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NHK文芸選評への投稿作・3月

3/2 俳句 選者:高野ムツオさん テーマ:東日本大震災
この回は締め切りが一週間早くて、出すのを忘れましたー笑



永劫の酸性雨なり兎の眼  高野ムツオ

兎の眼の赤は血管の色がそのまま見えているのですが、こう詠まれると酸性雨で充血しているとも思えてくる。原因には工場や車のガス以外にも火山ガスなど自然由来もありますけれども、酸性雨は大気を汚す人間に「答え」を返しつづけるのでしょう。酸性雨は私が小学生の頃に仲間うちで騒ぎはじめて、雨に濡れたら皮膚が溶けると怖れられていました。雨になるべく濡れないように注意して傘差してね。でもどうしても濡れるんですけど。

ところで、私、NHK俳句への投稿作・2月号②の回で高野さんの句を引用しました。

蓮根に空飛ぶ話もちかける  高野ムツオ
一生を泥の中で過ごす、あるいは天ぷらになって人間の胃の腑に落ちる運命の蓮根に空飛ぶ話をもちかけるというのは「石に花咲く」的なあり得ない行為に思えるのですが、高野さんにこんなユーモラスな句があるんだと私の中で発見でした。この句からことわざができました。「実際にあり得ないこと」=「蓮根空飛ぶ」。

この句はおそらく阿部青鞋の蓮根の句を下敷きに読まれているのかと思います。

蓮根は飛んでみたしと思ひけり  阿部青鞋

阿部青鞋の句って面白いなあと読んでて、この句を知りました。知ってたら一粒で二度おいしかったんですよね。ああ、不勉強で恥ずかしい限りです。


3/9 短歌 選者:梶原さい子さん テーマ:東日本大震災
死の予感ふるへつつ鑑賞してゐたり画面かなたの建屋の煙
雲、けもの、魚は知るのか大阪の迷いクジラが何の兆しか
地面とは豆腐のようなものであるビルと一緒に揺られたあの日


雑食の蛸であるゆゑ太すぎる今年の足を皆畏れたり  梶原さい子

作者の実家は気仙沼市の神社。津波で亡くなられた方を捕食して太った蛸、という意味かと思うのですが、こういう歌を読むと、自分がTVや新聞で得た情報で詠んで何の意味があろうかという気がしてくる。震災詠は詠むのも読むのもむずかしい。今回いいのが詠める気が全くしなくて、出すのやめようかと一瞬思いました。出しましたが。

震災詠はむずかしい。「読む」場合にも、すごく生意気を言うようですが、修辞のすごい、うますぎる作品はあまり響いてこないといいますか、……対して実際に被害に遭われたとか、何らかの形で被災者被災地に関わった内容の作品は、たとえ訥々とした読みぶりでも心に沁み込んでくる。ああ、本当に生意気でごめんなさい。

文芸選評では毎年この時期に東日本大震災をテーマに募集されていますが、選者は同じにして広く「震災」に広げてもよいのでは、と感じます。阪神や熊本、能登の被災者は、そっちの方が思い入れが強いでしょうから。


3/16 俳句 選者:津川絵理子さん 兼題:石鹸玉
石鹸玉はぐれ明日へゆくひとつ
間違えてドブに落ちたるしゃぼん玉
石鹸玉割ってすずしき自転車よ
夕風の大波小波しゃぼん玉


あけぼのや男雛の袖の松林  津川絵理子

雛人形の着物の柄に着目している作品ってあまり見たことがない。しかも、男雛。詠まれるのって圧倒的に女雛か女官のような。今回、私はじめて男雛を、画像でですけど衣装もふくめてまじまじと観察しました。お内裏様はお雛様におとらず皆さんお顔も衣装も雅で美しい。「光る君へ」のおかげで塩顔男子っていいなあと思うので余計そう感じるのかもしれません。袖の松林のむこうから日の光がさしこんでくる。男の子にとっても、まことにめでたい桃の節句です。


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