見出し画像

【再掲連載小説】最後の眠り姫 (3)

前話 

「ああ。もう可愛いっ。エミーリエって名前から素敵だわっ。カロリーネお姉様と言って見て」
「か・・・カロリーネお姉様・・・」
「きゃー。可愛いっ。一生、私のものよ!」
 すごい愛情を持っているのはわかるけれど、この状態はいささか危ないように感じる。私はこのお姉様と言う方と結婚するんじゃないかと思うほど、クルトが霞んでみえる。
「姉上! いつまでも人形ごっこを止めて、返してください。エミーリアは俺の奥さんです!」
「こっちは永遠の姉妹よ」
「シスコンは嫌われますよ」
「シスコン?」
 呟くようにオウム返しをすると、お姉様が両耳を塞ぐ。それを強引にクルトが奪って腕の中に確保する。
「異様に妹への愛を持つ姉上みたいな人の事だよ。さ、東屋でフルーツでも食べよう」
 そう言って手を引いてクルトは歩き出した。どこがどこだかわからない、大迷路のような宮殿だ。それをなんなく通って外へでる。暑い日なのにこの腕と足がにょっきり出ている服装だとそうも感じない。宮殿の外には霧水が吹いていた。不思議思って掌をむけると、霧水が手に乗って涼しい。
「ミストが不思議? こういう暑い日はこんな風に細かいミストを吹かせて温度を下げるんだよ」
「ミスト?」
 さっきからオウム返ししか出来ていない。少し、ムッ、とする。
「何も知らないで来たんだから、これから知っていけばいいよ」
 また先回りして答えられて、これもムッ、とする。
「姫のそういう所も好きだけど、機嫌直して。ほら、あそこだよ」
 豪華な八角屋根の下に何かがどーんとあった。
「この国で採れた果実のジュースや、アイスクリームがあるんだよ」
「アイスクリーム?」
「食べて見れば解るよ」
 そうして二人で座る。そこには周りにも誰もいなかった。給仕役も。
「今は、人件費がかかるからね。王族の私用な行動には人はいないんだよ。さぁ、これは解るだろう?」
「リンゴとブドウ?」
 真っ赤な果実と房になった青い実のなったものがクルトの手にあった。
「正解。君の時代のものもちゃんと引き継ぎられているんだよ。まったく知らない世界じゃないんだ。もっと、安心して。ここで涼んだら、あの手紙を見せてあげるよ」
 お母様が残した手紙。見たいような見たくないような。そこではっと思い出す。燻製音声がない!
 顔を真っ青にしているとクルトが手を広げた。
「お母様の声!」
 私はそれに飛びつく。コップがこぼれてジュースがはねた。水滴がクルトにかかる。
「あ。ごめんなさい」
「大丈夫。これ撥水加工してあるから」」
「?」
 またも聞いたことのない言葉に疑問符が飛び交う。
「大丈夫。疲れが取れたら、家庭教師をつけるから。勉強は嫌い?」
 クルトが目を見て話す。
「いいえ。好きな方だわ。この国の言葉をまず学ばないといけないようね」
「君は理解が早い。俺も姉も今は君の住んでいた時代の言葉を話している。言葉の勉強をして、そこから文化の理解に結びつけていけばいい。結構涼めた? 涼めたら、君の住む部屋に案内するよ。道順は簡単。俺の宮殿の隣だから」
「宮殿の隣? 建物の隣にあるの?」
「そう。君専用の宮殿があるんだよ。この日のために用意されてきた建物だよ」
 私だけの宮殿ですってー!!
 私はあまりの豪華さに目が飛び出るかと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?