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NHK文芸選評への投稿作・4月

4/6 短歌 選者:穂村弘先生 兼題:猫
ねこ餅は猫のおもちにあらずして年末母と作るねこ餅
食べためし元に戻すは猫に戸を閉めるすべ学ばせるに等し
台所、お風呂、トイレの手洗い場あらゆる蛇口を記録する猫

われのあごねこのあたまにこすりつけずっといっしょにだい好きだよと
青森県 山口秀子さん

愛猫への想いを超ド直球で詠まれています。「好」だけが漢字で、あとはぜんぶひらがな。いかにも猫のあの、どのようにも曲がるやわらかい姿態が表現されているではありませんか。猫同士があごをこすりつけあうみたいに、私も猫の頭にあごをこすりつける。猫がわたしで、わたしが猫に、いっしょになっちゃうくらい大好きだよと。私の心にも超ド直球で来ました。


4/13 俳句 選者:池田澄子先生 兼題:春の風
春風を頼りないわと押し返す
春風の音符ぱたぱた告天子
唇と小虻くっつけ春の風
春の風ことりと死ねる一代記

春風や逆さまに干すエコバッグ
岡山県 水木楓さん

エコバッグが登場したころ、こんなめんどくさいの持ち歩くの絶対続かへんやろと思ってましたが、今では当たり前となりました。かわいいエコバッグ、たくさん売ってますね。ブランド物だってある。作者の思い入れのあるバッグなのかもしれません。汚れたら洗って干して、繰り返し使う。干し場を通り抜ける気持ちのよい春風です。


4/20 短歌 選者:寺井龍哉先生 テーマ:鍵
鍵盤をめちゃくちゃに踏む猫ありて構想された猫ふんじゃった
謎解きの鍵のキャラだと思ったら本当に鍵でつまらない本
「KPI0.2%下げましょう」言う本人も自信なさげなり
挿しこんで回らなかったら面白とアパートに深夜帰宅せし頃

課長だけ持つ鍵がありそれはまるで課長が鍵のようだと思う
神奈川県 久藤さえさん

この歌が気になるのは、現状、自分が課長苦手だからかもしれません(苦笑)。正確には自分含め多数 vs 課長なのですが。重要事項を展開しないで自分がいないと仕事が回らないようにする人、たまにいますね。そんな課長なのでしょうか(うちの課長は少し違いますが)。常になにか構えている。自分の責任じゃないよと予防線張ろうとする。近づけないけど、近づきたくもない。この歌も私の心に超ド直球で来ました。


4/27 俳句 選者:北大路翼先生 兼題:アスパラガス
アスパラガス一人一本余らすな
アスパラガス微塵切りとは味気なし
アスパラガス茹でたて揚げたて乳臭し
アスパラガス銀のおぼんをころころと

直径がアスパラガスのフライパン
神奈川県 山田知明さん

さいきんよく食べるアスパラガス。しゅっとした姿があんまり見事なんで、切りたくないんですよね。で、切らずに丸のまま揚げる、茹でる、焼くをうまく表したいと今回ずっと考えつつ、思い浮かべませんでした。この句、私が表現したかったことが見事に詠まれています。フライパンぎちぎちに並べられたアスパラガス。いかにもおいしそうです。勝手ながら、アスパラガスが健やかに成仏してくださるのは一本丸かじりである気がしております。


NHKテキストもですが、たくさんの良い作品、好きな作品があるなかで、ほんの一部だけを書かせていただいています。没った者がこんなことをするのは本当におこがましいのですが、これは選ではなく感想なのをお汲み取りいただけましたら幸いです。