転職記。

「つくもん。今、Webデザインの案件の数が減ってきているから、週5から週2ペースに業務委託という形にさせてほしいんだよね」

Webデザインのアルバイトをしている会社の社長から、2023年8月某日に突然そう言われた。社長の奢りで買ってもらったほうじ茶ラテを持つ手がかなり冷えた気がした。

Webデザインの仕事が減っている、だったか。本当にそうだろうか。ここ最近を振り返ってみる。確かに、新規でWebサイトを作っておらず、社長が持っているもう一つの会社の新サービスのWebサイトを作っている最中だ。たまに既存サイトの修正依頼が入ることはあるが、文言を変えたり、デザイン調整したりするだけなので、すぐに終わる。ああ、あと、社長が事業承継した飲食店が結構忙しそうだ。…なるほど、確かに、Webデザインの仕事は減っている。

週5から週2、そしてアルバイトから業務委託へ…まずい、ひっじょーぅにまっずい。特に確定申告。確定申告なんてできる気がしない。

「それは…厳しいですね。確定申告できそうにないですし」
心の内を正直に伝えると、確定申告する必要がないように調整できると言われた。いや、それは収入が減るやつなのでは?確定申告よりも収入が減ることの方が不安要素は大きい。

(…転職活動するしかないな)

確定申告しなくても良くて、かつ、収入もちゃんとしているところに、転職することによって、これら不安要素は解消されるだろう。だが、本当に転職できるのか?…いや、転職してみせる。9月から週2の業務委託になるということなので、その前には転職する。そう考えた僕は、早速その日のうちに転職サイトを使いながら転職活動をすることにした。

エンゲージ、マイナビ転職、indeed、…などといった転職サイトを使い、あらかじめ決めておいた条件を元に求人情報を探し、気になったところが見つかり次第どんどん応募していく。メッセージでのやり取りをしては、進んだり落とされたり。中には、転職のサポートを無料でしてくれる人が現れ、その人から求人情報をもらうなんてこともあったが、そこも落とされたり…。

気がつけば9月になっていた。週2の業務委託になる…というわけではなく、あの話が嘘だったかのように、週5でアルバイトしていた。多分、転職活動が忙しい僕のために、週2の業務委託は無しにしてくれたのだろう。もし転職活動をしていなければ、週2の業務委託になっていたかもしれない。

9月になっても転職先が見つからなくて焦り気味だった僕ははたと気がついた。僕の通える範囲にはWebデザイン系の会社が少ないということだ。東京などに行けば数多くの企業が存在するが、新卒で入社した会社のときのようにまた病んでしまったら…と思うと、なかなか勤務先の範囲を広げられない。

ならば中学からの夢だったWebデザイナーを諦め、システムエンジニアやプログラマーにするか?新卒で入社した会社では、無知ながらも一応プログラマーだったし、バイト先の会社でPHPやらJavaScriptやらLiquidやらでプログラミングのスキルを独学で身につけたので、そういうことも、まあ、できなくはない。できなくはないが、少しでも学ぶ機会は欲しいと思う。

「システムエンジニアとかプログラマーとか…Webデザイナー以外も考えた方がいいかもしれないなぁ…」

決めていた条件を変えることにする。Webデザイナーの夢を完全に諦めたわけではないが、9割Webデザイナーを募集している求人情報を探し、1割システムエンジニアあるいはプログラマーを募集している求人情報を探すことにする。もしシステムエンジニアあるいはプログラマーの求人情報を見つけたら、念入りに調べ、分析する。そうすれば、新卒で入社した会社のときのような失敗はしない、はずだ。

そして見つけたのが、今回の転職先の会社である。システムエンジニアを募集していたが、それはもうとてもとても丁寧に対応してくれたのもあり、研修も休暇制度もしっかりしているという理由でそこに入社したのだった。

同時並行で応募していた会社は、Webデザイナーを募集していたが、辞退することにした。そこだったら本当にWebデザイナーとして働けるとなっても、最終選考の日を2回も延ばされた挙句、面接結果の連絡も遅いようなところには勤めたくなかった。

(転職するまで上記の会社を始めとした色々な会社を見てきたが、ここではあえて説明しないでおく。漫画として描くことにする)

バイト先の会社は事業所引越しで忙しくしており、その間僕は働かず、転職活動に勤しんでいたが、転職先を見つけたことを上司である執行役員さんに退職日の相談をする。転職活動をしていることをもう既に伝えてあるので、転職先の入社手続きの日の前日に辞めたいと言っても引き止められなかった。アルバイトという雇用形態だからか、それとも人がいいからか、1週間前に告げても怒られなかった。新卒で入社した会社では「2週間後に辞めたい」と告げたら「普通は1か月前に言うもんやろ」と怒られたので、またしても泣きそうになった。

さて、最終出勤日。パソコン内のデータを整理したり、飲食店のサイトの修正をしたりする。普段なら19時に上がるのだが、この日はわざわざ僕なんかのために送別会をしてくれるとのことで、18時半に上がり、その日修正したサイトの飲食店に行った。普段なら絶対に吐いてしまうほどの量を飲み食いをした気がしたが、なぜだか今回は吐きそうにならなかったし、吐かなかった。

送別会が終わると、「新しい場所でも頑張ってね」と、社長から、そして執行役員さんから言われ、固い握手を交わした。「新卒で入社した会社を退職したあとこの会社を見つけて、入社して、バイトして…ああ、この会社にいられて本当に良かったなあ」と思えるような温もりと力強さを感じた。

そして今。
転職先の会社で研修を受けている。
かつてはJavaやSQLが全く理解できず、びえびえ言いながら21時まで残っていたが、今はそんなことはなく、理解しながら定時である17時に上がれている。気になることにもちゃんと答えてくれて、さらに理解が深まったり。
「…もしかしてここが、所謂ホワイト企業というものなんだろうか…」
研修を受けながら、そうぼんやりと思った。

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