第百四十八回 Ba.沙我|ノーズマウンテン・ラジオ 公開録音イベント特別番組(前半)「僕らがやってきたこと、周りがやってることは全部否定して。キーワードはバック・トゥ・ベーシック」

6月25日、神奈川県・江ノ島にある虎丸座にて開催した「THE ALTERNATIVE 4th season【追加公演】沙我生誕祭 in ENOSHIMA」。その[第一部]公演の中で、「ノーズマウンテン・ラジオ」初の公開録音イベントを実施。今回は、沙我自ら企画・立案したこの公録イベント特番の前半をお届けする。

ーー(ジャジーなBGMが流れる中)今回の「ノーズマウンテン・ラジオ」の公開録音イベント、実は沙我さん自ら「やりたい」とおっしゃった企画なんですよ(場内から拍手が湧き上がる)。

沙我:いやいや(照笑)。やってみたかったんですよ、公開録音というのを。

ーー今回は公録なので、もしかすると危ない発言が飛び出すかもしれないのですが。

沙我:いやいやこの人達、危ない発言を聞きたくてここに来てるんで大丈夫ですよ。(場内にはクスクス笑いが広がる)

ーーそうでしたか(笑)。それでは早速始めたいと思います。まずは最近のアリス九號.についてなのですが。"ド"ヴィジュアル系化が加速していませんか?

沙我:ええ、気づいたら(微笑)。

ーーかなりの加速気味で。

沙我:確かに確かに。今年になってから特にそうですね。

ーーこのシフトは、次回作のニューアルバムへの布石と考えればいいのでしょうか。

沙我:そうです。すべてはそこへ繋ぐためにやってます。

ーーなるほど。であればここで改めて確認していきたいのですが、沙我さんが思う「ヴィジュアル系」とは、どういったものなのでしょうか。

沙我:すごくシンプルに言うと、アンダーグラウンドから狼煙を上げるものですよね。竹原ピストルの歌に“アンダーグラウンドから狼煙があがるぞ”(「狼煙」)という曲があるんですけど、「まさにこれやん!」と。僕の中のヴィジュアル系ってこれなんですよ。元々ね、X JAPANもアンダーグラウンドから殴り込みをかけてきた訳じゃないですか。それがテレビのバラエティー番組に出て。

ーー「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」への出演ですね。

沙我:そこで暴れ散らして。僕からしたら殴り込みですよあんなの。それで天下を獲りに行くというのがめちゃくちゃカッコよかったんですよね、僕的には。それから「MUSIC STATION」でLUNA SEAが「TRUE BLUE」だったかな、演奏してるのを観て「なんだこれ!(驚)」と思って。その時って、見た目も“メジャー感”とか無かったんですよ。"アンダーグラウンドから這い上がってきた方達がメジャーシーンに殴り込みをかけてる"という印象を受けたんですよ。

ーー黒尽くめの衣装や化粧をした姿は、明らかにMステの中で浮いていましたしね。

沙我:僕のヴィジュアル系というものの根本にあるものはそれかな。

ーーアンダーグラウンドから狼煙を上げて、メジャーに殴り込みをかける感じ。

沙我:それが僕の中ではカッコよかった。

ーー沙我さんはなぜそういうものに惹かれたんでしょうね。

沙我:小、中学生にもなれば、自分が特別な人間じゃないことなんて誰でも分かるじゃないですか。普通に生きていれば。

ーーでも沙我さんはこのルックスですよ?これで特別じゃないと言われても…ねえ、みなさん。

沙我:いやいや。これはあくまでもみんなが磨き上げてくれたものであって。みんなが見てくれるからこうなっただけです。小、中学校の頃は雑草みたいでしたから。だから、そんな特別でもなんでもない自分が表舞台に立つなんて考えもしない訳ですよ。でも、「ひょっとしたらこんな俺でも“特別”になれるかも!?」と思える光を放っていたのが、アンダーグラウンドから出てきたヴィジュアル系の先輩方だった訳ですよね。その当時だと例えばSMAPとか、見るからに輝き散らかしてた人はいた訳ですけど。彼らは明らかにアンダーグラウンドから這い上がってきた人達とは違って、「絶対にこの人達は子供の頃から人と違ってて特別輝いてたんだろうな」という感じがする。自分とは子供の頃からまったく違う訳ですよ、その時点から。だけど、「そんな自分でも違うベクトルから攻め込んでいけば特別な人になれるかも」って、そういう“夢”を与えてくれたのがヴィジュアル系で。だから僕は好きなんですよヴィジュアル系が。

