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花相の読書紀行№.81『へぼ侍』

へぼ侍、ここに在り!

【へぼ侍】/坂上 泉
<あらすじ>
第26回松本清張賞受賞作
魅力的なキャラクターを選考委員全員が絶賛!
西南戦争を舞台に落ちこぼれ兵士の活躍を描く
痛快歴史エンタテイメント開幕!!

大阪で与力の跡取りとして生まれながら、家が明治維新で没落したため幼いころより商家に丁稚奉公に出された錬一郎は、それでも士族の誇りを失わず、棒きれを使って剣術の真似事などをして周囲の人間から「へぼ侍」と揶揄された。
1877年、西南戦争が勃発すると官軍は元士族を「壮兵」として徴募、武功をたてれば仕官の道も開けると考えた錬一郎は意気込んでそれに参加する。
しかし、彼を待っていたのは、料理の達人、元銀行員、博打好きの荒くれなど、賊軍出身者や異色の経歴の持ち主ばかりの落ちこぼれ部隊だった――。

綿密な時代考証のうえに大胆なストーリー展開を描き出す、時代小説の新鋭の誕生です。
 
★感想
大政奉還後の旧幕府側の士族にとって存在の意義を問われる苦境の時代を背景に、へぼ侍と呼ばれながら、武士として再起を図ろうと西南戦争へ赴く主人公の“錬一郎”。
薬問屋の丁稚として培った商人気質と、士族の若き長というキャラクター設定がとても良いです。
薩摩を討伐するために赴いた九州での壮絶な戦いの中にあって、何故か陰惨な戦場だけではなく、そこに生きる民の強かさが見えます。
そんな中で、錬一郎が学んだ商人としての経験がわが身を助け、戦勝に導いていくのが何とも皮肉であり、さすが大阪商人と感心させられました。

物語を通して、“西南戦争”という戦いは、果たして必要だったのか?と益々疑問に思いますが、これは今の時代しか知らない私の思いでしかないのかも知れません。
この時代に生きた藩士の人々は、どちらの立場も日本国を想っていたのに・・・。
 
この小説の中でも、西郷と言う人物は、やはり人知にあふれた好人物として描かれています。
終戦間もないほんの一時、錬一郎と交わした会話が心に残ります。
 
「何事か為さん、何者かに成らん、ち、泳ぐが如く前へ前へと、もがいちょった」
「おいは、あの頃が、懐かしゅうて、懐かしゅうて、堪らん」
 
この出逢いが、錬一郎のその後の人生を大きく変える一助になったこと、老いてもなお己の目指す武士道を忘れないことへ繋がっているのだと思いました。
 
「わしらのへぼぶりは、死んどらん」
 
こんな風に私という人間も、もがき乍らも前進すべく強く生きていけたら良いと思う。

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