見出し画像

【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(61)

前話

 遠くでキアラの鳴き声が聞こえる。頬にざらざらとした感じ慣れたキアラの舌が触れているのに気づく。
 がばり、と私は起き上がった。とたんに抱きしめられる。
「よかった。目を覚まさないかと思ったよ」
「クルト……。ここは?」
「さぁ。なんだか脈打てってどこかの体の中みたいだけどそんな巨大生物に襲われたのかな?」
 確かにどくん、どくん、と脈打っている。体が触れているものはとても柔らかい。見ると赤い血管のようなものも走っている。ふいに、恐怖がこみあげる。
 クルトにしがみつく。
「クルト。怖い」
「大丈夫。俺がいる。みんなで一緒に帰ろう」
「ってどうやって帰るの?」
「それは……」
「うなう~ん」
 キアラが鳴いてだっと走り出す。
「キアラ! ママたちを置いていかないで!」
 二人で必死に追いかける。キアラはわからない金属製の扉の前でちん、すまして待っていた。
「この先に行けと?」
 キアラに尋ねるとまた泣く。そして扉をかしゃかしゃひっかく。
「俺が開けるよ」
 躊躇していた私の代わりにクルトがドアノブを回す。

 扉が開く。

「エミーリエか」
 奥から低い老翁の声が聞こえてきた。
「誰?」
 怖くて震える声で言う。
「怖がらなくてよい。そなたの祖父だ」
「おじい様?!」
 クルトと顔を見合わせるとそろり、と踏み出す。ドアがパタンと閉まる。
「あ! 出口が!」
「大丈夫だ。またわしが世界をつなげよう。それよりこちらに。今回は、子猫が連れてきたか。おお。なんというのだ。お前は」
 優し気な声に祖父が魔皇帝だったということが信じられない。もっとおどろおどろしい声をしているかと思っていた。
「それじゃ、おばけだよ。エミーリエ」
「もう。また流れたの? おじい様この流れっぱなし何とかして!」
「それはそなたの母かしらぬ方法だよ。心の扉は締めないに限る。特に夫にはな」
「ここ、どこなの。おじい様」
 やっと暗がりから明かりのある場所にたどり着くと真っ白な立派な長いひげを蓄えた、魔とは程遠いおじい様がいた。
「今回のエミーリエは猫が連れてきたか。やんちゃなのだな」
「キアラは私の猫ですけど、私じゃないです! やんちゃなのはお母様だわ。娘のあれやこれやを……!」
「主の影としてそなたをここに導く者を選定するようにしてある。そなたがここに来たということは婚礼がそろそろあるのか」
「え?」
 想像しない魔術の世界の端っこを見せられて呆然とする。
「おじい様がキアラを私に?」
「きっかけはきまっていない。この世界はいろんなものが同時に存在する。その少しずつ違う同じものがここに来る。わしは何度も違うエミーリエにあっている。そのたびに私も繰り返しここにきて託している」
「託す?」
「魔皇帝の剣と水晶だ。それぞれが相続し、世界の平定をするのだ。世界を平和にすること。これが我々一族に課せられた使命だ」
「戦争することが平和にすることなの?」
 若い年で死んでいった騎士様たちを思い出し私はきつく言う。
「この世界はまだまだ未熟だ。そのような方法でしか平和はこない。だが、そなたを送った世界ではまた違う方法で平定することが出来るはずだ。だからこそ、お前をとんでもない未来に送った。利用して済まない。だが、エミーリエとその相手にしかできないのだ。これははるか昔から決まっていた配役だ。そしてわしはそのつなぎ役。ああ。難しい話になったな。要はこの二つの魔皇帝の秘宝を受け継いでまたつないでほしいのだ」
「秘宝を受け継ぐって。向こうの世界にはおじいさまの生まれ変わりのヴィルヘルムがいるわ。ヴィルヘルムに渡せばいいの?」
 ヴィルヘルムのことを言うとおじい様は少しびっくりしていた。
「エミーリエのそばにわしがいるのか?」
「ええ。かわいい義理の弟ですわ」
「それはよかった。きっと記憶が新たになれば、そなたの手助けにもなろう。秘宝はそなたたち二人の者だ。魔皇帝の名称はそなたたちが受け継ぐのだ」
「とんでもない!」
 平和なクルトは魔皇帝になると思ったらしく、ふるふると手を振って拒否する。
「何も戦争を仕掛けろとは言っていない。そなたたちの作り出した方法で平定し伝えていってくればいいのだ。生まれ変わったわしはどんな子供なのだ?」
 おじいさまは興味津々で聞いてくる。私とクルトは顔を見合わせると、ヴィルヘルムがこの場にいないことをいいことに、ありったけの告げ口をして性格矯正を訴えたのだった。


あとがき
大伏線回収です。そうか。魔皇帝の血筋はこういうことだったのか、と書きながら思い直した私。頭になかったので浮かぶままにつづるとこうなりました。本来の筋ではなかった筋書き。まさか、ね。タイムリープは考えていましたが、こうなるとは。この話は、浮かんでるままのことを書くので、つじつまを合わせる程度で書いてます。時折とんでもないミスをして執筆前に情報修正というのもあります。エミーリエの苗字を勝手に決めてから、あ。お父さんの苗字があったはずと過去の作品を見て変えたり。一つだけにする婚礼が二回も。ネタバレになるのでこれ以上漏らせませんが、行き当たりばったり書いてても収集できるところがこの無意識のすごいところ。今日は執筆時なので更新日とは違うと思うのですが、明日も執筆日にあてていたと思うと期間を開けすぎかと思って載せました。フォロワー絶賛募集中。よろしくお願いします。ここまで読んでくださってありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?