アリス・マンロー 『林檎の木の下で』

★★★☆☆

 アリス・マンローばっかりですやん、という内なる関西弁のツッコミが聞こえます。仕方ないんです。そういう時期なんです。
 原題は『The View from Castle Rock』なので、『キャッスル・ロックからの眺め』といった感じでしょうか。林檎、関係あらへん、とついエセ関西弁になってしまいます。
 小説の邦題っていまだに意訳がありますよね。音楽のアルバムだと、英語のままがほとんどになりましたけど、昔はアルバムタイトルも意訳されてました。UKパンクバンドのThe Damnedの1st.アルバム『Damned Damned Damned』のタイトル、なんだと思います? 『地獄に堕ちた野郎ども』ですよ。このセンス! 完全に印象で付けてますが、ジャケット写真を見れば納得です。命名者を呼んでくれ!

 邦題で思い出しました。ライオネル・シュライヴァーの『少年は残酷な弓を射る』という小説があるのですが、原題は『We Need to Talk about Kevin』なんですよね。これ、読んだ方にはわかってもらえると思うのですけど、いまひとつ納得がいかないんです。その邦題はないだろ……と首を傾げてしまいます。
 内容からすると原題は完璧なんですよ。それが邦題は……ううむ……納得いかねえ。僕なら「ケヴィンについて語るとき、私たちの語ること」としますね(レイモンド・カーヴァー風に)。

 さて、キャッスル・ロックってどこだろう、と思い調べてみると、スティーヴン・キングの想像したアメリカのメイン州に位置する架空の街と出てきました。
 ……えっ? 絶対関係ないよね? 
 そう思い、さらに詳しく調べると、カナダのブリティッシュ・コロンビアにある山との情報が出てきました。おそらくこっちでしょう。内容からしてスティーヴン・キングの要素ないですもん。アリス・マンロー、スティーヴン・キングとか読まなそうですもん。
 ちなみに、キャッスル・ロックという名の山は世界中にたくさんあるようです。日本中にある○○銀座商店街みたいなニュアンスでしょうか。

 ちなみに、『キャッスル・ロックからの眺め』は第一部の二番目の作品、『林檎の木の下で』は第二部の二番目の作品のタイトルです。日本語だと、『林檎の木の下で』の方がよいですよね。『キャッスル・ロックからの眺め』だと、それどこよ?となりますから。

 まったく内容に触れていません。

 簡単に言うと、自伝的短編小説だそうです。連作短編といってもいいのではないでしょうか。自伝的といっても、そこはアリス・マンロー、ひと味違います。というのも、自身のルーツを数世代遡って調べ、それぞれ短編として切り取っているのです。なので、ノンフィクションに近いそうですが、細かな部分は小説的に書き換えているので、完全に事実ではないようです(自伝小説ではなく自伝"的"小説です)。
 75歳のときに出版されたことや内容からも、かなりノスタルジックな雰囲気があります。序盤はまるで史実を読んでるようで、いくぶん重たく感じるのですが、徐々に小説らしい筆致になっていき、アリス・マンロー節をしっかり味わえます。

 しかし、帯に「これがわたしの最後の本」とありますけど、これ以降も何冊も出てるんですよね。辞める辞める詐欺?

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