見出し画像

陸上部メモリー


こないだ、とある陸上競技場へ行った。
中学生の頃、陸上部の大会で足繁く通っていた以来だから、およそ10年ぶり。理由は特にない。行ってみたくなったから行った。その場所に行った事のない彼女を連れて。

駅から意外と歩いた距離にあるその場所が、駅から遠かった事すら忘れていた。というより若さ故にその距離を「遠い」と感じていなかったのかもしれない。ただ先を歩く先輩や同級生に付いて行っていただけのあの頃と違い、今は自分でGoogleマップを見ながら彼女の手を引いて歩いているのだから、僕も大人になったのだなと感じた。

その場所に辿り着いた僕は、あまりのノスタルジーに言葉にし難い感情でいっぱいになった。

陸上競技場の近くに、見晴らしが良い丘があり、まずはそこへ行った。
そこは自分の出番ではない時に仲の良い友達と抜け出し、向かった場所。だべった場所。黄昏れた場所。あの頃、この場所で語り合った3人がこの先、同じ場所で語り合う事はないだろう。何故なら一人は中学を途中で転校し、長野へ行った。SNSも繋がっていないので彼の現在を知る由もない。彼の中にこの場所の風景はきっと消えかけているだろう、なんて事を思いながら、3人のうちの1人で今も頻繁に会っている友達にLINEで写真を送った。

あまりにも素敵な場所。僕がこの地域の人間で、女の子に告白するならここが良いってくらい良かった。

陸上競技場の方へ向かうと、この場所で結果発表の紙が張り出された事も、この場所が待機場所だった事も、この場所で応援した事も、全部思い出した。この待機場所で2個上の先輩のウォークマンに『夜空ノムコウ』が入っていた事も、1個上の友達のお姉ちゃんのウォークマンが僕のと同じだった事も、部長がGReeeeNの『OH!!!! 迷惑!!!!』が好きな事も、同級生がそのアルバムなら『緑のたけだ』が好きな事も、全部全部思い出した。

僕が中学生の頃は、今ほどSNSは普及していなかったから、皆がどんな音楽を聴いているのか知らなかったから新鮮だったし、ジャニーズやアニメの曲を好きな事を隠していたので、先輩のウォークマンに『夜空ノムコウ』が入っていた事に驚いたし、SMAPは流石だなと思ったし、公言できる好きなアーティストがGReeeeNのみだったので、GReeeeNのアルバムの話をするのは楽しかった。あの頃の僕が表立って出来る音楽の話は、GReeeeNだけだったから、先輩のウォークマンに入っていた『夜空ノムコウ』には触れなかった。友達のお姉ちゃんが僕と同じウォークマンだったのは少しだけ恥ずかしかったから、隠した。


足繁く通った陸上競技場といえど、良い結果を残したわけではなく、それどころか全くやる気がなかったので先生の監視が1番緩いという理由で走り幅跳びを選んでいた。先生が近づいてきたらやっているアピールをして、砂場にお尻の跡をつけたりしていた。

僕達が中学3年になってから顧問が変わり、例年10月が引退の陸上部が異例の6月引退となったのは、僕達があまりにやる気がないのが原因だ。もちろん引退して寂しさや名残惜しさは一切なかった。友達と離れるわけではないし。最後のメニューはなんと熱中症についての説明のみだ。説明した流れで「今日で引退でいいです」と言われて、やる気のない皆で喜んだのは良い思い出だ。

誰もが思い描くような切磋琢磨し合う汗と涙の青春部活動ではなかったけど、ふざけて笑って、馬鹿にして馬鹿にされて、一丁前に格好はつけて、やる気はないのに律儀に自由参加の土曜練にも出ていた。やる気はないから顧問の先生のホームルームが長引いている事を知ってボイコットして当然のようにバレて怒られたし、バーベキューの後に走って嘔吐した先輩や同級生を見て不謹慎にも大爆笑したし、中1の頃の部長が卒業後に体育祭を見にきた際に股間を殴ったら学校中を追い回されたのもよく覚えているし、ONE PIECEの関連のワードをひたすら言うだけの山手線ゲームをしながら川沿いを走ったのもよく覚えているし、大会の帰り道に同級生がお金がないから乗換が出来なくて「お金を貸してくれ」と懇願されるも振り切って置き去りにしたあの改札越しのあいつをよく覚えている。彼は家から遠く離れた駅から歩いて帰ったらしい。その話を彼女にしたら「最低」と言われた。
とにかく馬鹿ばかりしていたあの頃、笑いが絶えない部活動だった。

人並みの汗は書いたけど涙や感動は本当になかった。部活動で涙をしたのは顧問の先生のライフセーバーの資格(?)のなんちゃらを見に行った帰り道に先輩と取っ組み合いの喧嘩になった時くらいだ。

とにかく楽しい時間だった。あれが僕にとって最初で最後の部活動。まともにやってこなかったし、ふざけていただけと思われても仕方がないが、全力で部活動に励んでいた人達とは別ベクトルで最高に輝く思い出となっている。

あの陸上競技場は、ここまで詳細な記憶を呼び起こしてくれるのだから、定期的に訪れたい。

この記事が参加している募集

スキしてみて

振り返りnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?