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2分20秒小説『死んでも乗りたいジェットコースター』

「こちらが本日最後のお客様となります。これより後ろにお並びの方、大変申し訳ありません。またの機会に是非、お乗りください」
「え?そんな……」
 俺たちの後ろに並んでいた男性が、その場にへたり込む。
「大丈夫ですか?」
 彼女が男性に尋ねる。
「ええ、大丈夫です。そうか、今日は乗れないのか、御免よ美里」
「あのぉ、何かご事情が?」
「え?」
「大変ショックを受けているご様子なので、このジェットコースターに乗りたい、何かご事情があるのかなと」
「はい、実は――」
 中肉中背中年の男性が、遠くを見つめて語り始める。
「娘が……いまして。いや、その、先月交通事故で亡くなったのですが……約束をしていたんです、生前に。娘の誕生日に、一緒にジェットコースターに乗るって。それで……」
「そうですか……お悔やみ申し上げます」
「有難うございます。”私達”の分まで、楽しんでください。では、これで」
「待ってください!その、良かったら、どうぞ」
「え?」
「私の代わりに乗ってください」
 そう言うと思った。流石、俺の彼女だ。
「いいんですか?」
「ええ」
「有難うございます」
 彼女が男性にチケットを渡した。俺も渡す。
「これは、娘さんの分です。一緒に乗ってください」
「え……有難うございます。娘もさぞ喜ぶと思います。おいで、美里」
「パパー!」
「さ、お礼を言って、こちらのお兄さんとお姉さんが、私達にジェットコースターのチケットを譲ってくださったんだよ」
「ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「あ……はい」
「えー、お急ぎください。間もなく発車致します」
 父娘が慌てて駆けて行く。

「やられた……ね」
 彼女が苦笑いしている。
「くそっ!冗談じゃないぞ!」
「ちょっと、怒らないでよ。いいじゃない。娘さん、あんなに喜んでたし」
「いや、駄目だ!許せない。人の好意を踏みにじって、あんな作り話をするなんて!降りて来たら、文句を言ってやる」
「止めてよ。いいからもう行きましょ?」
「いやだ」
 立ち去ろうとする彼女の腕を掴む。彼女は深い溜息。


 ベルが鳴る。ジェットコースターが戻ってきた。俺は最後列の席を睨みつける。あの父娘が降りてきたら――え?
「なぁ、あの父娘、最後列に乗ったよな?」
「うん」
「居ないんだけど」
「え?なんで?」
 係員に尋ねると「最後列には、初めから誰も乗っていません」と言われ、俺たちは、肩を震わせ手を握り合う。

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