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学生のみなさんへ~あなたがたは自分で気づくしかない世界に生きている

卒論の提出が終わった。
今年のゼミ生は4人。1人が30枚くらいの卒論を書き上げた。
うん。頑張った。

うちの大学では卒論は製本のうえ教務に提出する。
んで、ちょっと研究費に余裕があったので、製本するための表紙をみんなに買った。事務で購入の手続きをしてからみんなに渡さなければならないのだが、ちょうど昼休みだったので、事務の昼休みが終わってから手続きをして渡すから、1時間後に同じ場所に集合ね、ということで昼食に出かけた。

しばらくして、彼らの一人からLINEが入る。
「みんなでラーメンを食べに来ているのですが、食べ物が出てくるのが遅いので約束の時間に戻れそうにありません。すみません」

「分かりました。では、みんなの研究室の机に、手続きをして表紙を置いておくので勝手に取っていって製本して提出して下さい」

ということで、その日は終わった。

次の日。
彼らから何の連絡もない。
表紙を無事に受け取ったとも、無事に卒論が提出できたとも、ない。
ということで、こちらから聞いてみた。
「みんな、昨日表紙を持って行った? そして無事に卒論提出できた?」

これに続けて、次のような文言を書いた。
「こういうときは、一言連絡するものですよ。そろそろ卒業して大人になるのだから、気をつけましょうね」

彼らの名誉のために断っておくと、彼らは日頃から失礼だとか、マナーがなっていないとかいうことはない。むしろ、いつでも丁寧に敬意をもって(?)接してくれている(ように見える)。

けれど、彼らは、このようなときには連絡するのであるということをしなかった。

なぜか?

知らなかったからである。

残念なことに、大人の世界では、「知らなかった」ことはすべて知らなかった当人の責任である。そのせいで自分の評価が下がっても、「教えてくれなかったではないか」などといって、相手を責め返すことはできない。や、してもいいけど、したければ。そこから得られるものはあまり大きくはないと思う。

とはいえ、彼らからすれば「教えてくれていればできたのに」と思うことであろう。ごもっとも。

けれど、我々はもうあなたがたにそのような大人のtipsを教えない。
なぜか。

教えても文句を言われるかもしれないからである。
何か良くないことを注意した。そしたらしばらくして、学生の方からクレームがあったと連絡が来る、へたすりゃ訴えられる。
みたいなことがあることを恐れているのである。我々は。
それなら、マナーがないなぁと思っていても、もう知らんぷりをするのである。

でも、大人はずるいので、知らんぷりをしても、教えなくても、ちゃっかりあなたがたへの評価は怠らない。あいつは何も知らないやつ、と、あなたの知らないところでレッテルが貼られているのである。

つまり、あなたがたは、「誰も教えてはくれないのに、社会の常識やマナーを身につけなければ評価を下げられる」という、殺伐とした世界に生きているのである。

あなたがたが、自分の身を守る方法はあるだろうか?

一つは、先生にお願いしておくことである。
「私は、少々きついことを言われても文句を言わないので、気になることがあったら指摘してほしい」と伝えておくのである。
そうすれば、多少は先生も言ってくれるかもしれない。

しかし、先生という職業において、クレームは一番恐れるべきものであるので、それでも先生は何も言わないと思われる。

とすると、もうあなたに残されているのは、「自分で気づく」という道しかない。

こんなときにはどうふるまうべきなのか、あのときは? そのときは? と、常に注意しながら行動するしかない。

そして、このような時代の常であるが、それをする人間と、まったくしない人間との間に、ものすごい差が開くのである。この差は、卑近なところでは年収に比例的に反映する。ヘタすると、二次関数的に反映する。

でも仕方ない。あなたがた(の一部)が、我々に対して、いつでも訴えてやるという姿勢をとり続けている限り、我々は防御しなければならない。

そんな時代なのである。

今回僕が自分の学生に注意をしたのは、彼らと僕との間にある程度の信頼関係があって、僕が彼らを可愛く思うからである。自分の学生が、卒業後に大人の世界で、つまらぬことで躓くのはかわいそうと思ったからである。

彼らは素直に「すみません! 気をつけます」と言ってきてくれた。それでいいとおもう。

けれど、やっぱり難しいのかな、副指導教員に原稿を渡してね、という指示に対する報告はまだない。

そしてそれについて僕はもう何も言わないのである。

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