『言われて嬉しかった言葉』



暗い帰り道。僕は天気や気温によって精神が不安定になる。朝から雨だとブルーの気持ちでそのまま引きこもっていたくなる。

それ以前に僕は文字通り身体も心もベールで包まれていた。前髪が長すぎて目が見えない人が内向的に見えるのと同じで、僕からはきっと負のオーラが滲み出ている。

僕の名前はツツム。「名は体を現す」なんて言うが、あながち間違っていない事が僕の存在によって証明されている。

(なぜだろう。生まれた時はみんな同じなのに。)

そんな事をぼんやりと考えながら、下を向いて歩いていると前から歩いてきた人に声をかけられた。

「カワイイね」

明らかに僕に言っていた言葉だったけど、僕がそんな事を言われるはずもないので無視して立ち去った。


・・・・・・・・・・


翌日、教室に入ってから気が付いた。
昨日、話しかけてきた人は同じクラスのキトウくんだったのだ。いつも通り下を向いて歩いていたから気が付かなかった。

キトウくんは、明るくて誰にでも優しい、クラスの人気者だ。

そんな彼が話した事もない陰キャの僕に「カワイイね」と言った事が未だに信じられない。
その日は一日中、何も手につかなかった。

・・・・・・・・・・


いつもと変わらぬ帰り道。
昨日と同じ時間、同じ道である事を意識しながら、何かを期待して歩いていた。

「ねえ!」

後ろから呼び止められた。明らかに昨日僕に「カワイイね」と言った声だ。振り返ると案の定キトウくんだった。

「僕...ですか...?」

キトウくんは黙って頷く。

「昨日なんで無視したの?」

キトウくんは、泣いている子供諭すような優しい口調で僕に質問する。

「だって...僕なんかが可愛いわけないし...僕キトウくんと話した事ないですし...男が男にそんな事言わないだろうし...」

敬語とタメ口が入り混じって、あからさまに取り乱してしまった。
キトウくんはヤンチャな子供みたいに軽快に笑う。

「やっぱカワイイな」

僕は赤面する。

「だからそれってどういう...」

「皮、良いし、可愛いんだよ」

!!!!!!!

僕はこの言葉を聞いて頭からつま先まで、ひいては心の奥までに電撃が走るように衝撃を受けた。
僕の包まれていた心のベールが剥けた。身体のベールには包まれたままだけど、心のベールはズル剥けだ。

ダムが決壊し水が溢れだすように、僕らの距離はグッと縮まり昔からの親友みたいに話した。

「昨日はなんで学校とは逆側から歩いて来たのさ」

「俺は頭でっかちだから皮が足りなくて痛いのよ。だから昨日は学校休んで病院行ってた」

これまで自分の身体が包まれている事にどこか負い目を感じていた。包んでいるそのもの自体を褒めてくれる人がいるなんて思いもしなかった。
また、ベールが剥けている人がそんな悩みを抱えているなんて知らなかった。

その後も色んな話をした。焼き鳥はモモか皮かどっち派か、スニーカー派か革靴派か、込み入った話からくだらない事までたくさん話した。

「やっぱ皮良いとあったかいん?」

「冬は良いけど、夏は暑いかなー」

「じゃあ、夏は川行こうぜ!皮だけにw」

「...」

「海派だっけか?」

「うん。海行けば皮剥けそうだし」

「それは日焼け的な意味で皮剥けるかもしれないけど、お前が求める皮剥けではないと思うぞ」

「えっ?そうなの?」

「そうだろw  お前本当に皮良いし可愛いな」

僕は初めてこんなにも人とたくさん話して楽しい気持ちになった。笑い泣きした。嬉しさでいっぱいになったからだ。

年齢も性別も、剥けてる人も剥けてない人も関係ない。

味方は必ずいる。

あなたの心のベールも剥いて、誰かの優しさに包まれますように。




このブログがあなたの心を包む、そんなご祈祷を心から。


※この物語は陰茎を擬人化したフィクションです。

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