのだと思う。それでビデオの存在を知ったのだと思う。
後日お店から入荷したとの連絡があり、また自転車を走らせ買いに行った。
その姿は松さん演じる楡野卯月が故郷の北海道の広大な大地の一本道を自転車で爆走する場面と重なる。

大好きな山崎先輩が上京して悲しみのあまり
通学路を爆走する卯月の後ろ姿。


マジックテープの財布にこれくらいあれば大丈夫でしょうという額を前もって準備していた。
だがレジの数字を見た私は固まってしまった。
16000円を超えていたからだ。

あ…

変な間が空いた。
そもそも値段を確かめず取り寄せた自分が悪いのだが、遥かに予想を超えていた。
高値は高値だが現実の相場はそんなもので妥当だった。
セル用のVHSとは本来それくらいするのであった。
私は店員さんに所持金が足りないことを告げ、今日中には支払うので待っててくださいと一度店を出た。
財布にあるお金が全財産だった。
家に帰りたまたまとっておいた図書券数枚を握りしめ親にお金と交換してほしいとお願いしてなんとか支払うことが出来た。

当時の私の人生で一番高い買い物というサイドストーリーも加わり「四月物語」は忘れられない映画となった。


「四月物語」のVHSを何度も何度も観た。飽きることなく何度も何度も観ていた。
物静かで内向的な卯月の大胆な人生の一大決心と上京のふとした時に垣間見える孤独感にこちらもウズウズ心震わせながらまるで自分も追体験しているかのように心細さやセンチメンタルを味わっていた。

カレーを一人で食べる卯月。
テレビをつけて静寂を紛らわす。


それでも卯月にはそれらを上回る希望があった。
憧れの山崎先輩に会うことだ。
内に秘めた卯月の情熱の炎はまるで修羅だったのかもしれない。まさに春と修羅。関係ないが。
片思いのひとつ上の先輩を追いかけて同じ大学へ進むってとてつもない情念だと思う。
それをやってのけたのが卯月の凄いところで、高校3年の残り半分を捧げた、のさらっとした独白はきっと想像を絶するものだったろう。

静かな闘志が運命をも変える。
武蔵野…武蔵野…武蔵野……。

見事に念願叶い武蔵野大学に合格し北海道から東京へ上京し、それなりに学業、サークル活動、新しい環境での人間関係をこなす卯月の精神力のタフさに感嘆してしまう。
本編ではまだ夏前までの大学一年生の卯月しか観られないのでその後どうなるのかはわからない。
だから、想像してしまうのだ。

書店で購入する本の一回の会計は三千円近いし、学生寮ではない団地のそこそこ広い部屋に住んでいる。トイレとバスはわかれているマンションだ(推測)。
大学生活に慣れたらバイトもするんだろうか。生活水準は高いが仕送りが追いつかなくなるのでは…などと余計なお世話をやいてしまう。年々そういう観方をしてしまうのは歳のせいだろうか…嫌だ嫌だ…。

それはそうと山崎先輩のことである。
バンドもしていたというくらいだから割りと陽キャだったと推測する高校生活。(己の下世話さに嫌気が差す…)
モテないはずがない。
でも、卯月が(私には)有名だったからと山崎先輩に告げるところからして学校全体ではそうでもなかったのかと邪推してしまう。その真意とは。

卯月のイメージが生んだ山崎先輩の演奏姿。
武蔵野という響きが幻想的。

一足先に(一年先に)上京して一年ちょっと書店でバイトしている山崎先輩に現在恋人はいるのかもわからない。
卯月に家の距離を聞いて近くだとわかると少しウキウキした様子でまた来てよと言うってことはビジネス的な意味よりもう少しプライベート色が強い気もする。

田辺誠一さん演じる山崎先輩。
モテないはずがない。


そんなこと言われちゃったらその内卯月のことだから毎日のように(定休日と先輩のシフト日以外)通っても不思議ではない。
その流れで書店でバイトをするかもしれない。
2人は先輩後輩の間柄のままで親密になっていくだろうし、山崎先輩が卯月の家にカレーを食べにお邪魔するかもしれない。
男の声がすると思ってお隣さんは玄関のドアの除き窓から見るかもしれない。

お隣さん。
人間関係に慎重すぎるがゆえの行動。


愛の奇跡がトントン拍子で幸せなことしか続かないことはさすがに難しいが卯月には悲しい展開にならないでほしいと心から願ってしまう。

2人が一緒にいてくれたらいい。
同じ画角に収まっていてほしい。

留年とかもなく順調にいけば山崎先輩は一年先に大学を卒業して地元の北海道には戻らず都内で就職するのだろうか。
一年の壁は縮まらないけど卯月はずっと山崎先輩と時間を共有してほしい。
もし必死の覚悟で近くに来たのに遠くから先輩の幸せそうな姿を眺めているだけで終わってしまう未来は想像したくない。
学食が不味いと言い放った友人の佐野さんがそんな卯月を支えてくれるだろうか。

根が優しいからすごく正直な佐野さん。

津田寛治さん演じる釣りオタクの深津がもしかして卯月を気に入って佐野さんとの関係を悪くしてしまうかもしれない。

津田寛治さん。変わらずキレッキレ。
どしゃ降りの雨が先輩との距離を縮めた。
これも愛の奇跡。


あぁ……卯月はどうなるんだろう。
あぁ……私のお節介にも程がある下世話な妄想はどこまで続くのだろう。
続編を求めているようで実はそうでもなくて、すごく複雑な気持ちである。
勝手に都合のいい展開を思い描いている方がいいのかもしれない。





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