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影の騎士真珠の姫(完結)

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ファンタジー恋愛小説です。影というユング心理学の要素を取り入れた物語です。どうやって自分の影を受け入れていくか。それが上手く描ければいいと思っています。恋愛シーンは盛りだくさん。
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【創作大賞2024用】影の騎士真珠の姫

第一話 影の真珠姫  エルフリア王国の第一王女、フィーネペルルは鏡の向こうの自分に姫君らしからぬ悪態をついた。鏡の向こうには異端の自分が映っている。人々が持ってない能力を姫はいつも嫌悪していた。年を経るごとに出来る事が増えてくる。よからぬ能力も共に。いつか魔女裁判にでもかかるのではないかと思う。    そうなれば笑いものだわ。一国の王女ともあろうものが。    亜麻色の美しい髪を櫛で梳きながら、フィーネペルルは思う。やがて、簡単に身なりを整えるとリードを手にする。

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 最終話

前話  春になった。    アムネシア国ほどではないが春を告げる花が咲き誇っている。  フィーネペルルは毎日城の入り口で想い人を待ち続けた。 「フィーネ。また、こんな所に。婚礼の準備話終わらないわよ。エルフィもエルマもあなたの散歩を待ってるわよ」  カタリーナが呼びに来る。 「まずはあなたとライアン様の式でしょう。私はまだ夫が帰ってこないんだから」  それから、散歩、と言う言葉でまるっきり一ヶ月以上ほったらかしにしていた愛犬たちを思い出す。    あの子達にまで嫌われたら…

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十九話 戦の終わりに

前話  体が硬直して動けない。剣が振り下ろされようとしていた。反射的に目をつむる。だが、剣は降りて来なかった。そのかわりばさり、と大きなものが近くで倒れる気配がした。そっと目を開ける。ヴァルターが一刀両断していた。 「フィーネ。姉上と部屋の端に言って目を閉じるんだ。見ていいものではないが、討ち取った証として首をさらさないといけない」 「わかったわ。ゾフィー。さぁ」 「ええ」  耳を塞ぎ目をつむる。だが、部屋の中は血のにおいで一杯だ。気分が悪くなる。しばらくして部屋の人間の気

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の 姫第二十八話 ゾフィーを追って

前話 「しっかり馬のたてがみにつかまっておくんだ!」  馬を走らせながらヴァルターは言う。フィーネペルルは必死になってたてがみをつかむ。乗り慣れない馬だが、旅で相当慣れた。一気に近くで幕を張っていたレガシア帝国の本陣に駆け込む。正面突破だ。矢が降り注ぎ、歩兵が足下にまとわりつく。それをヴァルターは一蹴して陣に飛び込んで行く。 「姉上!」 「ゾフィー!」  しかし、本陣の中には誰もいなかった。 「どういうこと?」  フィーネペルルがつぶやく。途端、ゾフィーの悲鳴が聞こえたよう

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十七話 狙われたゾフィー

前話 「早く、こちらへ!」 「お母様!」  細くひんやりとした地下道に行く。王族だけが使う避難路だ。 「ゾフィーなのね。あなたが」 「はい。でも、私はする仕事が……」  戸惑うゾフィにフィーネペルルが抱きつく。 「あなたを狙って来たの。いないとなればすぐに去って行くわ」 「フィーネペルル様……」  ゾフィーのおびえた表情にカタリーナも励ますように肩に手を回す。 「エルフリア国の騎士団は無敵よ。大丈夫」  避難路を抜けた後に用意されている小さな屋敷までもう少しだ。 「ここは民

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十六話 ゾフィーの記憶

前話 「姉上!」 「マリア!」  二人でカタリーナの部屋の方に急ぐ。 「はい?」  のほほん、とマリアは仕事をしていた。 「いいからこっちへ」  乱暴な言葉になりながらマリアをカタリーナの部屋に連れて行くフィーネペルルである。嫌な予感が的中する前に記憶を呼び戻したかった。 「はい。これ飲んで」  ヴァルターがコップに水を入れ、フィーネペルルは薬を出す。絶妙な連携だ。段取りの良さに驚きつつ、なんの事かわからないマリアである。 「この薬は『記憶の妙薬』という薬よ。記憶を戻す事が

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十五話 帰国の喜び 

前話  帰りの道はあっという間だった。体調が万全でないフィーネペルルを思ってヴァルターとライアンは最短距離で移動したのだ。 「こんな近道があるなら、どうして最初から使わなかったの?」  フィーネペルルが不機嫌そうに言う。まるでまた少女に戻ったようだ。 「この道は結構危ないんだ。それに君たちは旅を通して成長する目的もあった。目的に地に一直線という訳にはいかなかったんだよ」 「もう。成長なんてないわ。ただの旅行だったもの」  そう言って不機嫌そうに言うと首に手を絡める。 「こら

