見出し画像

久しぶりの赤パンプスは、ずっと見ていた

久しぶりに赤いパンプスを履いた。
履き心地がよかった。驚くくらい。

このローヒールの真っ赤なパンプス、というかスクエアトウのローファーというか、は、仕事用に買った靴だ。
1年くらい前のこと、スニーカーで問題なかった職場が突然「オフィスカジュアルで」とのお触れを出したので、大慌てで新調したオシャレ靴。

真っ赤も真っ赤、もうトマトやイチゴに並ぶほどの赤色だが、合わせるパンツやジャケットは無難中の無難、黒・グレー・ネイビーの3択ぐらいなのだから、靴ぐらい遊んでもよかろう、と赤にした。

とはいえチキンな私。最初はおそるおそる履いていったのだが、とくに誰にも怒られず、女子には「その靴かわいいね!」と褒められさえした。
何より全身ユニクロの無難コーデにおいて、一輪の花のようにアクセントになってくれたので、そのイチゴレッドの靴は日常使いになった。

普段オシャレな靴を履き慣れていない私は、靴擦れやら外反母趾やらの洗礼も受けた。
流血したこともあったが、それでも鮮やかな色の魅力には逆らえず、赤い靴はローテーションに入り続けた。


ようやく私が赤い靴を履かなくなったのは、私が本格的に外回りをするようになったころ。
苦手な営業でいっそう悪化した私のチキンさ、社内の同調圧力、などなどなどに負けて、赤い靴は靴箱の奥にしまい込まれた。

その代わりに、新卒の就活のとき以来の黒いパンプス(4cmヒール)を、週に3日履くようになった。残りの2日はローヒールだが、黒い女性用革靴だ。
服装は相変わらず、黒・グレー・ネイビーの無難な色。真面目な社会人に擬態して、平日朝から夜まで過ごしていた。
ついに正体がバレ、過呼吸を起こし、仕事が手につかなくなり、休職が決まった日も、黒いパンツに黒い靴だった。

そうして、黒い靴も履かなくなったのだが、今日はひさびさに、例の赤いパンプスを履いている。
休職が決まってしばらく、パジャマから着替える気すら起きなかったのだが、次第にすっぴんにビーサンで買い出しに出られるようになり、スニーカーで図書館へ行けるようになり、ついにフルメイクでお洒落してお出かけできるようになった。(お出かけのときにフルメイクする気力が戻った、ともいう)

久しぶりに履いた赤いパンプスは、相変わらずピカピカしていて、色鮮やかだった。
しかしそれ以上に驚いたのは、記憶にあるよりずっと履き心地がよかったことだ。
外反母趾の痛みも、靴擦れも全くなく、私の平べったい足の形にぴったり寄り添ってくれている。

こんなに履き慣らしたっけ、この靴。いや、いつの間にか履き慣らしていたに違いない。
記憶はおぼろげだが、心の支えにしていた靴がよく履き慣れるほど、頑張った日数があったのだ。
なかなか認められなかった自分の頑張りを、その靴は見ていて、教えてくれた。

今、休職期間も折り返しを過ぎている。それだけの時間と、あとイチゴレッドのパンプスが教えてくれたことがあれば、フルメイクをして擬態をして、通勤ラッシュにもまれても、生きていけそうな気がした。例え足元が黒い靴でも。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?