ワンルームからこんにちは 2

【ワンルームからこんにちは 2】

夢も希望もない異世界ファンタジーってやつに放り込まれてとりあえず周りを見回したけれど、小さな商店の品揃えの悪そうな棚とそれから倉庫にも在庫がほぼないと言うことしかわからなかった。

前店主がなにを考えていたかなんて死んでしまったらしいからわからないし、さっきまで転がっていた死体らしきものも消え果てていてポケットなんかを探ることすら出来なかった。

なんとかヒントはないかと本棚を漁るが全くかけらも読めず絶望感しかない。

「あのお……」
「おじさん、まだいたの?」
「だって基本操作説明してないもの。」
「えー。」
「ちゃんと聞いて!」
「めんどくさい。」
「ぴえん。」

おじさんが言うには腕についている、え?いつの間に?なブレスレットの石をクリックすると眼前にメニューが出るからそれを操作して各システムを使う。
僕の場合システムバクなので振り分けポイントと軍資金多めにしといたからそれでチャラにしてくれ。

あとはまあ、頑張れ。

だった。そうか。おっさん糞か!

それからメニューを開き隅々まで確認し、振り分けポイントを駆使し文字を読めるよう知識吸収に全振りした。

「よし。」

棚にある本を全て読み、知識として蓄えてそれを元に魔力や体力を底上げし、また振り分けられたポイントで知識吸収に振り分けた。

「えっと、まず基本の薬草を作るためには……」

近隣を周り小型のモンスターを手持ちの棒で倒しつつアイテムを拾い薬草などを収集し店に戻る、そんな事を繰り返しレベルアップをしたら知識吸収に振り、あげた知識で町中の本を読み漁った。

「それじゃあ、今は使われてない防具だけどこいつを作れると……なるほど、あとタリスマンを作れれば魔力の底上げに……」

調べてフィールドワークをしアイテムを集めて錬成をする、そのアイテムで自分の能力を底上げしてまたフィールドワークに行く。
そんなことを繰り返し店の中はある程度商品が揃い自分もレベルがかなり上がっていて体力も魔力もそれなりになっていた。

「なんとかなるもんだな、一回セーブをして寝てから出直そ。」

メニューを開きセーブとログアウトを選ぶと軽いめまいとともに光に包まれて気がつくと自分の見慣れた部屋のPCの前にいた。

「うわ、戻れたわ。」

時間を確認すると2時間ほどしか経っていなくてびっくりする、ゲーム内では数週間はいたはずなのにと。冷蔵庫から水を出して飲んでからシャワーを浴びて布団に入る。トロリと落ちてくる目蓋に逆らわないで力を抜くと意識がすっと沈んでいく。

「あ、言い忘れたんだけど!」
「おっさん?」
「そのうち依頼の手紙とか行くからそれをこなしてね?そうすると色々プレゼントできたりするから。あとねぇ……」
「うるさい。」
「え?」
「寝てるんだから帰れ。」
「えぇえ?」

困惑したままのやつを追い出して睡眠を貪り起きてから食事を軽く済ませて時間を見ると昼前で、現実の仕事をちょいちょい片付けながら考える。

「アレはもしかしたら全部夢って可能性もあるよなぁ。」

コーヒーを淹れてPCの前に改めて座りゲームのアイコンを画面越しにつついた。こいつが異世界の扉ってことになるけれどそんなご都合主義あるかよと。

と、人がゲームに入れるなんてラノベじゃねぇんだからとしか思えない。コーヒーを啜りながらアイコンをクリックして読み込みを待つ、画面にはスタートの画面とダウンロードのバー。

「普通なんだよなぁ。」

スタートボタンを押してオープニングが始まるからスキップして、画面に映し出されたのはあの店に立つ自分のキャラクターだった。

「あれ?普通にゲームが始まった?」

マウスにキーボードを操作して一通り動き回り普通に操作出来ることを確認して店の外に出る為にドアをクリックすると、目の前の画面が強く光出した

「え?」

眩しくて目をつむりくらりと揺れる視界と頭の中。落ち着くまでじっとして薄目を開けるとあの店のカウンターの中に立っていた。

「マジで?」

とりあえず一通り確認するがセーブする前と一致する状況に夢ではなかったかと、改めて思った。店の中をチェックしながら揃えた商品に値段をつけ品物を並べ、とりあえず開店してみるとカランカランとドアベルの音が軽快に鳴り小さな人影がはいってきた。

「郵便でぇす!」
「郵便?」

店先に小さな子供が身体に似合わない大きな荷物を背負って立っていた。

「えっとー、運営からのお手紙と三通とー、あとは城主様からのunknown様宛にお手紙ですぅ。」
「unknown?」
「貴方ゲーム内のニックネームをデフォルトのままだからunknown扱いなんですよ。名前変更してくださいねえ。」
「そうかめんどくさいからとりあえずデフォルトにしたんだっけ。」

頭を掻きながら手紙を受け取り受取証にサインをしてカウンターに広げた。

「これを開くと物語が進む気がする。」

腕を組んで睨みつける。普段ゲーム中ならばさっさと開けて話を進めるのだがこの場合面倒臭い事になる可能性も否定できない。

「腹を括るか。」

ペーパーナイフを握りしめ、そっとため息をついて手紙を手に取った。
後は野となれ山となれとはこの事かなどと考えながら封を切る、何かあったらあのじじいぶん殴ってやろうと心に決めたことは秘密にしておくべきか悩むところだ。


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