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2分40秒小説『ゴッホに合うソース』

「エコテロリスト、絵画テロリスト、世間は色んな呼び方をしているが、俺たちはテロリストなんかじゃない!ソルジャーだ!俺たちはエコソルジャーだ!」
「その通りだ!人の手によって描かれた絵画なんかより、自然にこそ大衆は目を向けるべきだ!森、河、海、今この瞬間にも自然が破壊されている。国家や企業というテロリスト達の手によって!」
「まったく同感だ!芸術?絵画?そんなものクソ喰らえ!有名な絵画を汚すことで、大衆の目を覚ますのだ!」
「来月のゴッホ展、やるな?」
「当然だ!」
「警戒されている。警備はかなり厳重になるぞ」
「だろうな。だが関係ない。フェルメールと同じくケチャップ塗れにしてやる!」
「それについてだが、一つ提案がある」
「なんだ?」
「マヨネーズにしないか?」
「は?ケチャップを止めて?」
「そうだ。マヨネーズの方が油分が含まれているから、油彩画に大きなダメージを与えることが出来る。だろ?」
「……確かに一理あるが、やはりケチャップでいこう。ケチャップには血の象徴としての意味合いがある。環境破壊によって多くの動物たちが流した血、それを表している。ケチャップの方がメッセージ性が高い」
「分かる。でも考えてみてくれ。マヨネーズにもメッセージ性は十分にある。マヨネーズは、環境を破壊することで私腹を肥やし、豚のように太りきったブルジョワどもの象徴だ!」
「……伝わりにくくないか?」
「そんなことはない!想像してみてくれ、ゴッホのひまわりにたっぷりとマヨネーズが掛かる映像を!な?刺激的だろ?」
「いや、やっぱりケチャップの方が映像的にはショッキングだと思う。血を連想させるし――」
「さっきからやたら血って言ってるけど、どうかな?俺はケチャップを見るとフライドポテトを連想してしまうんだが?」
「いや、それを言うならマヨネーズも白身魚やサラダを連想させるだろ?」
「いやいやいや!あ、そうだオムライス!ケチャップはオムライスしか連想させない!」
「ふざけるな!さっきフライドポテトって言ってたじゃないか?」
「あのー、すいません、お二人の言い分はそれぞれ正しいと思います。どうでしょうか?いっそ混ぜてみるってのは?」
「黙ってろ!いいか?俺たちのことを”ケチャップテロリスト”と呼ぶメディアもいるんだぞ!それが”マヨネーズテロリスト”になってみろ!人の料理に無断でマヨネーズ掛けまくるサイコ集団だと勘違いされるぞ!」
「言い掛かりはよせ!マヨネーズテロリスト、俺はカッコいいと思うね」
「略したらマヨテロだぞ?新作バーガーじゃねぇっての!」
「ケチャテロよりましだろ?!マヨネーズだ!」
「いいや!やっぱりケチャップだ!」
「あのー、僕はオーロラソースが好きです――」
「黙ってろ!」
「マヨネーズだぁあああ!」


 ゴッホに掛けるべきはケチャップかマヨネーズか?(もしくはオーロラソースか)
 論争は激化し、組織は分裂、そして崩壊した。



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