1分30小説『余計』

「普通盛りで」
「あのー、当店ボリュームがウリのお店でして、普通盛りだとかなり麺の量多いのですが」
「そう?じゃあ初めてだし小盛りにしとこうか」
「小盛りだとですねぇ。『こんなに美味しいのなら普通盛りにしとけばよかった』と殆どの方が後悔されます」
「……なるほどね。ちょっと考えていい?」
「はい、お決まりになりましたらお呼び下さい」


「すいませーん。ちょっといいかな?」
「はい、お決まりになりましたか?」
「さっきの小盛りの情報だけどさ」
「はい?」
「あれ、要る?普通盛りが予想以上に多い、その告知は分かる。でも小盛り足りないかもって情報は要らないよ。お陰で決められなくなっちゃってる」
「え?!そんな……私はお客様のためにと思って――」
「ごめんなさいだけど、貴方のその"親切もどき"が逆に俺を"どちらを選んでも後悔しそうだ"って状況に追い込んでるわけ!キツい言い方になってたらごめんね。注文いい?」
「はい、麺の量はどうしましょう?」
「爆盛りで」
「え?」
「聞こえなかった?爆盛りで」
「でもお客様、当店の爆盛りは――」
「分かってるよ。めっちゃ多いんでしょ?でも一か八か後悔するかもって選択肢を選んで『やっぱり……』ってなるより、後悔すると分かりきっている選択肢を選んだ方が寧ろ精神的ダメージが少ない。だから爆盛りで」
「お客様、余計なことかもしれませんが――」
「何?」
「人生は一度きりです」
「な?!」

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