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経済と社会と自然が循環していく、スケールを考える。

年始ということで、少し最近考えていることをまとめたい!ということで、スケール(規模)を置き直すことの重要性を考えたいと思います。

2022年末にfacebookにこんな投稿をした。

今年はずっと「森と暮らしの関係性のリデザイン」、ということをテーマにいろんなところで話をしてきた。
森と暮らしが遠くなっている今の暮らしは、どこかの時点でデザインされたものだから、新しい関係性はデザインし直すことができる、という考え方。ではどうやって「リデザイン」していくのか。
そのことに考え込んでいたけれど、一つのキーワードが浮かんだ。それはいろいろな地域をめぐり、海外に足を運び、そして地域資源を使った商品開発の中で何度も壁にぶち当たることで、生まれたもの。
それが「リスケール」。新しいスケールを作りなおしていくことが多くの暮らしを面白く次の時代に連れて行ってくれそうだな、と妄想する。
大きすぎず、小さすぎず。中くらいのスケール。それが一番難しいのだけれど。

facebook投稿 2022.12.24 

毎年年末頃にぼんやりと翌年のテーマを考えていて、2021年は、Relationship(関係性)がテーマだった。そして2022年はRedesign(再設計)をテーマに考え事をしてきて、2023年は、このRescale(新しい規模を確立する)をテーマにしてみたい。

地域資源を生かすビジネスとスケール

地域資源を使ってものづくりをしていると、素材調達や流通、売り先といったスケールとビジネスに間に難しいことがたくさん現れる。
手づくり(クラフト)のスケール(規模)だと地域資源を使ったプロダクトは比較的作りやすい。例えば地域の野菜を使った加工品づくりなんかをイメージするとわかりやすい。地域の生産者さんを訪ねて農産物を買わせてもらったり、出荷できないキズものを売ってもらって、そこから手間をかけて商品を作る。もしくは自分で野菜を育ててみてもいいかもしれない。

森の資源利用は農産物よりは少し難しくなるけれどそれでもできる可能性は高い。例えばスギやヒノキ、カラマツといった一般流通している針葉樹であれば、地域の製材所さんや材木屋さんに相談すれば買えるところもある。

そこから、スギ、ヒノキを使って小物や家具の商品をつくるのはできる。
あとはアロマや精油といった森の未利用資源を使うものもやりやすい。木こりさんに相談して、伐採の時に出てくる枝葉を買い取らせてもらったり、現場に取りにいくことで材料調達は可能になる。

地域の広葉樹となると割と大変になる。無垢の家具は多くの場合、広葉樹(オークやウォルナットなどが馴染みがあるかもしれません)が使われている。
家具材となる広葉樹はこれまで外国産材のものが一般的で、日本では広葉樹林業というのはほとんど実践されていない(北海道や一部地域ではあります)。そのため、広葉樹を狙って伐採して材木として販売している人たちは多くない。

だから地域の広葉樹を丸太や板で購入できる場所はほとんどない。それでも、やまとわの中村さんは、地域の森の木を使いたいと考えて、木こりさんに連絡をして最初は断られながら、自分で山に木を取りに行くことで地域の木を使うことをやりはじめた。その木を製材所に持ち込んで製材してもらい、2〜4年くらい天然乾燥させて、使うということを実践した。だから、できないことはない。けれど結構大変。
でも、そうやって一度ルートができれば、そこから道は少しずつ開いていく。

小さいスケールのものづくりは地域資源利用と相性がいい。
ただ、小さすぎるとそのための市場が育ちづらい。僕の尊敬するデザイナーである梅原真さんがこんなことを言っている。

経済にならないものは社会から退場してしまう。
だからそこに経済を産む、そうするとそこに風景が、残っていく。

これは、梅原さんが手がけた土佐の藁焼きたたきカツオのエピソードで語っていたこと。
話しは漁師から魚価が下がり、カツオの一本釣りができなくなってしまうかもしれない、と相談を受けるところから始まる。土佐といえば、カツオの一本釣りの映像は一度は見たことがあるだろうし、鰹の美味しい食べ方といえば藁焼きを思い浮かべる。
1980年代後半の当時は効率を求めての一本釣りは減り、またタタキも藁焼きよりもバーナーが主流になってきたという。そうやって効率を求める中で愛すべき風景は社会から退場してしまう。
だからこそ、梅原さんは地域の資源に見立てを与えて、経済を産むことにこだわる。

地域の風景と生きていくためのスケールと経済

ビジネスの目的をどこに置くかによって、変わってくるので一概には言えないが、ある程度の資源量を使って、資源循環を促しながらのビジネスを目的とする場合には、スケールを大きくしていくことが重要になる。

しかし、スケールを大きくしようとすると、途端に難しくなる。まず生産量を増やすために、ものづくりを外部と連携したり、もしくは自社での機械投資や作り手を増やすなどの投資が必要となる。
得意な人たちに頼むか機械を導入して自分たちでやるか、という話になる。

OEMとなると最低ロットの数が想定より一桁か二桁多かったりすることも多い。「そんなに売れるかな、いやそれ以前にそのロットに対応するほどの材料を地域資源で対応できない」、という話になったりする。
安定的な素材供給も難しく、規格外野菜や余剰素材などを使おうとすると尚更難しい。

