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BuzzFeed編集長から老舗ものづくり企業に転職して、やっぱりメディアはじめました。

2022年3月に、5年半つとめたBuzzFeed Japanを退職しました。次の挑戦は、老舗ものづくり企業でのメディアづくりです。

そしてこのたび2022年8月10日、新しいウェブメディア「 OTEMOTO [オ・テモト] 」を創刊しました。

私は20代で新聞社、30代で週刊誌、40代でネットメディアと場所を変えながら、約20年にわたって記者や編集者として働いてきました。

ものづくり企業に転職したのにまたネットメディア? と思われるかもしれません。オウンドメディアってこと? いいえ、違うんです。

今日は、なぜ私がものづくり企業に転職したのか、そしてなぜまたメディアづくりをしているのか? の背景をお伝えできればと思います。

BuzzFeedで気づけた「情報は資産である」

BuzzFeed Japanには、日本版の創刊から半年後の2016年9月に入社しました。

日本でまだ「国際女性デー」が知られていなかった2017年に特集をスタートしたり、#metoo の声をあげる女性たちの取材に打ち込んだり、番組やオンラインイベントを企画したりと、手をあげれば何でも挑戦させてもらえる会社でした。

ニュース部門の編集長を経て、2020年11月からBuzzFeed Japan編集長を務めました。2021年5月にはハフポストと合併し、従業員数は入社したころの約5倍になっていました。

私が退職する前の月間サイト訪問者数(UU)は、両メディアで延べ約5900万人。ページビュー(PV)はそれをはるかに上回っていました。収入に直結するPVに、会社の存続がかかっていました。

多くの方に読んでいただくために、メンバーとさまざまな工夫をしました。特集を企画したり、難解なテーマをクイズ形式で解説したり。具体的な工夫については朝日新聞社のJournalismに寄稿した文章がネットで公開されていますので、関心ある方は読んでみてください(一部有料)。

毎日が実験のようでやりがいもあった半面、そうやって必死に注目を集めても情報はどんどん流れていくため、読んでもらえる期間はごくわずかだということも実感しました。

なんだか情報の大量生産・大量消費に加担しているようで個人的には違和感を覚え、「人々の消費生活に革命を起こす」という大きなミッションを掲げ、質的な再定義をしたりもしてみました。結果的に、メンバーには理想(ミッション)と現実(PV)の両方を押し付けていたかもしれません。この矛盾を解消できなかったのは、私の力不足だったと反省しています。

一方、取材先の企業や広告を出稿してくださるクライアント企業からは、短期的な利益の追求だけでなく、ビジネスを持続可能にするために奮闘しているエピソードを聞く機会が増えてきました。SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、国や経済界の動きも活発になってきていました。

自社のビジネスが持続可能な社会の実現に貢献する企業もあれば、矛盾してしまう企業もあります。例えば、ペットボトル飲料を製造販売している飲料メーカーであったり、大量生産で低価格な商品を売る雑貨ショップだったり。女性向けのサービスが売りなのに、女性管理職を育てることができていないという企業もありました。

こうした矛盾を抱える企業の多くは「仕方ない」で終わらせてはいませんでした。これまでのビジネスの常識を覆そうと、業界や消費者を巻き込みながら新たな価値観とともに前進していく様子は、まるで「プロジェクトX」。ひとりの生活者でもある企業人たちが「暮らしたい未来」を真剣に考えているからこそ、覚悟と自信をもって進めることができたのでしょう。

誠実で健全な企業活動は、消費者の共感を呼びます。結果的にビジネスとして成功する企業や、パーパス型のCMがバズってメディアが後追い取材をするような企業もありました。

「暮らしたい未来」に向けて企業人が本気でアクションを起こした結果、企業の発信に共感した人が商品やサービスを利用し、企業は儲かり、社会もよくなっていく。これって、最高では…!

