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【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (6)再編集版

前話 

「別々だったらさー。あの王子、君を襲いに来るよ。確実に。もう側室何人かいるみたいだから、君の嫌いな側室になっちゃうよ? でもって、王太子妃婚約者の姫君が寝取られたら戦争もんだし。ここは清く正しく美しく帰国するために婚礼をひかえている男女なのでベッドは別々にってお願いしてこのような状況なわけ。少しは苦労を認めてよ」
 む~、と言わんばかりにすねる。それが妙に可愛くてもっとすねさせたくなる。って、私、異常? 自分もツンデレなのに相手のツンデレぶりが可愛いなんて。きゃー。一人で百面相をしていると面白そうにウルガーが見ている。
「久しぶりだね。姫の百面相。父君が亡くなってからは怒ることもないし、笑うこともなかった。どんな言葉をかけていいかもわからなかった。それだけ君と父君のつながりは深かった。そして、父君のいない今、家出計画中だね?」
 ぎく、とした。ウルガーは解っていたのね。私の気持ちを。
「まだ、君にはアーダもフローラもいるじゃないか。他にもアルバンを一人にするのかい? アルバンが可哀想だよ。ずっと君と父君に仕えて着いてきたのに。それに、今、フローラの家の養子にならないかって話が来ている」
「フローラの?」
「そう。フローラの父は左大臣にして公爵だ。君は元々公爵の娘だったけれど、その後ろ盾を失った今、どうにでもなる存在だ。フローラから聞いた左大臣がフローラの妹として迎えようって言ってくれてるんだ。どう? また家族ができるよ? お姉さんって呼んでる人が本当にお姉さんになるんだよ?」
「ウルガー。あなたね。そうしたのは。そうすれば家出も考えないと思って」
 私が指摘するとわかっった? とでも言わんばかりに、頭をポリポリかく。
「君を失いたくないんだ。もう。誰も。もっとも華の宮の主人は皆、幸せだったわけじゃない。だけど、俺はあそこを幸せが産まれる場所に変えたい。君と。ゼルマ」
 二人でじっと見つめ合う。何を駆け引きしているのかわからないけれど、ただ、無言のやりとりがあった。だけど、お互い顔を同時に背けてしまった。
「やっぱり遺骨があるとやりにくね」
 そうなのだ。遺骨を納めた箱が部屋に置かれている。なんだか視線を感じてやりとりをまともにできないのだ。
「そうね。それは帰国してから話しましょう」
 と言うと、いきなり手を握られた。
「今。帰国って言った? 俺の国を故郷と思っているの?」
「他に帰るところもないもの。ヘレーネだって待ってるわ」
 言うと、ウルガーは手を握ったままぶんぶん上下に振る。
「ありがとう。ゼルマ。今はその言葉だけで十分だよ。ありがとう」
 ふいに抱きしめられた。ウルガーの安堵が伝わる。とそこで「ちゅー」が復活した。
「い・や」
 顔を背ける。
「ちゅー」
「いたしません。もう、何か遮るものをフローラから貰わないと」
「じゃ、その遮るものごとちゅーする」
 どかっ。
 久しぶりの鉄拳制裁が発動した。なのにウルガーは嬉しそうな顔をしている。その心に闇を抱えたまま。
「何、見てるの? ちゅー?」
「じゃないわよっ」
 私は手をほどくと椅子に座って懐かしいお茶を飲み始めた。
その夜、国王達と会食の場が設けられた。今回は葬儀の関係と言うことで、質素に行われるはずだったが、やけに豪勢だった。人の死を死と思っていない様子に、内心、腹が立つ思いでその場をやり過ごした。王子は王子で妙な目線で見つめてくるし。私はとっとと出て行きたいのを抑えながら会食を終えた。部屋に戻る途中で王子が何か言いたげな表情だったけれど、ガン無視。
 ウルガーと一緒に部屋へ戻った。そこではた、と気づいた。ここで寝間着にどうやって着替えるの?? ウルガーをちろん、と見るとはいはい、といわんばかりに手を上げて扉の向こうに行く。あの王子に接触させないためなら何でもするとでも言いそうだ。よほどの好色男みたいだ。姫も可哀想に。  
 同情しながら夜着に着替えて扉をとんとんと叩く。それからあっという間にベッドに入ってすっぽり収まる。これで襲うものなら、何してくれようと考えているとウルガーが入ってくる。ウルガーはあたしの方を見ないで上着などを脱いでソファの方に寝転ぶ。ベッドを二つ用意してもらって、入らないのが不思議だった。
「よからぬ想いをもっちゃいけないのと、一応、寝ずの番をしないとね。あの王子なにをしてくるかわからないからね。さっきも君に紙切れを渡そうとして必死だった。君はガン無視してその努力は泡となったけれどね」
