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「Whole Love Kyoto」―古くて新しい京都を身につける、HANAO SHOES。

<編集・記事執筆>
京都外国語大学 国際貢献学部
グローバル観光学科2回生
西川 歩奈

京都の芸舞妓の舞台「都おどり」での称賛がきっかけとなった HANAO SHOESの誕生秘話。

Whole Love Kyotoの代表的な商品であるHANAO SHOESが誕生したきっかけ、それは 2017年の4月に舞子さんや芸妓さんたちが自身の踊りを披露することで有名な京都の春の風物詩である「都をどり」が京都芸術大学(当時は京都造形芸術大学)内の施設である劇場「春秋座」で行われたこと。都をどりは本来、祇園の歌舞伎場で行われるのだが、その年は改修工事を行っていたため、京都芸術大学(当時は京都造形芸術大学)の劇場で特別に開催されることになったのだそうだ。このとき、大学の准教授、CHIMASKIというデザイン会社の代表を務める酒井洋輔氏を中心に「京都を身につける」ことをコンセプトにしたプロダクトが生まれた。それがスニーカーに、草履下駄の花緒をとりつけたHANAO SHOESであった。 もともとは商品としてではなく、あくまで「都をどり」公演を記念して、お客様を迎え入れるためのアートディスプレイとして展示されたHANAO SHOES。しかしディスプレイを見た舞妓さんや芸妓さんなどの祇園の花街関係者をはじめ、一般のお客様からも注目を集 めることになり、「購入したい」と声が殺到するほどの人気となった。
HANAO SHOESを求める沢山の声が、酒井氏らの元へ届き、Whole Love Kyotoというブランドを設立。HANAO SHOESの製品化が進んだ。

HANAO SHOESはまさにMade in Japanのスニーカー。

HANAO SHOESとは写真を見てわかるように、草履下駄によく用いられている花緒が付いたスニーカーである。Made in JapanのMOONSTARが提供するシンプルな白(もしくは黒)のスニーカーに、素材、色、柄など多彩な花緒がついていてとてもかわいらしい。 ちなみに、日本には国内産の靴メーカはMOONSTARさんを含め三社だけだという。わたしはふだん自分が履いている靴がどこのメーカーのもので、誰がどのようにしてつくっているかなんて気にしていなかったため、日本の靴メーカーがこんなにも少なかったという事実を知りとても驚いた。人と関わる時にもその人がどのような背景で育ってきたのかを知ることで、その人と関わる事が以前よりも楽しくなったことやもっと知りたいという気持ちが高まるように、ファッションについてもその商品についての製造過程や背景を知ることで、ファッションをより楽しむことができるのだろうと実感した。
また、HANAO SHOESは洋服にももちろん似合うのだが、着物を着る際に下駄の代わりに履くこともできる。下駄を履き慣れていない若者や外国人はもちろん、長く歩くのが辛いお年寄りの方にとってもおすすめである。近年、京都では着物をレンタルするひとが増えているため、着物を着て京都を楽しもうという人たちにも「旅の思い出」として、ぜひHANAO SHOESを履いて京都の町を歩いてみてほしい。またキッズサイズもあるので、家族みんなで楽しむことができる。このようにHANAO SHOESは幅広い年齢層のひとたちに愛されているのだ。

47都道府県のHanao Shoesについて書かれたポストカード

職人さんとの信頼関係から生まれた多彩なプロダクト

HANAO SHOESをつくるうえでもっとも重要なのは職人さんとの繋がり。そう話すのは京都芸術大学の卒業生で現在はWhole Love Kyotoで社員として働く溝部千花さんです。彼女が職人さんと繋がるうえで大切にしていること。それは電話やSNSなどの電子媒体でやり取りするのでなく、実際に会いに行き職人さんから直接話を聞くことだといいます。なかには手紙で連絡を取り合うこともあるのだとか。そうしてつながった職人さんからまた新たな職人さんを紹介してもらい、また伝統工芸に関するイベントや展示会なども通じての 出会いもあり、その積み重ねからじわじわと人の輪が広がっていったのだそうです。
「職人さん」と聞くと気難しいというイメージを持つ人も多いと思うが、取材をしにいきたいという思いを伝えると、優しく出迎えてくれる方が多く、職人さんによっては工房に ある作品や道具をじっくり丁寧に見せてくれることもあるそうだ。 京七宝という焼き物や漆塗りなど伝統工芸の技術を使ったアイスクリームのスプーンをつくる企画を持ちかけた際にも、最初は驚かれ「そんなんできるかいな」と言われたが、根気よく話をしていくと「どのようにしたらその形にできるか」、「どのようにしたら自分たちの技術を上手く作品に落とし込むことができるか」そうやってあれこれ無理難題を考えることが楽しいと言ってくれたのだそうだ。これこそまさに「職人魂」というものなのだろう。自分たちがやりたいと思った企画に対して、自分たちと同じか、またはそれ以上の熱 意をもって職人さんが接してくれる喜び。それこそが実際に自ら足を運んで取材を行った 結果として得られる最高のご褒美なのだと、千花さんは笑顔で語ってくれた。