「社会課題とビジネスの接点で、矛盾にも向き合いつつ、情報を生み出すことに挑戦したい」

これが、私がメディア業界から事業会社に転職しようと思ったきっかけでした。

(実際に事業会社に入社してから感じたこともたくさんあるので、また次の機会にじっくりお伝えできたらと思います)

photo by Juli Yashima

「それって本当にあなたのやりたいことなの?」


そしてご縁をいただき、いまは株式会社ハリズリーで働いています。

ハリズリー……聞き慣れない社名ではないでしょうか。工房系ランドセルで有名な老舗革製品の「土屋鞄製造所」をはじめ、ジュエリーやガラスなど複数のブランドをグループにもつ会社です。ちなみに社名は「針摺色(はりずりいろ)」からきているそうですが、どんな色なのか入社するまでまったく知りませんでした。

ハリズリーは、「温故創新」というミッションのもと、モノの価値の創新と新たな文化の創出を繰り返しながら、「つかい手も、つくり手も、豊かな社会」をめざしている会社です。

私はいろいろな企業の「Mission & Value」をウォッチするのが大好物なので、ハリズリーのコーポレートサイトを見た瞬間に、ここに入社したい!とビンビンきました。

うちの息子も娘も土屋鞄のランドセルを愛用しており、ものづくりの技術にはもともと信頼を寄せていたのですが、会社のことを詳しく知るうちに興味深いな、と思ったのは投資事業があることでした。

先見性のある国内外のD2Cブランドや小売産業の周辺領域に投資をすることで、成長企業を支援すると同時に、新しいビジネス手法を自社に取り込み、伝統的な技術とかけ合わせてものづくりを進化させていくビジネスです。

例えば、土屋鞄製造所は2022年5月、米Bolt Threads社と資本業務提携し、キノコの菌糸体由来のレザー代替素材「Mylo™(マイロ)」を使用した新素材モデルを、国内で初めて開発しています。

また、グループ会社である株式会社ドリームフィールズのジュエリーブランド「BIZOUX(ビズー)」は、「ラボグロウンの宝石(人工宝石)」を使ったサステナブルなシリーズを立ち上げています。

あとは、NFTを使っておもしろいことをやろうとしている事業部があったり、調達や廃棄物に関してもサステナブルな取り組みをしていたり……。

グループ内の事業や投資先がすでに先駆的なビジネスに取り組んでおり、ブランドサイトやプレスリリースで積極的に情報発信もしているのです。

ここでいざメディアを立ち上げるとなったときに、どうするか。私は悩みました。すでにグループブランドに誇れる取り組みがたくさんあるのだから、オウンドメディアでもネタは満載じゃね?と。

オウンドメディアっぽい企画書を準備して、土屋成範社長に初めてのプレゼンをした日。土屋社長からかけられた言葉は、「それって、本当に小林さんのやりたいことなの?」でした。

求められていたのは、事業におもねるような甘い考えではありませんでした。欺瞞や偽善、安直さなど、すべての浅はかさを突きつけられた思いでした。それから数週間かけて、企画書を練り直しました。

グループブランドの広報や宣伝とはいったん切り離して、さまざまな角度から社会課題の現在地を伝え、新たな文化を創出していくというメディアの方向性が固まりました。

さて、企画書ができても、ひとりでメディアをつくることはできません。

ネーミングやデザイン、システム、法務、財務、人事、各ブランドの責任者など、たくさんの同僚がそれぞれの専門分野でサポートしてくれました。相談するたび、土屋社長と同じように「アッコさんはどうしたいの?」と問い、叱咤激励してくれました。「暮らしたい未来」に向けて本気でアクションを起こしている企業人の強さを目の当たりにしました。

最近はランドセルについても重さや色、素材、選択の自由をめぐって、さまざまな議論があります。57年間ランドセルを真剣につくり続けてきた老舗企業だからこそ、時代の変化にあわせて長く必要とされるものを見極め、確かな技術によって形にし、届けるところまでを一貫してできます。行動して未来をつくるのは自分たちなのだという自負が、同僚たちの仕事ぶりから伝わってきます。