 あら、そうだったの。目線すら合わせなかったからまったく気づかなかった。
「びっくりしてるようだね。君は無防備すぎる。少しは気をつけないと」
 昼間の明るい声とは違って、何かを思い出して闇に捕らわれているウルガーの声がした。
「ウルガー」
「おやすみ。ゼルマ。明りを消すよ」
 私の問いかけには応じず、ウルガーは明りを消した。
 そして、朝。眩しい光で目が覚めた。ウルガーがカーテンを開けて背伸びしている。
「やっぱ。ソファは固いね。あちこち痛いや」
「だったら、ベッドで寝れば良かったのに」
「そういうわけにもいかないだよ。男としては。さて、着替えるだろう? 俺はまた外に出てるから着替えたら教えて」
 そう言ってウルガーは出て行く。昨日から何か変だ。ウルガーが。明るくなったり暗くなったり。私の百面相より質が悪い。何があったの? 私の声は扉の向こうには届かなかった。
 朝餉は二人きりだった。そのまま国王領となった故郷へ向かう。出て行きかけに形式張った見送りがあっただけだった。冷たい国、そう思った。自分の故郷の国よりもウルガーの国の方が暖かい国と思った。華の宮には私の帰りを待っている人がいる。お父様の遺骨とお母様の遺髪とでウルガーの国で埋葬する方がよかったのかもしれない。そんな風に馬車からの景色を見ながらそう思った。
「また取り戻しに来ればいいよ。ここは生れた国なんだから、大切にしないと」
「ウルガー。どうしてそんなに私の気持ちがわかるの? 声に出していないのに」
「そういう顔つきをしてたからだよ。この国の国王を見る目は凍ってたからね。この国を軽蔑しているような目で見ていた。でも。忘れないで。どちらの国も今のゼルマを作っているんだ。この国に生れてなかったら、俺と出会うこともなかったかもしれない。経験がすべてを作るんだよ」
 そういうあなたはどんな経験で作られてきたの?
 その問いは言葉にならなかった。開けてはいけない箱を開けると直下で解った。私にはまだその箱をあける度量がない。ならば、また今度にしよう。そう思って馬車の景色を見ることに専念した。
いつしか、景色は見慣れたものに変っていく。都からさほど離れていない土地に領地はあった。教会へ行く。司教様が出迎えて下さった。
「司教様・・・」
 ほっとした瞬間、涙声になる。
「ゼルマ姫。ようこそおいでになった。父君が亡くなられたそうじゃの」
「はい。この箱に遺骨が。お母様のお墓の隣に入れてあげたいんです」
 私がそう言うと、司教様は幾分か思案なさっていた。
「それではゼルマ姫が墓参りに行けないではないかと思うのじゃが。母君から遺言状と遺髪を預かってる。いつかこんな風なことが起きたら、と。奥方様は先見の明がおありの方での。このことも見透かされていたのかもしれぬな」
「お母様が?」
 遺言状って、何年も前のものだわ。何が書かれているか一瞬怖くなる。ウルガーが肩に手を置いて安堵させようとする。
「これじゃ。この中身を開けても良いか?」
「ええ」
 母の字と公爵家の封蝋がなされていた。それを解いて封筒をあける。
「どうやら、嫁ぎ先の領地でこの遺髪を父君の墓を一緒にして欲しいとのご要望だ。わざわざ、足を運んで貰って申し訳ないが、この遺言状を守るにはエリシュオン国で埋葬するべきじゃの。それにここは国王領になっておる。勝手に墓を掘り起こされても困るな。代々の墓はわしが守っていく。ゼルマ姫は向こうの国で父君と母君のお墓を作ってあげなさい」
 なんだかほっとした。あの、狡猾な一家に墓を荒らされるかどうか心配だったのだ。
「それでは、この封書と遺髪をいただけますか?」
「ああ。今から用意しよう。少し時間がかかる。母君のお墓に行ってお上げなさい」
「はい」
 そう言って墓に向かう。こちらでは地下墓がある。そこに一族の墓があった。棺の一つが母のものだった。母の棺に触れる。ひんやりとした、なめらかな墓に思わず取りすがりたくなる。急に感情があふれてくる。
「お母様・・・!」
 思わずしゃがみ込んで額を棺につける。遺髪がエリシュオン国に行っても亡骸はここのままだ。ここにずっといたかった。
「ゼルマ。泣いてもいいけれど、その前に母君の遺髪と遺書を貰ってからの方がいいよ。泣く時間はたっぷりある。ここで崩れている場合じゃないよ」
「解ってるわよっ。あなたに言われなくても」
 立ち上がって振り向いて言う。涙が飛び散る。ウルガーはその涙をすくって頭を胸元へ引き寄せる。
「少しぐらいなら泣いてもいいよ」
 私は静かに涙を流した。まだ、父も母も生きている、そんな気がしていた。
