『MONKEY vol.15』

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 柴田元幸が責任編集長を務める雑誌MONKEYの最新号です。6月発売なのでわりと時間が経ってしまいましたが、内容がすばらしかったので触れずにはいられません。

 毎号興味深い特集と高い質が保たれている雑誌ですが、今号は群を抜いていました。隅から隅まで読んでしまうほどに。

 特集は「アメリカ短篇小説の黄金時代」です。

 村上春樹訳ジョン・チーヴァー5作品(+エッセイ)と柴田元幸訳の短篇4作品(シルヴィア・プラス、ウィリアム・ゴイエン、チャールズ・ブコウスキー、ジェームズ・ボールドウィン)が50年代もの、さらに柴田訳でお馴染みのバリー・ユアグローの掌篇とスティーヴン・ミルハウザーの短篇、村上×柴田対談、ユアグロー×川上未映子対談と充実のラインナップです(宣伝文句みたいになってきました)。

 名前は知っていても読んだことのなかったジョン・チーヴァーとジェームズ・ボールドウィンが個人的に大当たりでした。これをきっかけにして読んでみようと思います(ちなみに、村上訳ジョン・チーヴァーの短篇集が今秋に出るようです)。

 シルヴィア・プラスは『ベル・ジャー』を読んだだけで、あまり興味を惹かれてなかったのですが、掲載作はよかったです。ブコウスキーは一時読み漁ったので良作と駄作を知っているつもりですけれど、掲載作は良作でしたね。

 そして、ジェームズ・ボールドウィン。
 被差別者であることがどういう心理状態を引き起こすのか、それは「苦悩」などという紋切り型の表現では言いあらわせないほどに入り組んだ感情なわけですが、その心理を余すところなく描ききっています。黒人とかそういう次元を超えて多くの人に届く普遍的な文学です。

 それにしてもこのラインナップは目利きのなせるわざでしょうね。数ある中からおもしろい作品をピックアップできるのは、柴田元幸の懐の深さです。
 作品自体の力ももちろんありますが、半世紀以上前の作品を生き生きとした「現代文学」として読ませるには、時間の重みに耐えうる良作を見つける目が必要です。
 柴田元幸が関わるアメリカ文学ものはまず外れがないです。安心の柴田印。


こちらに柴田元幸のインタビューが載ってます。
https://www.sinkan.jp/news/8713?page=1
MONKEY編集の裏話が聞けて、なかなかおもしろいです。

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