適正な利益を追求しつつ、社会的責任をどのように果たしていくか。これはブランドだけでなくメディアにも強く求められているということを改めて突きつけられ、身が引き締まる思いです。

OTEMOTO [オ・テモト] にこめた想い

こうして無事、産声をあげることができたメディアについて、最後に紹介させてください。

「いつも視点は、手もとから」

OTEMOTO[オ・テモト]は、誰もが尊重され、自由な選択ができる豊かな社会をつくるために、新たな視点を提案するウェブメディアです。

スマートフォンでのぞけるインターネット空間にはさまざまな情報が溢れていて、いまは誰もが情報生産者になりえる時代です。

私はこれまでの経験から、情報発信の力に無限の可能性を感じています。

価値ある情報は、歴史に残り、未来をつくります。生きづらさを感じる誰かの希望になったり、世界をよりよく変えるきっかけになったり。暴力や差別を再生産しないためにも、情報が「資産」として残り続けることが大切だと思っています。

私たち OTEMOTO がめざしているのは、「人もモノも大切にされる社会」「自分らしさを自由に表現できる社会」です。

サイトは「つくる」「つなげる」「はぐくむ」の3つのカテゴリで構成し、ものづくり、コミュニケーション、多様性、環境、子育て、教育、ビジネスなどを主な切り口として、いまを生きる人たちの営みにフォーカスします。

詳細はこちらのプレスリリースにありますが、少しだけ、記事を紹介させていただきますね。

下町の銭湯をよみがえらせた話

子どもと趣味が合わないときに読みたい

産後つらいのはあなただけではないから

職人さんの哲学が私たちに何を教えてくれるかは、こちらのnoteが詳しいです

時代の変化をとらえ、多様な価値観を包摂し、社会課題に向き合っていく。ひとりひとりの読者にとって、新しい視点や課題解決のきっかけになるような情報をお届けしていきます。

関心をもっていただける方はぜひ、一緒に盛り上げていただけるとうれしいです。

・記事掲載、広告出稿のお問い合わせ    contact@o-temoto.com

・取材依頼、プレスリリースのご連絡     info@o-temoto.com

メディアのネーミングとロゴデザインは、土屋鞄製造所でクリエイティブに携わる同僚たちが、たくさんの素敵なアイデアを出してくれました。

いつもスマホに落としている視線を、10年先、30年先、50年先の未来に向けることを意識したいという思いから、OTEMOTOを選定しました。ものづくりにちなんだ「手」のイメージや、2つの「OT」に「EMO」が挟まれているところも、個人的にエモいポイントです。

シンプルなのに温かみと奥行きのあるサイトを制作してくれたのは、ネクスキャット株式会社さんです。代表取締役の千歳絋史さんがローンチ記念に関係者にプレゼントしてくれた「O」の形の鋳物の箸置きを、ついに使える日がやってきました。

富山県高岡市の「能作」の箸置き

Business Insider Japanの吉川慧記者は、入念なリサーチのうえ取材し、言葉になりづらい思いを記事にのせてくれました。

ここまで、本当にたくさんの方に助けていただきました。図々しくも面識のない社外の方にまで「ちょっと教えてください〜」と連絡して、時間をとっていただいたこともありました。人の温かさを実感した数カ月間でした。

支えてくださったすべての方に感謝しつつ、みなさまから愛されるメディアになるよう成長させていきます。

これから、どんどん新しい記事を公開していきますので、ぜひ最新情報をTwitter(@otemoto_media)やInstagram(@otemoto_media)などからチェックしてみてください。

このnoteの持続可能性にはちょっぴり自信がないのですが、まだまだたくさんお伝えしたいことがあるので、できる限り書いていけたらと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

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