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工房厨子 笈型 のこと。

工房厨子 笈型(おいがた)は、
室町時代に製作された笈を祈りの箱に見立て、
扉には日本美術の装飾美・意匠美に富む
琳派の図案に学び描いた四季の蒔絵を施した厨子です。

工房厨子笈型の特徴
・ 脚の「上部の曲線」へのこだわり
日本的感性を具現化した琳派(りんぱ)
・ それぞれ違った和の配色



「椿彫木彩漆笈(つばきちょうぼくさいしつおい)」に習う


福島県立博物館(会津若松市内)に収蔵「椿彫木彩漆笈」

「笈」とは、
山伏や修験道の人々が山に入る際に仏像・仏具や経文・お香等の修行に必要なものを納め、背負っていたもの。儀礼の際には本尊をお祀りして厨子としての役割も果たしていました。

笈を背負う山伏

山伏にとって「笈」とは「大切なものを納める箱」であるのはもちろんのこと、「魂が宿る」ものでもあります。
その中でも「椿彫木彩漆笈」は、上へと伸びる「脚」の美しさ、室町時代に作られたにも関わらず、どこかモダンな雰囲気を感じさせる「装飾性」をベースとして厨子のテーマに。

室町時代の職人の手で作られた「笈」をどうすれば作ることが出来るか。
歴史を紐解き、現代の職人の知恵と経験を元に製作することに。


脚の「上部の曲線」へのこだわり

笈は背負って使われていたことから、その脚は細く華奢で軽やかな印象ですが…?
実は、地面に置くとしっかりと安定感を感じさせます。

その軽やかさと安定感を求めて、太さ・長さ・曲線を、数ミリ単位で何度も試作調整を繰り返し、笈のカタチをすべて踏襲すのではなく、
現代空間に合わせるためのに、脚の「上部の曲線」にこだわりました。

実は「彫木彩漆笈」の本体部分は正面から見ると長方形ではなく、上が狭く下が広い台形をしています。それが下から上へ緩やかに伸びる美しさを表しているように感じ、工房厨子笈型では、脚の上部にわずかな曲線を付けることで、箱はまっすぐな形状でありながらも上へと緩やかに伸びる様子を表現しました。

左「彫木彩漆笈」 右「工房厨子笈型」


日本的感性を具現化した琳派(りんぱ)

さらに、最もこだわったのが、扉に描かれている四季の蒔絵。
この蒔絵の試作開発をした際に、蒔絵師の女性たちと話したのが、「現代の女性に好まれるデザインの厨子にしたい」ということでした。

そこで、日本的感性を具現化した琳派(りんぱ)から学びつつ、今回の厨子では四季と琳派をテーマに、四つの図案を選びました。

春 「桜(さくら)」
夏 「燕子花(かきつばた)」
秋 「紅葉(もみじ)」
冬 「松(まつ)」

この四つの図案を奥行きのある構図と立体感のある色の重なり、花や葉の生き生きとした色合いにこだわりつつ表現しました。

琳派とは?
大和絵の伝統を基盤として、豊かな装飾性・デザイン性をもち、絵画を中心として書や工芸を統括する総合性、家系ではなく私淑による断続的な継承、などが特質として挙げられる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%B3%E6%B4%BE

私淑(ししゅく)とは?
直接の教えは受けないが、ひそかにその人を先生だと考えて尊敬し、模範として学ぶこと。


それぞれ違った和の配色

一番魅せたい部分である蒔絵を、最も映える色と蒔絵を組み合わせながら考えていきました。目当ての色に近付ける為、バケツにほんの一滴垂らす様なイメージで色の配合を調整し、蒔絵との相性を見ながら、透明のフィルムを合わせ、四種類の厨子を作り上げました。

臙脂 × 桜  … 華やかさ  絢爛
白 × 燕子花 … 清楚さ   清楚
灰緑 × 紅葉 … 悠然さ   平静
鉄紺 × 松  … 凛々しさ  誠実

それぞれ違った和の配色の厨子になったことで、
各個人が自分にあった厨子を選ぶ楽しみが出来たと思います。

臙脂 × 桜
白 × 燕子花
灰緑 × 紅葉
鉄紺 × 松