見出し画像

『恐怖!エルビス・プレスリーのようなU君』

アークン 
中学1年生 
某年10月某日夕方 
(中学校裏門近くの細い路地)


「おい、お前ら。金持ってるやろ?」


「持ってません」

「ウソつけ。
ちょっとジャンプしてみぃ!」


昭和の古典的な
カツアゲ(恐喝)風景である。
ジャンプして「チャリン」と
ポケットの小銭が鳴れば
お金を持っている証拠である。



私たち中学1年生3人の前に
立ちはだかる
身長180cm超えの大男こそ

『恐怖のU君』

である。



説明しよう。
「U君」とは、
かつて近所に住んでいた
1学年上の先輩で、
伝説のヤンキーである。



・小学5年生時に
170cmを余裕で超える背丈。
・ハスキーで渋いしゃがれ声。
・口より先に手が出て、
 容赦ない暴力をふるう。
・暴力大魔王の異名を持つ。
・常に誰かに
 プロレス技をかけていた。
・小学生離れした体格とパワーで
 10人相手の喧嘩に勝ったという
 噂あり。
・U君が行くところハプニング有り。
・他の学校にも喧嘩の強さが
 知れ渡っていた。
・元サッカー選手でガタイが良く、
 怒らせるとヤバいY先生と
 小学6年生時に行われた超弩級の
 ファイトは伝説だった。


小学6年時のU君の同級生たちは、
尋常じゃない暴力性を
怖がり避けていた。


なので、
私たち1学年下の後輩をつかまえて
遊ぼうとする。
私は学校の廊下で会うと必ず
コブラツイストをかけられていた。


とにかく
遊びは「プロレス」。
当時はプロレスブームで
凄い視聴率を叩き出していた。
毎回、U君の必殺コンボで
下級生数人が泣く。
情け容赦ないラフ殺法が
炸裂するからだ。



いつしか、
U君が私たちを誘いに来ると
皆、居留守を使いだした。

すると、
仲の良い友達が家に誘いに来る。
外に出ると物陰からU君登場である。

ええっ〜⁉️
なんで⁇


自分が誘うと
誰も捕まらないから
知恵を働かせるのだ。


小学生とは思えない
巧妙なワナを張る。

この方法で
簡単に10人は人を集める。
ずる賢さは天下一品である。



U君が小学校卒業まで、
恐怖のプロレスは続いた。
U君が中学生になってすぐに
ある噂を聞いた。


「中学入学後、先生3人に暴力をふるい大暴れをして鑑別所に入った。その後、他の中学に転校をしたらしい」

と。


私たちは飛び上がって喜んだ。

「ヨッシャー、これで中学ではU君の恐怖から解放される!」

と思ったからだ。



中学に上がり、
6ヶ月が経った10月のある日。


授業が終わり
帰り支度をしていると、
友達が血相を変えて走ってきた。



「どうした?」
「ヤバい!U君校門にいてるぞ。
めっちゃガラ悪なってるで。早速、他の生徒に絡んでるわ。カツアゲしてるんちゃうか?」
と言う。


「マジで?
  うわ〜最悪や〜」




こっそり校門を見に行くと、
サングラスにポマードで
コテコテに固めたオールバックの髪型、
白いスーツに長身の男が立っていた。
ポケットに手を入れ
ガニ股で身体をクネらす特有の動きは、
間違いなくU君だ。


「ウワッ!!!
白いスーツ⁉️
エルビス・プレスリーちゃうねんから。
なんちゅうカッコしてるんや?」

思わず、
私はつぶやいた。


中学2年生になり
グレードアップしたU君がいた。
しかも、襟の高い学ランを着た
イカツイ子分3人を引き連れていた。


『今すぐ帰ると
見つかる可能性がある。
それは勘弁してほしい。
しばらく様子を見よう』
とみんなで慎重に話し合った。


数分後、

「しばらく正面側の校門に
いるみたいや。
それなら裏門から早く出よう」


と友達が言った。
私たちは、ダッシュで裏門を乗り越えて
細い路地に入った。

そこには、
なんと⁉️いるはずのないU君と
3人の子分たちが立っていた。


「えっ???
さっきまで校門にいたはずが、
な・な・なんで裏門側に。
テレポーテーションか⁉️」


固まる私たち。



そう、U君は獲物を狩るために、
巧妙なワナを張るのが得意である。


オスライオンは風上に立ち匂いを出す。
匂いを嗅いだ獲物は風下に逃げて
風下のメスライオンがしとめるという。

U君は1人2役を
こなすのか…



「そりゃないよ!」




冒頭のカツアゲシーンに戻る。

U君にジャンプ指令を受けた私たちは、
ジャンプすると不覚にも

「チャリン♫」


とズボンから
小銭の音が鳴った。

「お前ら、
よくもウソついてくれたな〜」


私はU君に胸ぐらを掴まれた。

『アワワワ〜』


絶対絶命である。
すると、
サングラスを片手で外し、
ゆっくり顔をググッと近づけてきた。

「お前ら、
俺のこと知ってるか?」

と突然聞いてきた。

「は、はい!
 U君ですよね!」

と私が言うと

「見覚えあると思たらお前らか。行ってええわ」


と手を高く振りながら
「またな」とクルッと背を向けた。

U君は、
ポケットに手を入れ、
ガニ股で子分を連れ去って行った。


しだいに小さくなるその後ろ姿は、
まるでショーを終えた
エルビス・プレスリーのようだった……


最後まで読んでいただき
ありがとうございます。



いつもスキやフォロー、コメント
ありがとうございます。
励みになります。


#66日ライラン
43日目

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?