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簡単書評: 「アフターデジタル」を読んで

仕事上、日系大企業のデジタル/AI活用を推進している者として、気付かされたのでぜひ一読してほしい。購入しない場合にも、以下のレビューを読んでエッセンスと著者の主張を聞いてもらいたい。

もともとこの本は、Twitterでアフターデジタルが良いというツイートを見て、店頭で購入し2日で読んだものである。


1.総評

決して中国の事例が正解であり、すべて日本に取り入れるべきと擁護する立場ではなく、デジタル活用の文脈で単純に先行しているという意味で、以下の評価としている。

デジタル活用や最先端のテクノロジーは米国発の事例が多く書籍等で紹介される中、中国の先進的な事例が豊富に取り入れられ、隣国に住む者としては現実を突きつけられる。

決済、自転車、タクシー、保険など身の回りで起きている最新の顧客体験の変化事例を知ると同時に、今後日本でどうビジネスに活かしていくべきかを考えさせる一冊である。

2.サマリー

日本国内でのデジタルに関する取り組みのほとんどは、筆者の言い方を借りれば「逆OMO」的発想、すなわち「オンライン/オフラインの境界を前提とした、オフライン起点での部分的なオンライン化」に過ぎない、と言える。

リアルな世界に生きるユーザー(顧客)にとっては、部分的なデジタル化がもたらす顧客体験の変化・目新しさは低く、結局「あまり変わらないじゃん」という結論になり得る。

既存ビジネスであれ新規ビジネスであれ、End-to-endで顧客の一連の体験を想定し、各顧客接点で蓄積されたデータをフル活用し、最適なアプローチで、顧客の体験価値を高めた者が生き残ることができる時代となっている可能性を示唆している。

3.この本のNPS(推奨度)

AI、IoTに限らず幅広くデジタル活用を推し進めているような企画関連の仕事あるいは、コンサルティングを行っている方にはぜひおすすめしたいため、推奨者の9を付ける。それ以外の方でも、隣国(中国)でどのような身の回りの変化が起きているのか知るためにも十分に読む価値はある。

*NPS(Net Promoter Score):「0~10点で表すとして、この企業(あるいは、この製品、サービス、ブランド)を親しい友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問に対する点数で、10 - 9を推奨者、8 - 7を中立者、6 - 0を批判者と分類する。



4.本書のポイント1

ー「オフラインとオンライン」から「オンライン merges オンライン」の世界へ

将来的にはあらゆるものがデータとして取得されるため、オフラインが存在しなくなる。それらの典型的な例は以下の通り。

決済領域では、アリペイ(中国モバイルペイメント業界で54%のシェア)、ウィチャットペイ(MAU10億人)。シェアリング自転車では、配車では、ディディ(中国版Uber)。個人の信用スコアリングでは、ジーマクレジット(アントフィナンシャル)。保険では平安保険、など先進的な事例が紹介されている。

たくさんの事例が示唆することは、

「デジタルと行動データを駆使して、最適なタイミングで最適なコミュニケーションを取れるようになり、全体的な営業工数や負担はむしろ減り、効率化されます。これによって空いた時間は、より信頼を創るコミュニケーションに当てることで、ユーザー側にも企業側にもメリットがある仕組み」(P41)

になっているということである。

5.本書のポイント2

ー Before digitalからAfter digitalへ

Before digital:リアルとデジタルが少し重なり合う世界
After digital:デジタルの中にリアルが包含される世界

After digitalの世界では、リアルはツールの1つに過ぎない。デジタルの方がマッチング度やコミュニケーションハードルが低く、人間関係を築きやすい。一方でリアルな接客や対面は、より高い体験価値や感情価値が求められるとしている。

その上で、うまく次の3つを使い分ける必要があると主張している。

ハイタッチ:訪問、会議、勉強会など個別対応するリアル接点
ロータッチ:ワークショップやイベントなど同時に複数対応するリアル接点
テックタッチ:メールやオンラインで量産可能な接点

そして、企業が生き残るためには「いかに高速に、顧客接点データを活用し、より良い顧客体験(エクスペリエンス)に変えられるか」が重要である。

6.本書のポイント3

After digital時代における思考法として「OMO(Online merge Offline)」が提唱されている。

OMOを2017年9月頃から提唱した李開復は、OMO発生条件として、以下の4つをあげる。

1.スマートフォンおよびモバイルネットワークの普及
2.モバイル決済普及率の上昇
3.幅広い種類のセンサー
4.自動化されたロボット、人工知能

企業がデータを集めた先にどうするのかという問いに対しては「データをできるだけ集め、そのデータをフル活用し、プロダクトとUXをいかに高速で改善できるかどうかが競争原理になる」とのこと。




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