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ほんのわずかな山行記録 10

静かな森の中を進む

衣食住を背負って

ゼェ、ゼェ、ゼェ、、、、、、まじでヤバい…

これまで経験したことがないほど息が上がり、「このまま倒れてしまうのではないか」という恐怖すら感じる。

胸が苦しい。頭がぼーっとする。

間違いなくまずい状態だ。

とりあえず足を止めて息を整えることに集中する。


2012年7月29日
少し寝坊したため今回の起点となる夜叉神駐車場に着いたのは10時頃だったと思う。空はどんより曇っているがそれは承知の上で、天候は回復傾向なので翌日の天候に期待をかける。

準備をして出発したのが10時20分くらいか。
急な登山道を九十九折にゆっくりと登っていくのだが数十メートル進むともう息が上がる。ペースを落として慎重に行くが呼吸は乱れる一方だ。

やはり8カ月のブランクは大きかった。分かってはいたけど、負荷の少ないハイキング程度では体力や心肺機能を維持することができない。慌てずにゆっくりゆっくりと進むしかない。

30分ほど歩くと息が苦しすぎて足が出ない。
う~む、、、ここで撤退するべきか。
あまりの苦しさに、ブランクの問題ではなく体調そのものが悪いのではないか?そんなことまで考えてしまうが、まずは呼吸が整うまで休む。

「何とかなるさ」で決行した鳳凰三山だったが現実は厳しかった。

1日目は南御室小屋まで約5時間半の行程。8カ月のブランクを考えて標準コースタイムより1時間余裕をもった計画にした。ただ、この日は幕営して終わりなので極端に言えば日没までに南御室小屋につけばいいわけで時間を気にする必要はあまりない。
穏やかな森の中をのんびり歩けばそれでよかった。

実際、かなりのんびりスタートした。にもかかわらずこのありさまだ。

事前に丹沢での慣らし山行をしなかったことを後悔したが後の祭りだ。

このまま回復しなかったら撤退するしかない。

そんなことを考えながら10分ほど休むと何とか呼吸の乱れが収まってきた。

どら、進んでみるか。

ゆ~っくりと呼吸を意識しながら歩を進める。なんとか行けそうだ。

少しずつ進むうちに徐々に体調は安定、これならば大丈夫と思える状態になってきた。

そうして出発して1時間ほどでなんとか夜叉神峠に着いた。

天気がよければここからの眺めは素晴らしいらしく、すぐ西側にそびえる南アルプスの主脈が一望できるようだ。しかし、今日は辺りがガスに包まれていて眺望はゼロ。ようやくペースがつかめてきたところでもあるので写真だけ撮ってすぐに進むことに。

樹林帯を進み徐々に標高を上げていくが体調に変化はない。
「もう大丈夫だな、このペースでゆっくり行こう、今日は焦る必要はないんだから」

そう言い聞かせながら気持ち良い森歩きを堪能する。

延々と登った後、シラビソとツガに囲まれた気持ち良い森を下っていくと南御室小屋に着いた。

スタート直後の事があったのでホッとしたのか、手続きもせずしばらくベンチに腰掛けてぼんやりしていた。
時間を見ると意外にも予定より少し早い約5時間だった。

晴れていれば南アルプスが丸見えらしい
何度も深呼吸…
ツガの新芽が薄暗い森の中で光ってました
いい雰囲気の南御室小屋
小ピークと小ピークの間の鞍部にあります
ちょっとヨレてる我が家
グリーンカレーとウインナー
このあとラーメンも
冷えてきたのでテントの中で食後のコーヒー

小屋で幕営の手続きをして初めての屋外幕営作業。実は家ン中で2回ほど練習済み。

風もなくスムーズに作業完了。携帯がつながるところまで行き家人に報告メールを入れ缶ビールを買って一息ついた。


我が家。

まさにそんな感じでビールを飲みながテントの中でまったり過ごす。

ん~~~~っ、いいっ!やっぱ山ン中は良い!森ン中は良い!

ここが自分の居場所だ、なんて思ってしまうほど心地いい。

時間もゆっくりと進んでいるように感じるから不思議だ。
自分のしたいようにすればいい。自由な時間がのんびりと流れていく。
さ~て、飯でも食うかね!

まったりと飯食ってると、向かいの元気なオジサンが私の隣にいるソロの青年に大きな声で話しかけだした。

青年も機嫌よく応えている。

しばらくその会話を聞いていると、オジサンは次のターゲットを私に決めたようで、青年との会話で相槌を打つ時に同意を求めるように「な!」といってこちらを見るようになってきた。

私も「そっすね」とか適当に返していたら「オニーサンはどっから来たのよ!」とまっすぐ私を見て言いました。

それ置いてきたらだいぶ楽に歩けるよね、という量の酒を目の前に並べて、たいそうご機嫌なオジサンは登山とお酒が大好きのようだ。
ただ、真っ赤な顔に血走った眼を見ると「早く寝たほうがいいんじゃねーか?」と心配になってしまいます。

問いかけに対して「夜叉神からです」と答えると、「じゃ明日は青木鉱泉へ抜けるんだ?」と来た。

「あ、いや…」(広河原へ抜けます)と言いかけた上にかぶせるように「鉱泉に下る道は大変らしいよ~、あの道はね~、キツイからね~、(ザックが肩に)食い込むんだよね~!」と身振り手振りを交えてものすごい笑顔で話してくれた。そしてグイッと一口。

「あ、いや、明日は広河原へ抜けるんすよ」と訂正すると、「あ~~、アッチも大変らしいね~、食い込むんだよね~」とまたすごい笑顔で話してグイッといく。どうやら「食い込むんだよね~」「グイッ」はセットのようだ。

(のちに食い込む程度では済まない苦行が待っていようとは…)

こうして少しの盛り上がりを見せながら南御室小屋テントサイトの夜は更けていくのでした。

ちなみにこのオジサン、寝言でもずっとしゃべってました。
めっちゃデカい声でw

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