湖のほとりの夏のおうちサウナ。

フィンランドといえばサンタクロースが有名らしい。が、その上を行くのがサウナではないかという話もある。私は日本でサウナに入ったことはありませんでした。だから私のフィンランドでの初めてサウナが、すなわち生まれて初めてサウナでした。

フィンランドに縁ができてしばらくしたある日、夏にフィンランドに来るならと、知人の知人の夏の住まいへ招待されました。「サウナに入りおうちでご飯を食べる」豪華な半日コースです。小さな市から、車の幅だけ空いている草ぼうぼうの道をごとごと車でゆられていくと、湖のほとりの夏の小屋に到着します。「夏の別荘」というと、私にはふと「軽井沢」=「素敵な古風なお屋敷」みたいに脳内変換されるのですが、ここは木組みの大き目の普通の家、といったところでした。「小」屋と言うほど小さくもなく、屋敷というほど大きくもなし。夏の小屋、コテージ、別荘、セカンドハウス・・・いろんな訳があるようですが、Mökki とフィンランド語で言いますから、もきっという響きを映しやすいのは木の小屋?無理に音を日本語化するとモッキですが、この母音は日本語にない音です。

普段は街に住んで仕事をし、夏の間だけ住むのがmökki。それなら、シンプルな家でもいい。セカンドハウスというのは実のところ、常に住む家かどうかによって税金が違ってくるとかなんとかというのが最近耳にした話です。これではいきなり現実的な話になってしまいますし、まだよく知らないのでパスして続けます。

入り口への階段を上がってすぐに、テーブルのあるテラスがあります。そのまま家に入ると玄関スペース、その横が台所です。おうちを背にするとテラスからは湖をながめることができ、再び階段を降りて数メートル歩くと水際です。水際近くの地面は、もうなんとなく半分水に潜り込んでいるようで、ふわふわんとした感触です。

その昔の日本家屋のお風呂は、家の外から薪をくべ火を燃やしてお湯にしたそうですが(実体験はありませんが)ここの「おうちサウナ」も、薪をくべるタイプでした。サウナ部屋と着替えの部屋の外に、サウナを温める薪をくべる炉が、家の中に設置されています。おうちの方がそこに薪を入れてサウナを温めてくださいました。

フィンランド式のサウナの知識はゼロ。一緒に入った方が教えてくれたのは「サウナに入る前に体を洗うこと」でした。そしてここには湖がありますからサウナから出たら「湖へどっぽん」です。私は泳ぎに自信がないし、水着ももってきていなかったという言い訳で、サウナのみを、しかも一回だけ楽しみました。当時小学生だったわが子もサウナ参戦しました。「あついあつい」と騒いでは、サウナから出たと思ったらそのまま駆け出し「湖へどっぽん」。そしてまたサウナへ戻り、熱いあついといいつつ、何度も往復していましたから、相当楽しんでいたのです。小さな湖の周囲には数件の住まいがありましたが、とても静かでした。湖の住宅ではうちの子が一番騒がしかったかもしれません。

私は湖にとびこまない代わり、ボートに乗せてもらいました。水に近寄るのは久しぶりです。ボートに乗るだけでも、長い間泳いでいないので、もし落っこちたら・・・と緊張します。周囲に家があってもなぜだか静まり返っていて、聞こえるのは静けさという音のみ。


水遊びを終えておうちに戻ると、テラスが台所がわりとなって、男性陣がじゃがいもをコトコト煮ていました。水道が通っているのかどうか、ジャガイモを煮るのは、どこからか汲んできた水だそうです。おいもが小さめの新じゃがだったことだけよく覚えています。炊き立てのジャガイモ、サラダ等、シンプルないろんなものを用意して下さり、いいお天気の中、水のほとりでおいしくいただきました。

当時の私の英語は20年放置しておいたものを紐解いたところ、フィンランド語はまだできず、緊張していたせいか、思い出せるのはこんな風景と音です。夏のセカンドハウスであっても特におしゃれな感じはなく、ふだんの「フィンランドの夏」の生活なんだろうなあ、と思った次第です。

フィンランドでは、6月21日の夏至の前後は、多くのところがほぼ白夜状態。子供たちの学校は6月にはもう夏休みに入ります。バカンスをこの時期にあわせてとる人も多いことでしょう。長い冬のあと、夏は5月からぐんぐん加速してやってきて、6月は「夏の月」と呼ばれます。一日中昼しかないような日々に、勉強しろとか働けと言われても、無理かもしれません。夜というくらい時間はわずか。一日がいつ始まって終わるのかはっきりしない時期を、時間に追われずのんびり過ごす。夏のおうちは、バカンスという「時間設定」があるから意味をもつ場所なのかもしれません。

街では、開放感からか、酔っぱらいも多めに出現し、街もいつもよりにぎわいます。ふだん街中に住んでいる人なら、そのにぎやかさも避けたいかもしれません。フィンランドは一般的にしずかで、人々はマイペースで過ごしていると想像をしていたのですが、実際には思ったよりストレスもあるようです。夏の住まいは、さらに静かで、ストレス解消にも役に立つのでしょうか。

それにしても「何もない」この夏の小屋でフィンランド人はなにをするのでしょう。読書?ぼーっとする?「うちには電気も来てない」という人もいます。一日中明るいから本は読めます。どうしても必要があればろうそくで充分なのでしょうか。最近の傾向を見ているとSNSを使う人も少なくなく、素敵な写真がたくさん出てきますから、それを見ていれば夏のおうちがなくとも、なんとなく湖のほとりで生活している気分に・・・なれる・・・かな?

書き忘れましたが、水が来ていない可能性あり、ということはつまり、トイレもちょっと特別ということです。お邪魔したおうちには、トイレも家の中にありましたが、そうでない場合、トイレは1m平方もない「別棟」かもしれません。どっぽんではなく、下にバケツで受け止めます。バケツの底には葉っぱがしかれていて、おどろくほどにおいがなかったりします。音楽祭の屋外会場近くには、こんな臨時トイレがいくつか設置されていました。そういえば長距離バスのトイレもあまり臭わなかったような・・・また機会があったら再確認したいと思います。

一週間や一か月間、夏の住まいを借りる人もいます。もちろんホテルよりお得。仲間で借りて、音楽の練習をしちゃったりする人もいます。大人数でサウナに入るのが楽しそうです。

街にはサウナのあるアパートもあります。電気式で、希望の時間前にセットして温めます。おうちサウナ。いつでもサウナ!とはちょっとうらやましい。私もこういったアパートを借りたことがあります。一人の気楽さで、毎日、サウナに長居をしていました。コロナのためおうちでお仕事という方の中には、集中したくて家族と離れて一人になれる場所を求め「サウナ部屋にパソコンを持ちこむ」方もあるそうです。いえ、常温です。

私が今住んでいる部屋にはサウナはありませんが、アパートには共同サウナがあります。いろいろあって、個人使用の定期予約が遅めに取れ、ああ、久しぶりにサウナに入れたあ!と思ったら次の週にはコロナタイムに突入しささっと「使用禁止」になってしまいました。これが2か月間以上続きました。お風呂に入りたいと泣くことはなくとも、サウナに入れず泣く私です。


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