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【感想文】オッペンハイマー (クリストファー・ノーラン、2023年)

Twitter(現X、だが字面がわかりづらいのでTwitterでいかせてもらいます)で「オッペンハイマー」に関するポストをかなり見かけた週末。そうか、今週が日本公開なのですね!ってことで、8月にスウェーデンで観た時の感想を引っ張り出してみます。
スウェーデンで観たということは、字幕もスウェーデン語で、みなさまご覧になった通り、物理の話と会話劇なので、どのぐらい内容を理解できているかは…お察しください。
てかこれ、日本語字幕で観てもついていけるかわからない笑


あらすじ

第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。

上記、映画.comからの引用なのですが、水素爆弾の件って原爆の前に話していたと思っていたけど、原爆の実験の後なの?とびっくりしている笑
という理解度だという前提で読み進めてください。お恥ずかしい…

感想(ネタバレあり)

ノーランの特徴のひとつ(と勝手に思っている)、スピード感のあるぐっと観客をストーリー/画面の中に引き込むオープニングではなく、スロースタートだな、と思った。
全体的な感想は:

  1. 超高度な物理学を英語音声+スウェーデン語字幕で理解するのは不可能

  2. 議題の中心はナチス独とソ連、日本はほぼ触れられない

  3. どこに落とすか会議が胸糞でこういう描写にしたのは正解だと思う

IMAX

音の使い方がさすが。緊張感の上げ方がもう…心臓に悪い。めっちゃドキドキする。私はもちろん原爆を経験していないけど、ああ、こういう爆発の仕方をするから「ピカドン」と呼ばれるんだな、となんだか納得した。そして怖くなった。
私はいい音のためにIMAXで観たい派なので、このためにもIMAXでの鑑賞をおすすめする。
というか、ノーラン作品はIMAXフィルムで撮ってるから毎回できるだけ高スペックなIMAXで観るんだけどね笑

超難解な内容

話の中心は天才物理学者が物理の連鎖反応について発見し、これは兵器に応用できる、ナチス独に先を越されてはいけない、ソ連にも情報を渡してはいけないという政治の話が中心。

たぶん。

物理学+政治の話を英語+スウェーデン語字幕では理解しきれず笑


あと人がたくさん出てくるのだが、誰が誰だか覚えられず。
俳優の名前で覚えても俳優の名前が出てこず。
(「グッド・ウィル・ハンティング」のあの人
※正解はマット・デイモン、とか笑)
誰が学者で誰が何の肩書きとか。
ロバート・ダウニー・Jrをスタンリー・トゥッチだとエンドロールまで勘違する始末笑

そう言えばこの役でロバート・ダウニー・Jrはアカデミー賞を獲っていましたね。
あの授賞式の出来事も「アジア人透明化」でこの作品で描かれている歴史と同じだなと思ったり
(後述します。授賞式のことは当時下書きまで書いて力尽きてしまいました笑)。

 

日本不在

原爆の父の話なのに日本はあまり出てこない。てか描写はされない。
ストーリーはずっと「対ソ連」「赤狩り」「対ナチス」「物理学」「アメリカの政治」。

日本にとって第二次世界大戦も原爆もすごく大きな出来事だけど、このストーリーから感じることはアメリカは日本なんて眼中になかったってこと。
アメリカの敵は日本ではなくてナチスとソ連。
だからハリウッド映画の第二次世界大戦モノって極悪非道なナチスに立ち向かう正義の味方だし、敵は共産主義なんだろうね。
だから日本に落とすのはアメリカの本当の敵への警告のため。
敵とすら見られていないのに、なんで民間人が死ななきゃいけなかったんだろう。どうでもよかったんだろうね、日本の市民なんて。

と痛感する構成だった。

世界で唯一の戦争被爆国なのにストーリーに不在。
出てくるのは数字だけ。

「東京空爆で民間人がxxxx人亡くなった」「予想される被害はxxxxx人」
「どこに原爆を落とそう」「あそこは美しいからやめよう。はっはっは」

数万人、しかも民間人の命に関わることを話し合っているとは思えない緊張感のなさ。

この会議が胸糞悪いシーンだった。
全身の血が沸騰する感覚だった。自分でもびっくりするぐらい。
上記の胸糞ジョーク自体もそうだけど、それに笑っているスウェーデン人観客により胸糞悪くなった。
ただ、原爆を落とされていない国の人の反応はそんなもんだろうし、実際戦争の会議ってこんなもんなのかもと思ったりもした。
誰かが「日本人は日本のナラティブの原爆に慣れすぎている」ってTwitterに書いていて、確かにそうだな、と思った。
この作品を見て、それ以外の視点に触れて、それが衝撃的だったのかも。

印象に残ったのが、オッペンハイマーとトルーマンの会話。
「とんでもないことをした。罪の意識でいっぱい」と言うオッペンハイマーに
「日本人は誰が作ったかなんて誰も気にしちゃいない。誰が落としたかだ」
とトルーマン。
確かに。
オッペンハイマーのことは学校で習った記憶がなく、何となく大人になる中で教科書の外で認識した気がする。少なくとも私は。

