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【書評】#2 城山三郎『官僚たちの夏』

本書を読んだきっかけ

沢木耕太郎『危機の宰相』からの連想で、ほぼ同じ時代(1960年前後)を描いた政治経済小説である城山三郎『官僚たちの夏』を手に取った。

学生時代にもちょっと読んだことがあったが、当時は背景知識がなさすぎて挫折してしまった記憶がある。いざ再チャレンジである。

本書の面白さ

本書を読んで通産省(現・経産省)を目指した人は多いと聞く。
最近、京都市長になった松井孝治さん(元通産官僚)もそうだったらしい。
本書は多くの学生や若者に夢や希望、熱意を与え続けてきた小説なのであろう。
だが、通産官僚たちが本書の何にインスパイアされて、誰に惹かれて通産省を目指したのかは、おそらく人それぞれであろう。
それだけ本書には多くの通産官僚が登場する。産業派といわれる面々や通商派・国際派といわれる面々など。通産省の看板で大臣が「通商」の文字を「産業」よりも大きく書いたとか書かなかったとか、ありそうな話である。
ともあれ、主人公の風越信吾だけが唯一のヒーローという小説ではなく、個性的なキャラがいっぱい登場する。そこが本書の魅力であろう。

官僚たちの越冬

個性こそあれ、本書に登場する多くの通産官僚は、「天下国家」のため、「無定量・無際限」に働く官僚たちである。
通産行政が日本を引っ張った時代。それはそれでとても尊敬に値するのだが、今日ではそれに憧れる人は極めて少ないだろうし、何よりも時代が「無定量・無際限」など許さないはずだ。
「ブラック霞が関」からの官僚離れも深刻なようである。
給与の額とかそういう世俗的な問題ではなく、霞が関が若者に新たな働き方や価値を提示、提供できるかどうかが、今、特に問われているのだと思う。
官僚たちの越冬と、春の到来が待たれる。

最後に

時代が違いすぎて半分は歴史小説なのであるが、仕事などのモチベーションを上げたい人にはお勧めできる1冊である。
(2024/2/6読了)

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