大きすぎず、小さすぎない。適切なスケールをどうやってつくっていくのか。この「中くらいのスケール」というのがとても重要だ。ものづくりをやっていると、この「中くらい」というのがいかに難しいことなのかが、身に染みてわかる。

生産力はないけれど、作り手の顔が見えるこだわり商品をつくる「クラフト的なものづくり」と生産力があり、規格的なものを量産できる「工業的なものづくり」。

中くらいのものづくりは、その二つの特徴を合わせて、地域資源を使いながら社会と経済を駆動させるようなものづくり。しかし、スケールメリットが出しにくい分、積極的な機械投資や商品開発は難しい。もっと言えば、地域資源の量が生産力の限界になるので、ある種その商品での生産量の限界は見えている。

風景と生きよう

学校給食が教えてくれるリスケール

神山町で「地産地食」を目指す「food hub project」を手がける真鍋太一さんと昨年秋に乗鞍高原でお話している中、学校給食の話が出てきた。food hub projectでは、地域内の食育や学校給食への食材の納入などを行ってきた。その話がまさにリスケール的な話だと思っている。

学校給食には、各学校に給食室のある自校方式と、給食センターで複数校の給食をつくり配送するセンター方式がある。昔はどこも自校式だったけれど、少しずつ流れとしてはセンター方式に移行している。

それぞれにメリット・デメリットはあるだろうけれど、大きな違いはその効率性だと考える。自校方式だと各学校に栄養士さんや調理師さんが必要になり、一食あたりのコストが高くなる。そのコストは自治体が負担する必要がある。しかし、小さいからこそエリア経済圏の中で、地域の食材を使うような取り組みがしやすくなる。

一方、センター方式では、たくさんの量を一つの場所で一気につくるので効率化もしやすく、一食あたりのコストは下げられる。ただ同じ食材が同じ日にたくさん必要になるので、地域の食材を使うというのはかなり難しくなる。この部分を切り取って、自校方式がよくて、センター方式がいけない、という話ではなくそれこそスケールの話だと思っている。真鍋さんも1000食/日を超えると地域の食材を使った運用をするのは難しくなってくると話していた。

少子化時代の中で、自校方式を守り続ける難しさもよくわかる。
それに、学校給食に地域食材を使用するのは小さい規模でも難しいとよく聞く。衛生管理や土付き野菜などの一次処理の大変さなど。それはどこがどう負担するのかというのはまた別の問題かもしれないけれど。

そうやって地域食材を地域の子どもたちに食べてもらうにもちょうど良い規模がありそうだ、と思っている。中くらいだからこそ成り立つ経済圏もある。中くらいだからこそ、農産物の売り先の一つになり、地域の風景を守る原動力にもなり得る。もちろんそれだけでは難しい。それでも、地域の風景を守るというのは、そういう経済活動の結果であることを忘れてはいけない。

大規模化、効率化するのも向いている地域ではとてもいいと思っている。それこそフィンランドなどは、本当に平らな地形、面積も広く機械化にとても向いている。それに人口が少ないので街々の間がとても広く、利用可能な森林が広大だ。

フィンランドの木材生産の生産力は50倍〜70倍くらい違う

しかし、日本のローカルはほとんどが中山間地。急峻な山々とそこから続くなだらかな傾斜地の里。まちの真ん中には川が滔々と流れる。
大規模工業化しにくいのが僕らの生きる地域であり、その地域の風景と共に生きていくためには、その地形や風景に意味と経済を作る必要がある。

僕らがビジネスをする理由

材木の場合は、美味しいとか健康的である、みたいな判断軸がないのでより地域性をつくるのは難しい。
それでも、地域の木を歩留まりよく上手に生かしていくためには、出口(市場)を見据えた製材が重要になる。特に僕らみたいな地域材を使ったチームだと小規模~中規模の製材所がなくなってしまったら地域の木を地域で使うということは叶わなくなってしまう。

お世話になりまくっている有賀製材さん

中くらいのスケールでどうやって経済と地域社会、そして自然の循環をまわしていくのか。その「問い」から始めることが重要なのかもしれない。

ビジネスは、いかに「スケール」するか、を考えることが重要とされている。

痛いほどよくわかる。それでも地域資源と生きていきくことを考えるとスケールには限界があるし、人と人、人と自然の関係性の中で生きていることの面白さがある。地域資源をとりすぎず、ちょうどよくつかう。消費というよりは、より経験的なもの。中くらいというよりは、それぞれに適したサイズにリスケールしていく。そのためには、それぞれに価値を見出し、見立てを変えていく。

地域の資源で経済と社会と自然を循環させていくために、僕は「Rescale」を考える。ここまで「Rescale」を、「規模の再編集」という意味で使ってきた。しかし、この「Rescale」を実現するためには、新しいものさしをつくるという意味の「Rescale」が重要だ。

僕らの社会的な物差し、価値観を新たに、地域資源と生きていく規模を作り直す。それが、僕の考えるRescale。2023年は残したい風景を残していくための適切なリスケールを考える年にしようと思う。Relationship、Redesignとともに。

昨年できた新しい工房とともに、ちょうどいいものづくり、頑張ります。


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