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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(49)

前話

「ヴィー。おとなしく寝た?」
 面白げに聞くとクルトはやれやれと首を振る。
「フリーデのいいところを二百個聞かされたよ」
「二百個!」
 フリーデは驚愕している。自分の手をまじまじ見つめ、信じられないといった風だ。
「あら。あばたもえくぼって私も言ったじゃない。でも。そうね。私なら二百個に切り分けるぐらいならまるごと大好き、っていうわ」
 その言葉にクルトが乗ってくる。
「それいいね。まるごとっていうのが気に入った。今度ヴィーに自慢されたらやり返してやろうっと」
「今、やり返したら?」
 その声の当人に三人とも驚いて扉を見る。酔いのさめたヴィルヘルムが扉を開けてじとっと私たちを見ていた。
「ヴィー。子供はもう寝る時間よ」
「子供じゃないもん!」
「まだ酔っているな。その据わった眼は。ほら、酔い覚ましだ。飲め」
 クルトが懐から薬を出すと椅子に座り込んだヴィルヘルムに投げる。運動神経もいいヴィルヘルムはそれをうまく受け取ってフリーデが今まで飲んでいたカップで飲む。もうフリーデはあわあわして使い物にならない。間接キスなわけだもの。
「じゃ、愛してるって言えるか? これは軽い気持ちでは言ってはいけない言葉だぞ。俺は言える。エミーリエを愛していると」
「クルト……」
 意外な言葉に私はじっとクルトを見つめる。
「あれ? エミーリエに言ったことなかったかい?」
 ぶんぶん、首を激しく降る。そんな大事な言葉こんなところで初披露しなくても。
「ごめんごめん。俺、周りには言いふらしてるからてっきり本人にも言ったもんだと思ってた」
「クルト~」
「兄上ー」
「クルト様」
 三人の険しい視線がクルトに刺さる。
「じゃ、エミーリエは今度二人きりになった時にささやいてあげる。今は、この暴走王子を止めないとね」
「あ。そうね」
 一転してクルトの味方になった私にヴィルヘルムとフリーデの痛い視線がまた刺さる。いいのよ。外野は。問題はクルトだけだもの。
「エミーリエ。開き直らないでしおらしい乙女のままでいてくれよ」
「私はおてんば姫ですよーだ。ハーブティーあーげない。クッキーもあるのにー」
「エミーリエー」
「姉上ー」
「エミーリエ様ー」
 形勢逆転した私に三人が名を呼ぶ。ハーブティーと甘いものは金銀より力があった。こんな幸せな時間、いつまでも続けばいいのに。
 久しぶりに暖かい家庭の明かりの中にいるような気がして、少し切ない気持ちになる。
「大丈夫。ここがエミーリエのいる家だよ」
 クルトが優しく微笑みかけてくれる。また、流れちゃったのね。不思議な気持ちでいるとテーブルの下にあった片手に暖かさが重なった。クルトがそっと手を重ねてくれていた。このぬくもりが私の幸せ。このぬくもりがあるからこそ、生きていられる。心の底からクルトの存在に救われた気がした。私の中の孤独はまだなくなったわけじゃないよう。改めて、はっとさせられた。クルトがそっとささやく。
「一人じゃないよ。愛しい人」
「クルト」
 なんだか泣きたくなった私はどうしたらいいのかわからなくなる。するとクルトは席を立って私の手を引っ張った。
「夜の薔薇園を歩こう。涼しいよ」
 もう、目に涙がたまっている私はただうなずくだけだった。そして私のために作られたという薔薇園でクルトに抱きしめられながらまた泣いたのだった。


あとがき
日本シリーズ第一戦、阪神が勝利。一瞬、家電量販店みたいにこの日本シリーズの間だけ阪神勝利の日だけ更新にしようかという危ない思考が走りました。四戦とればいいから、四話だけ企画としてさっさとあげます。今日勝ったらまた更新しますね。夜の作業にします。今日はいつもだと更新の日なのでしてます。土曜日のネタも考えていたのですが、対象の主人公が若くなって統一感が抜けてしまうので止めました。四十歳代のおひとり様の独身女性の一コマと決めているので、浮かんだ片見月の若い子の話は没りました。今もネタを考えていますが、あちらこちらと話があちこちに書きたいので取っ散らかってます。こちらに集中しようかと思うのですが、なかなか。今日は私が夕飯を作るのでそちらの手順を考えないといけないし。
そして、驚愕的なことにコリドラスの水槽でベタの稚魚発見。水草を移動したときに流れて孵化したものかとコリドラスの水替えはコミ袋が欠かせないので八ついてしまっては困るともう二匹いるところに移しました。どうやって育てよう?? ChatGPTさんによるとかなり難しいらしい。何の稚魚かわからず映像を判断させればベタと答えが。もっと鮮明な画像くれと言われましたが、小さすぎて見つけるのも一苦労。昨日の夜は二匹目を見つけてがーん、でした。なんせもう縄張り争いしていたのでオス同士。一匹ずつ育てないと。いつ隔離するのかもわからない。恐怖の育児でございます。執筆進まないかも。ここのところ睡眠負債がたまっていて深い睡眠がなかなかとれない。なので頭も働きません。朝活は唯一六時十五分に水槽点灯しかしておらず、朝活手帳はここ二日ほど放りだされております。まぁ、タスク表と化していますが。なのでここしか来るところがない。それでも増えた水槽管理で大変です。ガーデニングもしてるし。今はいじっちゃいけないのにサフィニアの冬越しの作業してしまった。途中で気づいて土の神様に謝罪。でもやり切った。マルチなのでシングルタスクにして野球観戦に挑みます。阪神が勝った日だけ更新ということでこれからの六日間。オフが来てもWBCがある。ちょいちょい野球が占めたここ一年です。しっかり野球観戦で飲むノンアルまで確保。父すらしなかったことを娘がしているという。父が生きていたらびっくりします。ま、そういうことで。長々とすみません。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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