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色付きの日記

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ブルーは熱に弱い

ブルーは熱に弱い

映画の登場人物は、非常によく歩く。私は昨日326歩しか歩いていないのに。一昨日は家から2番目に近いコンビニまで、チンで済ませられる何かしらの食べ物を買いに行き、帰りは遠回りをしたので辛うじて1000歩は超えた。一昨昨日、つまり一昨日の前の日ってことで、まぁ英語で言うとthree days agoなんだけど、それの歩数が74でちょっとやばいなぁと思ったのと、外に出なくてどうするよという恐ろしいほど適

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永遠に乾かない夜と。

永遠に乾かない夜と。

「ほんまにね、悲しいことってたくさんありますよ。生きてりゃそりゃ。で、まあ、じゃあ死んだら悲しいこと無くなるのかっていったらそんなのも分かんないじゃないですか。死んでた頃のこと忘れちゃったし。でも、そんなの全部置いといてね、わたしは今どうなのか。そうです。わたしは今、悲しい。家にあるバスタオルが全部、すべて湿ってて悲しい。濡れたバスタオルで濡れた体を拭いても、何も変わんないから。濡れたバスタオルで

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考察:松ぼっくりについて

考察:松ぼっくりについて

お葬式から同居人が帰ってきた。

前日に「あした葬式だから帰ってきたら塩かけてくれ」と言われていたので、もうすぐ帰るよという同居人からの連絡を合図に塩を食器棚から取り出して袋ごと持ち、玄関で待ちかまえていた。
がちゃりとドアが開いた瞬間、ひとつまみした塩を豆まきと同じ投球ホームで同居人にふっかけた。

そのあと、おかえりとただいまを言い合いながら2人でいっしょに家の中に入った。

人は、死ぬらしい

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天使構想日記

天使構想日記

暑い暑い暑い暑い。とにかく暑い。もういいよもうわかったよやめてくださいと思いながらサイゼリヤに入る。絵画が素晴らしい。
後ろの席で男性2人組が「中条あやみはチャリを漕ぐのか」で揉めていた。そんなことで揉めるなよ。そんなことで揉めるなよと思ったけれど、紆余曲折を経て、「中条あやみはたしかに畦道でチャリを漕いでいた」という結論にまで達していてすごかった。サイゼリヤから間違い探しが消えるということは、代

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くっつけて脳みそ

くっつけて脳みそ

少し前に、中学で同級生だった友だちとひさしぶりに会った。

遠方から東京に来てくれたこの友だちはなぜだかわからないけど、おやつに一緒に食べよう!ということで「しっとりチョコ」を持ってきてくれたので、近くの公園に行って2人でぱくぱくと食べた。

「しっとりチョコ」というのは、ラスクみたいなものにふんだんにチョコを染み込ませているおいしい袋菓子のことで、コンビニやスーパーでもよく売っているから食べたこ

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新宿のお城

新宿のお城

新宿の比較的きれいで穏やかな部分を歩いていたら、知らない間に騒がしいエリアに到達していた。

予想していなかったことなので一旦落ち着こうとおもい、多分ぜんぜん椅子とかではないけれどギリ座れなくもなさそうな、道端の銀色くて丸い棒に腰掛けた。
まったく快適ではなかった。

顔を上げたら、どこを見渡しても隙間なくビルが生えていて恐ろしかった。

東京に来てから、ビルというのは建ってるんじゃなくて、生えて

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ピンクは水に弱い

ピンクは水に弱い

天気で一喜一憂できることは、しあわせだと思う。

通っていた小学校では、雨の日は運動場に赤い旗が立っていて、それが生徒たちへ向けた『今日は運動場で遊べませんよ』のマークになっていた。

「さいあく!あたし、雨ってほんと大嫌い。」

小学校の6年間おなじ分団で登校し、その赤旗を見る度にこう言っていた彼女の名前はとっくに忘れてしまったけれど、一人称にわたしではなく“あたし”とハッキリ発音するのを疑問に

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やわらかな贋物

やわらかな贋物

半年前に、嘘っぱちの顎を買った。

嘘っぱちの顎というのが何なのか、何故それを買うに至ったかなどの経緯を詳しく話す余裕が今は無いので控えるけれど、端的にいえば、他人の手を介してつくられた顎を享受せしめたということで、これは基本的にその専門家からもらう人がほとんどらしい。
例に洩れず、わたしもそのルートで入手した。
つまるところ、ニセモノというか、その場しのぎというか、まあ破れて穴が空いてしまったジ

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豆乳ラテ、おかわり

豆乳ラテ、おかわり

朝起きたら雨が降っていたけれど、明日の天気を聞いたとき確実な顔をして「晴れ」と言っていた昨日のママを心から信じていたので、ああこの雨は…ってことは…いま夢の中なのかむにゃむにゃと思い、二度寝。(むにゃむにゃて…)

本物の起床。
外を見たら晴れてたので、ほらね!と思う。

明朝に切られていた冷房をつけるため、布団1枚を挟んで向こう側に裏返っているリモコンを取りたい。けれど立つのは寝起きすぎてしんど

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市外局番000

市外局番000

泣くほど辛かったバイトを、店長に電話して別日にひっそりと制服を返しに行くだけでやめることができたのを思い出した。ということは、泣き吐くほど辛い今回の人生も、もしかしたら電話1本、多くとも2本くらいでやめられるのかもしれない!

しかし、この場合は誰に電話をすればいいのか。店長はそのお店の責任者だけれど、人生長など聞いたことがない。わたしの人生の責任者って…。もしかして、わたしですか??

わたしは

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後頭部に、花

後頭部に、花

1年間のオンライン授業と果てしない春休みを経て、ようやく通うタイプの大学生活が再開した。
この1年でいちばん多く会話した家族以外の人間はおそらくバイト先の小生意気小学生ズだし、そのバイトだって月に3回行けば良い方。自覚はありながらも改めて思い返すとめちゃくちゃヤバいな、と思うくらい生身の人間と対面してなかったし会話してなかった。だから、超・久!の大学に行くのは少し浮かれた。浮かれて、目の下にキラキ

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終幕ミーティング

終幕ミーティング

いらっしゃいませ。

『105ちゃんさ、トマト大っ嫌いじゃん?』

「うん。あれって食べる用のものじゃないから。宇宙だから。」

『宇宙?』

「まあ、トングでもいいけど。」

『トング。ごめん、どういうことなの。』

「ねじれの位置ゲームだよ。」

おまたせしました。きのこのペペロンチーノです。

『・・・。えーと、それでね、いくらトマトが嫌いで、なにがなんでも食べないぞと思ってても、食べなきゃ

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でも別にポテトサラダは作る

でも別にポテトサラダは作る

「手っ取り早いし、こっから飛び降りるね」って女の子が言った。規則正しく並んだ机たちの合間を縫って窓を覗き込む女の子のことは、どこかで見たことがある気もすれば全くそうじゃない気もする。名前は分からない。私も、女の子の隣に立って3階から眺める。たしかにここからなら確実だろうな、と思った。飛び降りるという行為に不穏な意味が孕まれていないことは、ここ最近では珍しく地に足ついた意識のおかげで既に分かっていた

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