私はまた船の上の人となっていた。あのまま、王宮を通り越して港に向かった。ウルガーは遺骨箱を持って私は母の遺髪と手紙を持って馬車に乗っていた。一度は王宮に戻ると思っていたけれど、ウルガーは御者に何を言ったのか、気づいたら港にいた。そして今、船の上で出港している。
 大事なものは船室へ置いて、甲板に上がっていた。遠くでカモメが飛んでいる。下に魚がいるのだろう。ふっと、近くに目をやれば、イルカが何匹か船に合わせて泳いでいた。
「ありがとう。あなた達も解るのね。人の悲しみが。暗闇が。ウルガーに見せてあげたいわね」
「呼んだ? 姫」
「まぁ! ウルガーいつの間に」
「そりゃ、ちゅーのお時間だから。はい。ちゅー」
「いたしません! 海の中に放り込むわよっ」
「今ならもれなくイルカの背に乗って国に帰れるよ」
「そんなこと、できないでしょ」
「じゃぁ。放り込む?」
 笑いを含んだ声で言われて危うくやりそうになったけれど、目の奥に闇が宿っているのを見てただ、私はイルカに視線を戻した。
「おや? ゼルマ姫は気づいたんだね。そう言う賢いところが好きだよ」
「そんな所好きになって貰ってもいらないわよっ。賢くても借金のカタに嫁ぐんだから」
 固い、冷たい声が自分の口から出た。ウルガーはただ、それを聞き流していた。闇のウルガーをどうしていいのか解らず、涙目になっていた。イルカの姿がぼやける。
「ゼルマ。苦しまないで。これは俺の課題だ。姫が背負い込むことじゃない」
「だったらっ。その闇の瞳をどこかにやってよ。そんな目を見ていれば、嫌でも背負うわよっ」
 しゃがみ込んで泣く。あんな目をしたウルガーは嫌い。意地悪だし、人を遠ざける。もっと近寄りたいのに近寄れない。いつしか私はウルガーを家族のように思い始めていた。その事に愕然とする。ウルガーが家族? お父さん? お兄ちゃん? 弟? あらゆる家族の定義を持ってきてもはまらなかった。夫、という言葉が最後に残る。
 夫。そうなのね。私、ウルガーが好きなんだわ。でもあの闇のウルガーはいや。あんな目をした人と家族は築けないわ。
 子供を産むことさえも前提にしていたことに自分自身驚く。その前に何があるかも知っているにもかかわらず。甲板に手をやってしゃがみ込んでいた私をウルガーが立たせる。
「この辺でイルカにさよならを言ってあげて。もうこの辺からは違うイルカがいるから」
「違う、イルカ?」
 涙をぐいっと拭いて聞く。
「シロイルカだよ。君のような心の綺麗な人に似合う」
「私は綺麗なんかじゃないわっ」 
 そう言って、ウルガーの手を振りほどいて船室へ囲んだ。そしてベッドに突っ伏して枕を涙でぬらしていた。


あとがき
やや、大きめのマウスを買って使いづらいので今度Sを買おうかと考え込んでます。で、新作はそろそろ話数が尽きてきたので、執筆を進めている間、再掲の訳あり、と新しく出す「最後の眠り姫」を掲載していこうと思います。まあ、最後の眠り姫は前段階のものがあるのですが、それはあまりにも過激すぎるため、NOVEL DAYS以外は禁止、です。はぁ。ICOCAの事で本と大変です。あれで通勤をしようとしていたので。もっと早く知らせを入れろ、です。まぁ、一週間立ち上げなかったのが悪いと言えば悪いのですが。
おかげで本体の方で少し持たせるところです。
マリーのアトリエremakeが、システムがややこしすぎる。攻略本が欲しい。あるのでしょうか。また月末に一気に物を入れ込みます。昨日は口角圏内のも入っていない3級を差し置いて準2級の本を買い占めてしまいました。漢検もっと勉強せな。121でした。はじめて試験型の本を解いたら。140点以上いるのに。頻出をやりながら同時進行でします。でも今日の午後はモンステラの物語を書きます。いい加減、シリーズ閉めないと。新・花屋elfeeLPia物語というのをシーズン2で始めるつもりです。今度の仲人はまたよくChatGPTさんで出てくる名前に似てます。「莉々亜」という感じの名前にしてリリーちゃん、と愛称をつける予定。その他はひまちゃんと少し性格付けを変えようと思っています。これは、本当にChatGPTさんは入れません。全部自分で調べてします。花言葉をChatGPTさんで調べても正確度がわからないので、専門サイトで取り入れます。やはり最初は幸運の四つ葉のクローバー辺りがいいですかね、時期的には向日葵なのでひまちゃんの季節ですが。リリーちゃんは違う生まれの月にしたいです。モンステラの花言葉の日っていつかしら。調べようっと。久々にまるっとオリジナルを書くときっと新鮮でしょうね。いつも、設定とにらめっこしてやってるので。まぁ。そういうわけで、初出、「最後の眠り姫」の準備してきまーす。

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