日本の描写がないことに賛否両論あるみたいですが、個人的には、「こんなに人間の命を軽く考えていて胸糞悪いよね」っていう描写でよかったのでは、と思っています。

が、これが欧米人に伝わるかはまた別の話だけど…

日本公開

これは私が観た8月にTwitterで書いたのですが

日本公開はどうなるのかわかりませんが、日本語字幕付きでまたきちんと観たいです。

x

公開されてよかったです。

クリストファー・ノーランの作品はWarner Brothersが配給しますが、本作はUniversal Pictures配給でしたね。 Universal作品は日本では東方東和配給がデフォルトですが、今回はビターズエンド配給となりました。
これはなかなか決めるのが大変だったと邪推します。
客を呼べる監督クリストファー・ノーランの作品を「題材がセンシティブ」という理由で公開しないというわけにもいかないし、ノーランは劇場鑑賞を前提に作っているのでDVDストレートにもできないし、でも宣伝を間違えると企業イメージにもひびくダメージになりかねないし。
そしてバーベンハイマー事件という追い討ち。「勘弁してくれよ」と思うよね…
多分バーベンハイマー事件で公開決定の発表が延びたんじゃないかと邪推しています。これ、私が配給会社の経営陣だったら「一旦、作戦練り直そう」って言うと思う。

ちなみにバーベンハイマーは、個人的にはファンが楽しんでいる分に関しては胸糞悪いが表現の自由だと思う。
が、企業が後押しするのは別問題。だからワーナー本社の悪ノリは悪手だし、グローバル企業として意識が低すぎる。
そしてその対応も「はいはい、日本にごめんねの文章出しゃぁいいんだろ」みたいな文章をペラっと出して、日本支社に出させて終わり。本社から出せよ。全世界に自分達がしたことを晒せよ。全世界の配給に通達して「取り扱うなら注意してね」って言えよ。言ったかもしらんが私はスウェーデンで「バーベンハイマー」を使った宣伝、かなり見たよ。伝わってないんだよ、日本が不快に感じたって事実が。

ちなみに字幕翻訳は石田泰子さんだったようですね。
ノーラン作品はいつもアンゼたかしさんが担当されていたのでびっくり。
でも泰子さんの字幕も大好きなので、泰子さんのノーランを観てみたい!

アジア人透明化

これは本作が作品賞を受賞した第96回アカデミー賞授賞式で起きた「オスカー像を渡すアジア人俳優が舞台上で無碍に扱われる」ことを発端に指摘されたアジア人軽視ですが、この作品の周りでもたくさん見られたなと思います。

  1. ストーリーで描かれる歴史の事実:どこに落とすか軽く決めている、不必要な2回目の投下など。

  2. バーベンハイマーとそれに悪ノリするアメリカ本社:日本人の心情無視。不快感を表しても軽い対応。自制も他国への注意喚起もしない(スウェーデンでは大手劇場チェーンがバーベンハイマーを使った広告をLinkedInに掲載)。オスカーでも言及、など。

  3. ロバート・ダウニー・Jr受賞時にキー・ホイ・クァンを見逃す:SNS等で燃えるも華麗にスルーされる。私はこれ、差別とかではなく「本当に見えてなかった」んだと思う。差別が根底にある無意識の無視。タチ悪いけど。

これはこの作品の質そのものに関わることではないのでここでは掘り下げませんが、色々と考えされられることがたくさんあったな、というメモです。
いつかちゃんと書きたいな、と思います。

/10
わかっていない部分が多いので笑 あと、オープニングはやっぱりぐんぐん引っ張っていってくれる感じのほうがノーラン作品は好きかも…
嫌なことも見えたけど、映画自体はすごく正直で誠実な作品だと思います。

作品情報

監督・脚本:クリストファー・ノーラン
原作:カイ・バード マーティン・J・シャーウィン
撮影:ホイテ・バン・ホイテマ
音楽:ルドウィグ・ゴランソン
キャスト:キリアン・マーフィー エミリー・ブラント マット・デイモン ロバート・ダウニー・Jr. フローレンス・ピュー ジョシュ・ハートネット ケイシー・アフレック ラミ・マレック ケネス・ブラナー
2023年製作/180分/R15+/アメリカ
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年3月29日
賞実績:
第96回アカデミー賞授賞式受賞ー作品賞 監督賞(クリストファー・ノーラン) 主演男優賞(キリアン・マーフィ) 助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)撮影賞 (ホイテ・バン・ホイテマ) 編集賞(ジェニファー・レイム) 作曲賞(ルドウィグ・ゴランソン)
ノミネートー助演女優賞(エミリー・ブラント) 脚色賞(クリストファー・ノーラン) 美術賞 衣装デザイン賞 音響賞 メイクアップ&ヘアスタイリング賞
第81回 ゴールデングローブ賞受賞ー作品賞(ドラマ) 主演男優賞(ドラマ)(キリアン・マーフィ) 助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.) 最優秀監督賞(クリストファー・ノーラン) 作曲賞(ルドウィグ・ゴランソン)
ノミネートー助演女優賞(エミリー・ブラント) 脚本賞(クリストファー・ノーラン) シネマティック・ボックスオフィス・アチーブメント賞
公式HP:

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