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【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:最後の眠り姫 (1)

 エミーリエはふっと目を覚ました。館の中は薄暗かった。精霊と契約を結んでいるはずなのに誰もいなかった。手元には燻製音声の機械があった。ボタンを押すと懐かしい人の声が聞こえてきた。ぽとり、と滴が落ちる。
「お母様・・・」
 エミーリエは母エレオノーラの魔術で眠り姫となった。戦が激しくなったからだ。祖父の帝国は滅び、祖父達は東に逃れていった。母達だけがなぜか西へ行くように言われて逃げ延びた。そこでも戦争は激化し、十六歳のエミーリアは母エレオノーラの術で眠り姫となった。ただ、精霊との契約は終わっているらしい。母にはそこまでの力がなかったのかもしれない。一度心肺停止に陥ったこともあり、魔力はあまりなかったと父が言っていた。それでも無理して眠り姫にしてもらった。あれから何年経ったのか。エミーリエには解らなかった。靴を履いてそっと屋敷の外に出た。その目の前にはなぜかこんこんと水が湧き出る泉があり、その側では白馬に水を飲ませている青年がいた。
「君がエミーリエかい?」
 青年の口からエミーリエの名が飛び出た。
「どうして私の名を・・・」
「古い手紙が我が王家に伝わっていたんだ。泉のほとりに建つ館にはエミーリエという姫君が眠っていると。そしてその目覚めるときまで書いてあった。その日付に会いに行ける王子がエミーリアの夫となる、と」
「お・・・夫ですってー!!」
 先ほどの不思議な色を称えた榛色の瞳が大きく見開かれた。不思議な雰囲気はもう消えてしまい、一人の少女として青年と向かい合っていた。
「私、まだ十六よ。そんな早くに婚礼なんて・・・」
「だったら、待てばいいじゃないか。俺の名前はクルト。気軽に呼んで」
「って・・・。何者かわからない女の子と結婚するって嫌じゃないの? 勝手に決められてるのよ?」
「俺は、特に文句ないよ。エミーリエすごく可愛い顔してるし。目の色も髪の色もとっても素敵だ」
「それは外見上でしょう? 性格知ってるの?」
 ああ、とクルトは簡単に言う。
「手紙に一通り書いてあった。プライドが高くて、わがままで、お転婆だって。好きな食べ物とかいろいろ書いてあったよ」
「って・・・。お母様、何を書いたの?」
 娘の隅々まで書き込むなんて。
「目覚める日付の部分だけ字が違うんだ。おそらく、魔皇帝の字だろうね。未来を予測できたらしいから」
「って、今、何年後?」
「二千四百年後。四百年前に、末娘のエリアーナ姫が覚醒して、王子と結婚した。その家系の端っこの方にいた俺の一族が今、この国を治めている。魔皇帝が治めていた時代は非常に平和だったんだね。それがある帝国の侵略で奪われた。その王家も滅んで別の王家がこの地にきた。それが俺の出所。東と西で王国は別れたけれどね」
「なんだかややこしいわね。歴史の本は持ってるの?」
「宮殿に本ならずらりとあるよ。列王記が。読みたいなら着いてきたら? 結婚はもう少しあとにするから。十六の花嫁は流石に若いから。あ。俺? 十八。適齢期なんだ」
 エミーリエが言おうとしていたことを先にクルトは言ってしまう。
「もしかして、私の声が聞こえるの?」
 いや、とクルトは首を振る。
「魔力を共有しないと出来ないらしいよ」
 ほっと、エミーリエは胸をなで下ろす。母と父のように流れっぱなしでは困る。制止の方法は教えてくれなかった。自分で考えるように、と。

 お母様、お父様。この現状を知っていたのですか?

 見も知らぬ王子に嫁げとはあんまりよ。

 私は真っ青な空を見上げて両親へ文句を言った。暑い夏が来ようとしていた。


あとがき
あとがきをつけるのを忘れました。
このシリーズの前の分は過激すぎるので封印、NOVEL DAYSに飛んでお読みください。なんとか、ギャグで押さえていたいところ。これはユング心理学は関係ありません。シリーズの延長戦です。本当は5で終わるはずだったのに、エレオノーラ夫妻が西に逃げ延びたという話が行かせなかったためついこれを突っ込みたくて書き出したところです。そして2400年も経ってたらそりゃ現代化してるだろうという設定尾本の魔法と機械の混じる世界でございます。これも再掲連載小説です。のでChatGPTさんはまったく関係ありません。そんなものが出る前から書いてた物なので。当分、新作はストックができるまでこの「最後の眠り姫」と「気づいたら自分の小説の中で訳あり姫になっていました」の投稿となります。話数がたまればまたそちらを掲載しますのでよろしくお願いします。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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