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1分20秒小説『絶賛』

 ぶちカッコええのぉ!これ、お前が作ったんか?スゲぇのぉ。ワシめったに人褒めんけぇね。こがぁに誉めること滅多にないけん。聞いてみんさいや周りの人らに。これ、表情がええわぁ。えらい睨んどるけどのぉ、どこか気品があるんよ。でもやっぱり、目が合(お)うたら、身震いするような迫力があるのぉ。根性の無ぁもんが見たら、逃げ出すで。眼もじゃけど、口の感じとかよう出来とるし、見ようて飽きんわー。握手してくれや。ええけぇ、ええけぇ、遠慮とかいらんけぇ握手してぇや!あと、この手に持っとる武器がかっこええんよ。『悪さしょうる奴がおったら、これでやっちゃるけんの』ゆうとる声が聞こえそうじゃわ。この武器、どっかで売りょうらんのか?売りょうるんじゃったら、ワシの子とか親戚の子に買(こ)うてやりたいわ。こりゃあ、ワシらの子孫が見ても絶対かっこええ言いよるで。何千年も残るでこりゃあ。いや、謙遜せんでええんよ。もっと自慢しんさい。『これ、儂が作ったんど』ゆうて、胸張りんさいや。儂も皆にお前のこと自慢してやるけぇの。これだけのもん作るのはえらかったじゃろう。まぁ、ええもん食って、よう寝て休みんさいや」

 完成した金剛力士像を絶賛する源実朝の傍ら、運慶はただただかしこまるばかり。

 『愚管抄』(ぐかんしょう)より抜粋。

 *注 広島弁に翻訳されています。

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