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私の読書感想文。 『四月になれば彼女は』

『四月になれば彼女は』               著:川村元気

最初の数十ページを読んで、ハズレの本を引いてしまったと思った。
けれども、九十ページを読み終えた頃、涙が出そうだった。

最後の何章かは、涙が止まらなくて、何回かページをめくる手が止まった。

表紙に描かれているボリビアの有名な観光スポット、『ウユニ塩湖』は
私が死ぬまでに行ってみたい場所のひとつだ。

表紙がウユニ塩湖じゃなかったら、この物語を見落としていたに違いない。

そう思うくらいに、私はこの澄んだ色がとても好きなのだと思う。

ハルの手紙に綴られていた多くの場所は、いつかみてみたいと
思っていたものばかりだった。

目を閉じて文を音にして再生してみれば、全て同じような色をしている。
実物を見たことはないけれど、いつの日か見た世界の美しい景色の写真が
浮かんでくる。

きっと、ハルがこの世に存在していたら、私と気が合うに違いない。
そう思えるほどに、彼女が綴った文章のどれもが、胸に鋭く突き刺さる。

フジが手紙を読み進めていく度に溢れてくる痛みと切なさ。
自然と目頭が熱くなり、視界がぼやけていく。

ラスト何ページを読み進めている内に、思い出したフレーズがある。
「『誰を好きか』より『誰といるときの自分が好きか』が重要らしい」

これはまさに、作中でハルが私たちに体現してくれたものだと思う。

『わたしは、わたしに会いたかった』

最後の手紙に綴られた、そのひと言は

"誰かを愛するには、まず自分を愛せるようにならないといけない"

という耳慣れた、この世で最も難しい問いへのヒントに違いない。

多分、答えなんてないのだと思う。

ハルがフジを分からなかったように、フジもハルがわからなくて、手放した。

何を以って、その人のことを「愛している」と呼べるのか。

きっと正解は自分自身にしか分からなくて、それに辿り着けるかどうかさえ
私たちには分からない。

それでも、誰かを愛することはきっと素晴らしいことに違いないと
思える作品だった。


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あとがき
22.08.15(Mon)

この物語に出会って、過去の私は、忙しいことや周りへの興味から
『愛すること』を非常によくサボっていたのだと、恥ずかしながらそれを認めざるを得ませんでした。
過去の恋人たちには、フジのように『あなたの考えていることが分からない』と
よく言われたものでした。結局のところ、「自分に自信がない」というのも、
一つの大きな要因だったように思います。

素直になるのも、勇気を出すのも、全部がぜんぶ今の私にとって難題です。
でも、これを乗り越えた時、きっとインドのカニャークマリの海岸のような景色が
私にも見えるようになると思いました。

この物語がよく分からなかった、という人もいると聞きます。
私はむしろ、よくこの壮大な物語を274ページという短いページ数に
収めることができたなと思うばかりです。

よく分からなかったというのは、きっと、もう既に愛することをサボることなく、当たり前のように常日頃、愛する人に尽くしてきた人か
今、とても幸せな人か、これほどまでに好きだと思える誰かに
まだ出会っていない人かのいずれかかもしれません。

そもそも、思考の構造が違うから、この物語を感情的に分かることは
一生ないという人が大多数でも、なんの不思議もない世の中なのかもしれません。

かもしれない、ということは本当のところよく分からなくて、
答えがたくさんあるようで、実は一つも正解なんてないものなのだと思います。

もしも、私の想う人がこの物語を読んだ時に、
「よく分からなかった」という感想が、心の奥底から出たものだとしても、
それはそれで良いと言える気がするのは、この本のおかげです。

いつか私もこんなふうに、物語を綴る日が来るでしょうか。

織原あると



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