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HRBPの “P” はPartner? それともPromoter?

こんにちは。デザイン会社グッドパッチで人事責任者をしてます「チャッカマン」こと井出です。今回は2回目ということで、「HRBP」をテーマにお話ししたいと思っています。

前回書いたNoteで自己紹介した通り、私はグッドパッチに入社するまで、メーカーや再エネ事業開発/運営会社で人事をしていました。業界は違えど、人事を通してビジネスを支える、HRBPのような役割を担っていた点は変わりありません。

とはいえ、一般的な事業会社とグッドパッチのようなクライアントワークの企業では、HRBPに求められるふるまいは大きく異なります。今回は事業会社とクライアントワークの会社、両方を経験した自分なりに、その差を考察してみたいと思います。


事業会社と人月モデルの会社では、HRBPの「P」が違う

結論から言ってしまえば、「やっている仕事そのものは同じでも、ビジネスとの距離が全然違う」という感覚を抱きました。

事業会社に所属していたときは、HRBPといえばHR Business Partner。そう、パートナーという表現がとてもしっくりきていました。「自分自身が、PLに直接的に貢献する仕事をするわけではないから」です。

事業のコアはモノや工場といったアセットであり、人事はあくまで“人を介して”事業に貢献するという立場。アセットそのものに対して、直接的な影響を及ぼす仕事ではありません。

また、「バックオフィス」という言葉はあまり好きではありませんが、事業との距離感を表す表現として、しっくりしたものを感じていました。

事業会社とクライアントワークの人事の役割の違い

一方、グッドパッチは人月モデルのビジネスです。キャリア上、初めての経験でしたが、結果としてHRBPの考え方が大きく変わりました。それは「HR Business Promoter」。ビジネスの推進者というわけです。

人月モデルの場合、人そのものが売り物。モノや発電所といったアセットはありません。敢えてモノづくりに例えれば、採用は「仕入れ」、人材育成は「商品開発」、退職率低減は「プロダクトライフサイクル」を長くすること──といったところでしょうか。

採用が事業計画の達成にダイレクトに影響しますし、ソリューションのバリエーションを増やす、といった中長期の戦略においても、それは「人材ポートフォリオ」の変化と同義です。つまり、人事戦略がほぼ事業戦略と重なることを意味します。

これまでの会社でも、「経営スタッフの一翼を担う」という意味では、それなりに事業全体を俯瞰して、人・組織の面で課題解決を推進することはやってきた自負はありますが、今が最も「事業経営に直接的に携わっている」という感覚を持って仕事をしていることは間違いありません。


誰が事業を伸ばすのか? 人材と事業成長の関係性

ビジネスモデルによって、人材とビジネスとの関係性が異なるということがお分かりいただけたと思いますが、さらに踏み込んで、「誰が事業を伸ばすのか?」という観点で、事業モデルによる違いを見ていきましょう。


事業会社では「トップ20%の人材」が全体を引き上げる

事業会社だと、商品・プロダクトに対して、各職能がチームとなって商品プロセス、顧客プロセスに向き合い価値創造をしているので、チームの中でも貢献の大きい人、小さい人といった差は生まれがちです。「Top2割の人材が、価値の8割を作る」なんて話も聞きます。

仮に上記の通りだとすると、トップを引き上げてくれる優秀な人材を優遇することは、事業モデル上、全体最適にも資すると言えるでしょう。


人月モデルでは全員の総和が全体をつくる

人月モデルにおいては、一人一人が人月単価で売り上げを立てます。そのため、超優秀な人が1人いたとしても、月の売上にそこまで大きな差は出ません。

したがって、人月モデルにおける経営では、一人一人にしっかり向き合い、パフォーマンスを上げてもらう必要があります。特定の誰かではなく、皆がしっかりパフォーマンスしてこそ、会社全体の売上も成長していくのです。ここは、人事の仕事をする上で決定的な違いがあると感じています。

私は、一人一人を大切にしたいし、「人に向き合う仕事」はこれからも自分の中でブレな軸として大切にしたいと思っています。どの事業モデルの会社にいても、人に向き合うことを軽視したことはありません。

ただ、「人と組織の課題解決で、会社(事業)を成長させること」が人事のミッションである以上、事業特性を踏まえて、誰が事業成長をさせるのか、は冷静に見極めていく必要があると考えています。


人月モデルの人事が直面する難しさと面白さ

両者を比較すれば、社員全員を相手にする分、人月モデルビジネスの企業の方が、HRBPの課題は複雑になりがちです。ここからは、人月モデルビジネスにおける人事の仕事の難しさや、面白さなどをさらに深ぼって見ていきたいと思います。


スケールが難しい

人月モデルは爆発的にスケールしないと言われます。商品が人なので、工場で大量生産できるわけではないですし、デジタルサービスのように、ユーザーが爆発的に増えることで、売上が一気に跳ねることもありません。

人を採用するにも、多大な時間とコストがかかりますし、育成も同じです。手塩にかけて育てたメンバーが、ある時「やりたいことが見つかったので退職します!」と爽やかに他社に行ってしまうなんてことも起こります。