ーー自分に夢を与えてくれた存在だから。

沙我:そう。なんでもよかったんですよ。人によってはそれがハイスタ(Hi-STANDARD)だったりヒップホップだったり演劇だったりするのかもしれないし。

ーーたまたま沙我さんの場合はそれがヴィジュアル系だったと。

沙我:そうです。当時、今とはちょっと違う「Break Out」という音楽番組がありまして。それまではメジャーのオリコンチャートが当たり前だったのに、その番組内にはヴィジュアル系だけじゃなくて、ハードコアやメロコアも一緒になった“インディーズチャート”というのがあって。それが画期的で夢があったんですよ。メジャーじゃなくても、「インディーズチャートで1位を獲るのだったら俺にもできるかも」って思えたんですよ。

ーー手が届きそうな気がした。

沙我:そう!観てたら、Pierrotとか「カッコいい」と思うバンドもいるんだけど、それ以外には、そうじゃない変なバンドもいっぱいいたんです。失礼な話ですけど(笑)。そういう人達を見てたら「俺でもいけるかも」って、そこで勘違いをして。

ーー勘違い(笑)。

沙我:そうそう。まだ楽器もたいして弾けないのに「これだったら俺にもやれるかも」っていう感じで、やる気を持たせてくれて、より練習に打ち込めたんですよ。

ーー「もっと頑張ったら俺もあのチャートに入れるかも」という感じで。

沙我:希望を持ちましたよね。

ーーそこからヴィジュアル系に夢や希望を描くようになった沙我さんが、今改めてアリス九號.で原点回帰をするようにヴィジュアル系に傾倒していっている理由は?

沙我:すごく言いづらいことなんですけど。俺はこのシーンの“進化”が止まってるなと思ったんです。本当にそう思ってて。2015年ぐらいから、誰が新曲を出しても新曲に聴こえないんですよ。

ーーちょっといいですか?なんで2015年なんですか?

沙我:あ、大体の感覚です(笑)。他の人は違うかもしれないですけど、僕はそう思うんです。

ーー2015年までは進化していたんですか?

沙我:ええ。お互い切磋琢磨して削り合いながら、“他とは違うことをなんかやってやろう”というのを少なくとも感じながらみんなやってたんですけど。

ーーアリス九號.もそうでした?

沙我:そうでした、事務所独立前までは。でも最近思うんですよ。そういうのが無いなって。僕の個人的な視点でしかないんですけど。それで、このままで大丈夫なのかって。

ーーヴィジュアル系シーンが?

沙我:ええ。マジでこのままだと本当に消えてしまうんじゃないかと思うんです、僕は。だって新人も出てきてないし。今は楽器じゃなくて、みんな踊ってる子ばかりでしょ? 出てくるとしても。むちゃくちゃカッコいいバンドはいるんですよ?後輩でもね。俺らの結成当時よりも明らかにうまくてカッコいいバンドはいるんです。なのに、こんな状況になってるのはなんでだろうってところが俺の中にはあったんですよね。で、もちろん僕らもこのままではいかんなという危機感もあって…。

ーーアリス九號.もこのままではダメだと危機感を抱き出したのはいつ頃からですか?

沙我:なんとなく雰囲気では思ってたんですけど、リアルに危機感を抱き出したのはコロナ禍になってからでしたね。ただただアリス九號.の新曲を書くだけじゃダメな気がしてきて。シーン全体の中で、今はどういう曲を出さなきゃいけないのか。そういうことをみんなが考えながらやっていかなきゃ本当に無くなってしまうぞと思ってきたんです。

ーーコロナ禍で危機感がそこまで高まっていった理由は?

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限りなく2次元に近い2.5Dロックバンド、アリス九號.のオフィシャルnoteです。 毎週メンバーがリレー形式でオフィシャルnoteだけの…

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