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食徒麻辣火鍋 #AKBDC2023

午前中、傘を差しても意味をなさない大雨が降っていた。

雨避けのついでに昼食を摂ろうと、きみは室内駐車場のあるモールに駆け込んだ。今日の気分は和食、きみは迷いのない足とりでやよいへ向かって歩みだすが、途中でその店の前で足を止めた。

看板には食徒麻辣が書いてある。見た感じ麻辣火鍋屋であろう。星の数だけ鍋屋があるみなみの国では珍しくもない。きみの注意を引いたのはむしろ店先にあるパネルの方だった。

なんかのコンテストでスープ部門の1位を取ったとか、当施設内Google口コミNO.1だとかアピール的なことが書かれている。それは本当のことなのか、ときみが疑う。そして店の前に突っ立っているきみを店員さんが見逃すはずもなく、営業を仕掛けてきた。

「いらっしゃいませ!当店のコンテストで優勝をとったスープをぶんだんに使った麻辣火鍋はいかがですか?」

優勝と麻辣、どれもきみが好きな言葉だ。優勝をとれた麻辣スープは一体どれほどの味か想像してしまう。確かめるには手段はただ一つしかない。

きみは299元の麻辣牛肉鍋注文した。そして店員はさらに畳みかける。

「今は50元で大きめのフラットアイアン3枚追加できてお得ですよ?いかがですか?」

スシローに換算すれば1.25皿の寿司相当の対価で大きめのフラットアイアンを3枚追加できるわけか。Why not?どうせ鍋の時点で普段の昼食より3倍ぐらいの出費だ。50元ぐらい何ともない。

ドリンクバー、小菜、ライスはセルフサービス。食べ飲み放題。小菜は胡椒枝豆、きゅうりの漬物、わかめと黒胡椒とにんにくを混ぜた物などがあるが、どれもあまりそそらない。きみはゼロコーラだけ取って席に戻った。

しばらくして鍋が運ばれてきた。肉と野菜は別々の器に盛られて、既に火が通ってある。コンロなど加熱の装置はない。小皿に赤い粉末が入っている。今まで多くの鍋を食べてきたが、このような構成は見たことがない。困惑しているきみを見た店員がすかさずフォローを入れる。

「野菜は茹で上がっていますので、スープに浸したり、粉をつけたり召し上がってください」

そういうシステムだったか。きみは了承した。しかし既に茹でた野菜か、水っぽくなっていないといいが。

きみは疑念を抱きながら、野菜に粉をつけた。口に入れると、先ほどの疑念は杞憂だったことがわかった。野菜のシャキシャキ感がしっかり残っている。だからと言って生茹での感じがしない。言い茹で加減だ。粉は牛肉のフレーバーが濃くて少量でも味は十分。インスタント牛肉麺っぽい味がする。当然うまい。

今度はスープに浸かってみよう。麻辣火鍋経験者なら知っているだろう、繊維に麻辣スープが染み込んだ野菜はどれほど凶悪かを。きみは覚悟を決めてキャベツにかじった。おお、なるほど。辛さはちょうど良く、花椒は風味付けほどに止まってあまり強くないが、牛骨の味は鮮明でコク深い。これがコンテストで評価されるもの頷ける。キャベツはスープが表面しか浸かっていないためか、麻辣の中でもしっかり甘みが残っている。そこまで計算されているだろうか。

フラットアイアンはまた少しピンクが帯びている状態。よく考えればこの提供方法はコンロがないので場所とらないし片付けもしやすい。とても理にかなっている。時間経過で温度は下がった温度はスープ自体は辛さで灼熱感を補う。ので本来それなりにスケールの大きい麻辣火鍋をコンパクトにし、敷居の低い価額で提供する、これは定食化とも言えるのではないだろうか?きみは感心した。

麻辣火鍋の良き仲間、鴨血。ここは薄切りだけど味が弾力があってうまい。

(ほぼ)完食。きみはトマトが苦手のことは知っいる。これぐらいで勘弁してやろう。満足な食事だった。発汗とエアコンのダブル冷やし効果体は少し冷えた。食後の散歩にモールを歩くと、きみはふと思った。製作過程にクレーム級の刺激性気体を発生する麻辣スープはフードコートのキッチンで作られるのか、いや、可能性は低い。

きみは即座にスマホで検索した。ビンゴ。やはり別の場所に食徒の本店があった。

ほうほう、牛のテールを惜しげなく使用するこだわりのスープか。牛肉面コンテストにもいい成績を残しているようだ。面白い。きみは内心にこの店をマークし、いつか本店に行ってみようと思った。

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この記事はAKBDC2023の参加作品です。主催者が書いたので当然賞金はもらえません。ご安心ください。


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