クライアントワークの世界では、同じ人が、ある日から突然違う会社の帽子をかぶって仕事をすることは普通にあるのです。


同じ人は一人もいないし、パフォーマンスも安定しない

人は生まれてからこの方、同じ環境を歩んできた人なんて一人もいません。同じスキルを持っているように見える人も、価値の源泉にある幼少期の原体験は、全く異なっていますし、性格や適正も違います。

だからこそ、採用からオンボーディング、成長支援、定着、全てのプロセスにおいて、どこまでいっても型化しきれない“一人一人に向き合うこと”が問われます。

また、人は感情の生き物です。持っているスキルをベースに常に100%のアウトプットを出せるという保証はありません。置かれた環境、アサインされた仕事、人間関係などによって、期待以上のパフォーマンスを発揮することもあれば、むしろ組織に悪影響を及ぼし、マイナスになることもあります。

こうした「再現性の無さ」を面倒なことと思うのではなく、無限の可能性を秘めた新素材と向き合い、商品価値の源泉たる可能性に火をつけられると思うと、私はとてもワクワクします。


とんでもないパフォーマンスを出すことがある

再現性がないということは、逆に突然信じられないようなパフォーマンスを発揮することもあるということです。

モノづくりでは、同じ仕様の部品を標準化された工程で作っていけば、基本的には同じ品質の商品ができます。高すぎるパフォーマンスが出てしまうことは、バラツキとみなされて許容されません。

モチベーションスイッチがカチっと入り、環境も仕事もハマって──こういった事象が見られるのは、人間が商品として仕事をしているビジネスならではの醍醐味です。


「標準化」か「ブティック化」か? コントロールが難しい人月モデルの舵取り

人月モデルにおける人材のコントロールは難しい。それでは、このモデルを前提にどういう会社づくり、事業づくりをしていくのかについて、さらに踏み込んで考えていきましょう。

人月モデルでぶつかる難しさの壁の代表的なものに「スケーラビリティ」があります。これを乗り越えるには、サービスソリューションの型化と横展開を考えていく必要があります。

つまり、誰がやっても同じフロー、同じプロセスで同じ課題解決をできるようにすることで、採用のハードルが下がり、育成もしやすくなり、スケールがしやすくなります。

一方で、行きすぎた標準化/型化は一人一人の独創性や創造性が失われてしまう、つまり、人間が商品であることならではの面白さや可能性の部分が失われるリスクがあります。このトレードオフをどう乗り越えて、事業を成長させていくかは経営や人事が直面する最も難しく、やりがいのあるテーマだと思います。

グッドパッチはクライアントワークを生業にするデザイン会社でありながら、上場するという快挙を遂げました。一般的に人月モデルでは難しいスケーラビリティとブティック型を両立させた、という言い方もできるのではないかと思います。

グッドパッチでは創業当初からノウハウの共有を徹底的にしながらも、組織運営のコンセプトはオープン&フラットで組織内の情報格差は作らず、一人一人が持っている持ち味・強みをベースに個々のクライアントが抱える課題に対して期待を超える付加価値提供をする、そういった事例を愚直に積み重ねて大きくなってきました。

「もっと標準化に振り切った経営をすれば、さらなるスケールも可能では?」という意見もありますが、そこは代表の土屋さんが「それは分かっているが、自分はそういう会社にしたくない」という強い意志を持って経営をしています。

彼の根源的なモチベーションは「人の成長機会を与え、成長を目の当たりにすること」にあり、人間中心の経営をしていく、という哲学があります。

私もこの考え方に強く共感をしています。


「事業モデル」と「経営哲学」が、人事の役割を定義する

ここまで見てきたように、人月モデルがゆえに、一人一人の成長・貢献が大事なことは明らか。一方で、人月モデルであっても、スケールとユニークネスのどちらを優先するかといった観点ではトレードオフも発生し得るため、経営者のスタンスが問われます。そして、それに応じて人事の役割も変わるのです。

私が就活をしていたときは、文系だったこともあり、メーカーだけでなく、広くさまざまな業界の仕事を見ており、その中にはコンサルなどクライアントワークの会社もありました。

当時は人事ではなく営業を希望していたので、職能に分かれた大きなチームで、役割分担しながら一つのモノづくりにコミットして、お客様に届けていくメーカーの仕事が自分には合うように感じ、徐々に志望業界をメーカーに絞っていきました。

ところが、人事配属となると、フロントで事業そのものに直接的に関われないもどかしさや、優秀人材に優先的に投資を行っていく経営スタイルにもどこか自分の価値観にそぐわない部分を感じていました。

そんな私にとって、人月モデル&人間中心の哲学を持つグッドパッチでの仕事は、パートナーではなくビジネスプロモーターとしての新しい世界を切り拓いてくれました。一人一人に向き合い、個を活かすスタンスで仕事をできる環境は自分の価値観にもFitしているように感じます。

一方で、事業モデルによって人事の役割は異なるし、人への向き合い方も必然変わってくるということも学びました。「人と組織の課題解決を通じて、事業成長を実現する」のが人事の役割なので、その事業における人事の役割を理解して、それを全うすることが何よりも重要ということだと今は考えています。


おわりに

今回のNoteを読んでグッドパッチの人事で働いてみたい!と思ってくださった方がいらっしゃれば、ぜひお声がけください。カジュアル面談からお話しさせていただけたらと思います。オープンしているポジションは以下のリンクからご確認ください。


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