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家庭裁判所・調査官がみた風景(1)

■結論:人間の「素晴らしさ」と「難しさ」

37年4ヶ月、家庭裁判所で過ごした。

 あるとき、妻に連れられてきた男性の相談を受けた。妻は、「夫が変人である」と口早に話し、離婚するしかないと訴えた。夫の方は呼びかけても返事がなく、まったく無反応だった。

私は妻に席をはずしてもらった。それでも表情は凍りついたままであった。

 困った私は養成所で習ったことを懸命に思い出した。浮かんできた言葉は「何を言っても理解してもらえないと思っているのですか」という言葉だった。

「何を言っても理解してもらえないと思っているのですか」
(アイヒホルン『手に負えない子』誠信書房)

 すると夫がはっきりと首を縦に振ったのである。それを境にポツポツと話しをしてくれるようになったその男性は、のちに精神障害が疑われることがわかった。

借り物の言葉が役に立つことは滅多にないが、言葉の大きな力が強く印象に残った。

出典:『家裁調査官のこころの風景-人が一歩を踏み出すとき』
 著者:中村桂子
 発行:創元社, 2006年


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