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十四話 死と再生の奇跡

前話  ミスティック・ローズの毒はすでにフィーネペルルの全身に回っていた。それでも中和剤を飲ませると少し唇の色が回復していた。あとは本人の意思だけ、と言われたヴァルターは何日もフィーネペルルの側に座って手を握っていた。 「どうして、君はそこまでしてくれたんだ。私には記憶がなくても姉には変わりはない。記憶のないままで生活しても良かったのに……」  力のないフィーネペルルの手を握り、唇をつける。まるで自分の命を送れればと言うように。  どれだけそうしていたか、フィーネペルルがか

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十三話 ミスティック・ローズの試練

前話  翌日、国王の代わりとなる貴族の男性が、フィーネペルル達をエーデンローズの聖域へと案内する。  目の前には鮮やかな花と水晶が点在する聖域があった。隣に神殿らしき建物がある。あまりにも美しい景色にフィーネペルル達は息をのんだ。 「ここからはあの神殿の神官達に任せます。どうか、ご幸運を」 「ありがとうございます」  フィーネペルルは会釈した男性に会釈を返した。 「フィーネペルル様方でございましょうか?」  白髭を蓄えた身分の高そうな神官が目の前にいた。前触れの気配もなく現

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十二話 花咲き誇るアムネシア国

前話  最後の宿からほどなくして、一際明るい様々な色であふれた、国境が見えてきた。もう、アムネシアに着くのだ。フィーネペルルは旅の終わりを残念に思うも、ヴァルターに秘密を知られてはいけないと、肝に銘じる。女性しかエーデンローズの聖域に行けないと言うことは知られても良いが、ミスティック・ローズの棘の毒のことは絶対に知らせてはいけなかった。猛毒なのかどうかは記載されていなかった。ただ、「取扱注意」という印が付いていた。それはより詳しい花の本にてフィーネペルルだけが知り得た事だっ

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十一話 愛の贈り物

前話  何日かは街の宿屋に泊まれた。カタリーナとはしゃいで隣の部屋にいたヴァルター達に壁から叱られた事もあった。フィーネペルルとカタリーナはこの自由な旅が面白かった。城での堅苦しい行儀作法もここでは逆効果。素の女性として振る舞えた。いや、幼くなってはしゃいだ。周りはなんとうるさい客かとみているが、本人達は意に介することはなかった。ヴァルターとライアンだけにはこってりと叱られた。が、それもフィーネペルルにはいい思い出になった。なった、というほどアムネシアが近づくたびにそれを感

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十話 旅立ち

前話 「では、この親書をアムネシアの国王に」 「ありがとうございます。お父様」  フィーネペルルは丁寧に手紙を受け取った。それから父が何かを言おうとしたその矢先、封じるように言う。 「大丈夫ですわ。信じてください」  強い口調の娘に父はもう何も言えなかった。ここまで強い姫だったろうか。ふと、父は思う。母、エレナは涙を浮かべている。 「泣かないで。お母様。ほんのちょっとの旅ですわ」 「でも……」  死なないで頂戴、とは言えなかった。ヴァルターが知れば、即刻取りやめていただろう

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第十九話 死の覚悟

前話 「フィーネ、カロリーネから聞いたが、アムネシアの方に行くのか?」  翌日の朝食の席、父のゲオルグが聞く。 「ミスティック・ローズがどうしても必要なんです。マリアはヴァルトのお姉様なの。お願い、お父様。ヴァルトにお姉様を返してあげて。二人だけの姉弟なのよ」 「それで、ただ行って花をもらえると思うのか?」  いつもと違う厳しめの声で父は言う。いいえ、とフィーネペルルは首を振る。 「自生しているエーデンローズの聖域はヴァルトの話では警備が厳しいと。お父様、お口添えをお願いで

【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第十八話 フィーネペルルの決意

前話 「まぁ。エルフィ。いつからいたの?」  夕陽が沈もうとする頃、やっとフィーネペルルは現実に返ってきた。 「フィーネ。戻ってきたかい?」 「ヴァルトもエルマも。みんな揃ってるの? ライアン様とカタリーナは?」  今更それを言うか? とでも言う表情のヴァルターである。 「戻す方法は知っていたが、刺激になるんでね。エルフィを番犬代わりにおいていって戻ってきても、君はここで物思いにふけってるんだからね。驚きだよ」 「ああ。少し、マリアの意識が飛び込んできて追体験していたの」