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【未完小説(完結を目指します)】とびっきりの恋をしよう! 第二部 第三話 太陽と月の卵後編

前話

 初め、レンはレガーシとサーラと文献をあたって月の卵の事を調べていた。しかしサーコの体力がやや回復し起き上がれるようになると本を持ち込んでサーコの看病にあたった。
「レン。少しはレガーシたちと調べたら? 私は大丈夫だから」
「レガーシよりもサーコといるほうが断然いい」
 くっつき虫と化したレンを追い出すのは無理だった。ことあるごとにレンはサーコを抱きしめる。まるでサーコの命を確かめるように。相当驚いたのあろう。サーコが倒れて。
「もう。レンったら、私なら大丈夫だって。もう少し養生したら育成に向かうわ」
「だーめ。完全回復してから」
 そう言ってサーコの開いている口に果物を放り込む。レガーシも過保護だがレンも相当過保護らしい。
「それに月の卵の事が判明しない限りむやみに動けない。この卵も狙われるのだから」
「簡単かもしれないわよ。もしかして月は太陽と対になっているのではないかしら。太陽と月。私とレン、みたいに」
「対だったらどうするんだ?」
「その石を太陽の間に置く」
 はぁ?、とレンは豆鉄砲を食らったような顔をする。それにくすり、と笑ってサーコは続ける。
「そう。それで太陽の成長が止まってたのかもしれない。そうね。同時に育つんじゃないかしら?」
「同時に? 月はサメットとかいう女神じゃなかったのか?」
「太陽の娘がルーという名前をあげたわ。今はラーとルーよ」
「そんなことはどうでもいい。俺はサーコが無事なら」
「もう過保護なんだから」
 先ほどから思っていた言葉を言う。レンが聞きなれないようでオウム返しで問いかけてくる。
「そうやって心配ばかりしてる人の事よ。多少は私を信じてほしいのだけど」
「わかってる。だけどまた倒れたら・・・。俺はどうすればいい?」
 切ない目をしてサーコを見つめるレンをサーコは抱きしめる。
「大丈夫。私は死なない。なんたって太陽の娘だもの。レンだって月の息子よ。お互い死なないわよ。ちょっとやそっとじゃ」
 それでも戦であっけなく死んでいった兵士たちを思い出す。人の命ははかない。なのにサーコは大丈夫という。感情が千々に乱れる。それを見たサーコがまたレンを抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫」
 背中をぽんぽん、とサーコがたたく。レンの中に安ど感が産まれる。安心しすぎていつの間にかレンは眠りに落ちていた。見計らったかのようにレガーシが入ってくる。
「やはり眠られてしまいましたか。レン様はサーコが休んでいる夜もずっと文献を読まれていました。お止めしましたが聞き届けられず・・・。それはもう熱心に頑張られておられました。でも乙女の部屋で眠るわけにはいきませんね。連れていきますね」
「ありがとう。レンにも休むようにお願いして。私も言ってるって」
 はい、とにこやかに返事してレガーシはレンを部屋に戻しに行った。

 その数日後、サーコは目覚めると部屋でラジオ体操第一をしていた。あの有名なメロディを口ずさみながら。入ってきたサーラが固まっている。
「な・・・なになさってるのですか?」
「見ての通り、ラジオ体操よ。健康に不可欠な軽い運動よ。もうベッドは飽きたわ」
「さー・・・。何してんだ?」
 入り口で固まっているサーラを通り抜けてレンが言う。
「だから運動。もう起き上がってもいいでしょう? 散歩がだめなら室内運動よ」
「わかった。わかったから無理はしないでくれ。俺の心臓がもたない。育成しよう。焦らず」
「ホント?! 育成してもいいの?」
 サーコがレンに抱き着く。あのなぁ、とレンが言う。
「年頃の男に寝間着で抱き着くな。あらぬ妄想が浮かぶだろうが」
「あらぬって?」
 さんざんサーコを抱きしめていたのに自分が抱き着くと注意される。意味がわからなかった。
「サーコは子供か。それぐらい理解しろ」
「理解ってなによ。理解って」
 痴話げんかが始まりそうになったころにレガーシは現れた。
「お二人とも元気なら仕事してください」
「え? いいの!」
「仕方ないでしょう。それほど動けるなら大丈夫です。レン様が過保護なだけです」
 お前もだろ、とレンは言いたかったが何をされるかわからなかったのでだんまりを決めこむ。
「サーコは朝食を食べて着替えてきてください。さあ。レン様続きをしますよ」
「えぇー」
「えー、じゃありません。乙女の部屋にいられるのは看病の時ぐらいです」
「看病でもダメだからね!」
 サーラの肩越しにサーコは叫ぶ。
「わーった。どいつもこいつも俺を邪魔者扱いして・・・」
 そこまで行って口をレンはつぐんだ。思わず婚約破棄を言いそうになったのだ。軽い口として。ただ、一度言うとただでは済まない。サーコは恐ろしく自己犠牲精神が高い。いつ位の高い女と結婚しろといって消えるかわからない。そんな恐ろしい目にはあいたくなかった。サーコのいない世界は考えられない。
 危ない、危ないとレンはつぶやく。
「何か言いましたか?」
 カンのいいレガーシが振り返るが否定する。まじめに受け取られたらやっかいだ。打ち消すとレガーシは何も言わず部屋へ向かった。知ってる気がするのは気のせいだろうか。
 半刻もするとサーコがサーラに付き添われて現れた。先ほどの室内運動がよかったのか頬が薄く上気して健康的な乙女に見えた。女の子でなく美しい乙女だった。いつの間にこんなにきれいになったのかとレンは見つめる。神々しくもあった。見つめているとサーコと視線がからんだ。最初にそらしたのはレンだった。
「どーしたの?」
「いや、きれーだなと思って」
「ほめても何にも出ないからねー」
 背中をバシッと叩かれる。強烈な痛みに昔の名前が飛び出る。
「訂正。ブスサーコにしとく」
「まだそれ言うつもり?」
「はいはい。痴話げんかはそれぐらいにしてください。文献を探しますよ」
「はぁい」
 声をそろえて答えると調べ物を始めた。