近年は少子高齢化の影響で職人さんたちも大きな影響を受けている。職人さんの高齢化により、後継者のいない工房は代替わりすることなくそのまま閉業することも少なくない。 伝統工芸は分業制でひとつの製品が作られるのに数多くのプロセスが存在し、そのプロセスひとつずつにひとつの工房とそこにしかない技術か関わっている。ゆえに、ひとつの工房 がなくなるだけでそのほかの工程を担う工房も立ち行かなくなり、すべてのプロセスに関 わる工房が共倒れとなってしまうこともあるのだそうだ。 このままでは、職人さんだけでなく長年受け継がれてきた技術も消えてしまう。そうならないために職人について積極的に取材を行い、47都道府県それぞれの染織物を用いて作った「HANAO SHOES JAPAN」企画では、日本全国にとても多くの職人さんがいて、多様 な伝統工芸が存在することを紹介している。こうしたHANAO SHOESの制作・販売だけではなく、Whole Love Kyotoさんのさまざまな活動がとても大切なものであると感じた。

リニューアルされたHanao Shoesは鼻緒の取り替えが可能
鼻緒のみの販売も行われている

人気のHANAO SHOESがついにリニューアル

そして2024年、春。Whole Love Kyotoはまた新しいチャレンジをはじめる。それは看板商品であるHANAO SHOESの大幅なリニューアルである。新しくなったポイントはなんとお客様自身が花緒を自由に取り替えることができるというもの。これにより「着せ替え」 感覚で、自分の好みや気分、それからファッションのスタイリングなどに合わせて自由に カスタマイズができるようになったというわけだ。システムとしてはまずはひとつの シューズとひとつの花緒のワンセットを購入。あとはお好みで花緒だけを追加で購入していくかたちになっているという。

先にも述べたように、Whole Love Kyotoでは多種多様な 伝統工芸の職人さんとのつながりがあるため、それぞれの職人さんから特製の生地を提供 してもらえるので、選べる柄や素材の多さが最大の魅力だという。たとえば春は桜の柄の 入ったもの、秋には紅葉をイメージした赤い花緒など季節に合わせて履き替えるのもいい し、1月〜12月までその月ごとに花緒を変えていくのもいいだろう。洋服に合う花緒と着物に合う花緒で付け替えるなんていうのも楽しいだろう。
また、今後は欧州にもHANAO SHOESの魅力を発信し、認知度を高めて、進出したい展望があるそうだ。Whole Love Kyotoでは流行や売れ筋などに惑わされず、本質的なものづくりをこれからも京都を拠点に続けていきたいという千花さん。「京都」「伝統工芸」というブランドにあぐらをかくのではなく、まずデザインの魅力で手に取ってもらえる、そして長く使ってもらえるプロダクトを作っていきたいと話している。そのうえで、ショッピ ングを「作り手と使い手の出会い」と捉え、職人の思いやものづくりの背景にある物語を 伝えていくことで、作り手にも使い手にも愛着をもってもらえる活動を続けていきたいということだった。今回のわたしたちのコーディネート企画やさらにはこの記事が、その一翼を担えていたらうれしいなと思う。


Whole Love Kyoto

住所:京都市左京区田中東高原40
電話番号:075-744-6152
営業時間:11:00-19:00(不定休)

●メールアドレス:wlk@chimaski
●Instagram:https://www.instagram.com/wholelovekyoto/
●X:https://twitter.com/wholelovekyoto


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