 何刻たっただろうか。サーコが文献から顔を上げた。
「決めた」
「何を?」
 レンとレガーシは本から顔をあげない。
「育成に行く」
「はぁ?!」
 レンが立ち上がると写本がばらばらと落ちる。
「レン様いきなり立ち上がらないでください」
「いきなり育成って!!」
 雷を落としかけたレンをサーコは止める。
「その月の石を太陽間に置く。月の間はないんでしょ? それならそれにかけてみたい。対のような気がするの。太陽と月は。成長が止まっていたのもそのせいかもしれない。そうレンには言ったでしょ?」
「それは聞いたが、ほんとーに置くだけだぞ。育成はまだだからな」
「うん。今はそれでいい。レンの手が空いて私が完全復活したら育成を始める。ね? マイダーリン」
「ああ。マイハニーだったか?」
「覚えていてくれたんだ。ありがとう」
 抱き着きそうな勢いで顔いっぱいに笑顔が広がる。この笑顔にレンは弱いのだ。もっともレガーシもサーラもだが。
「では明日になさっては。もう昼もだいぶすぎましたし。もうすぐサーラのお茶ができますよ」
 それを言われると痛いサーコである。乙女にお茶会は甘い誘惑である。
「じゃ。明日」
 恥ずかし気に言うサーコをレンはいとおしく見る。その視線に気づいてサーコはレンを見つめる。
「どうしたの?」
「いやぁ。女の子ってかわいいなぁって。俺も女に産まれればよかった。そしたら母上も喜んだだろうし」
 サーコが小さく笑う。
「男の子でいてよ。結婚できないじゃないの」
「まぁ。そうなんだが。ほんと―に俺と結婚していいんだな?」
 妃になれといった割には小心者である。
「当たり前じゃない。でなきゃ。世界も、両親も、友達も捨ててこないわよ」
 そう。サーコはこの世界のたった一人の異界人。家族この世界にはいない。どれほど心細いか、つらいか。
「大丈夫です。親代わりに私とサーラがいるのですから。おいやですか?」
 レガーシが話に入る。
「ううん。ただ血のつながっている人が一人もいない。このことを理解できるのは大昔の太陽の娘だけだと思う。この世界にも養女っていると思うけど」
「そうですね。血は水より濃しといいますからね。でも忘れないでください。ここにも宮中にも親代わりも友人がいることを。レン様も友人がおられるはず。この物騒な世の中でも心のきれいな人もいるのです。それを見極めるのも覇王と妃の役目ですよ」
「そうそう。夫も忘れるなよ」
「もち。レンなしでは生きてけないもの」
 そこへ無理やりレガーシが入る。
「はいはい。痴話げんかか二人の世界はやめてください。ここにはあと二人いるのですから。サーラのお茶が入ったようですよ。向こうでいただきましょう」
 本を丁寧に置くとレガーシが立つ。二人もそれに倣って後に続いた。

 翌日、レンが大金をはたいて作らせた太陽の娘の衣装を身にまとったサーコはレンと久しぶりに天の小道を歩いていく。ひんやりとした風が心地いい。やがて大きな扉が突如として現れた。二人は扉を一緒にあける。
「いいか。置くだけだからな。置くだけ。置いたらすぐ帰る」
 太陽の球体はきらきら光っていた。喜んでいるようだ。さみしかったのだろう。
「ごめんね。待たせたわね。今日はお友達を連れてきたの」
 そう言ってレンを小突く。
 レンはペンダントを外すと石を太陽のゆりかごに入れた。すると、ぽんっという音とともに小指ほどしかなかった石が手のひらサイズに大きくなった。
「うわっ」
 思わずレンは後ずさりする。
「そんなに驚かなくても。ねぇ。月さん。太陽さんに会えてうれしい?」
 にこにことサーコは笑顔の大安売りをしている。それがいやで月とサーコの間に割って入る。
「サーコは俺のものだ」
「何やきもち妬いてるの。月の育成はレンだからね」
「俺が?」
 信じられないと両掌を見つめる。
「月と意思疎通ができるまでかなりかかりそうね。ま。がんばって」
 ぽんと肩を叩かれ茫然自失のレンである。
「俺にはムリだー!!」
 太陽の間にレンの叫び声がこだました。今回、太陽も月も一筋縄ではいかないようだ。まだレンの政争もある。いつまでも隠れていられない。暗雲が近づいてることに二人はまだしらなかった。育成はまだまだこれからである。


あとがき
あとがきを忘れていました。これでストック終わり。次の話は浮かんでいるので、近々書く予定ですが、明日は仕事なので4000字もかけないかも。今夜はどうでしょうね。イラストもbingでできるのですが、なんだか感じが違う。やりずらいけれどタダだしね。そのうち戻る。しかし、いろいろお金が入用なのは困る。貯金しないと。スマホからとしてもどこから入れたらいいやら。支払いが終わってからね。さて。一覧に出して計算か。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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