見出し画像

赤い髪の営業と、キノコ頭の新卒と#髪を染めた日

「ここ、赤に染めてください!!」
最近、私が美容室で毎度唱える呪文。

2年前から、基本的に私の髪はどこかが赤い。
インナーカラーから、イヤリングカラーを経て、今はグラデーションカラーになっている。

さすがに転職活動中は「赤みの茶」だったが、ご縁があって入社した1か月後には、赤のインナーカラーを復活させた。

赤い髪は、今では私のアイデンティティになっている。

赤い髪の話

最初に髪を赤くしたのは、結婚し、生まれてはじめて実家を出て、旦那の地元に移り住んだ直後だった。

在宅勤務では旧姓で呼ばれ、中堅として放置プレーされていたが、家を一歩出ると「嫁」の自分として、新たなコミュニティの一員として扱われる。

ふと名前も住所も直された、おまけに顔も古い免許証を見て、私はいったい誰なんだろうと落ち込んでいた時期。

このままじゃ脱け殻になる!せっかく実家を出たんだから、やりたいことをしよう!と一念発起した私は、人生初のブリーチを経て、髪の毛先を赤く染めた。

染めた髪の手入れに不慣れすぎて、翌々日には赤みはすっかり落ちてしまった。しかしそれでも、明るい色に染めた髪は、私のアイデンティティとなった。

家事も苦手、仕事もまずまず、ファッションセンスもいまひとつ。でも私は髪が赤いんだ!と、少しだけ自分に自信が持てる気がした。

初めて髪を染めた話

髪を鮮やかな色に染めるのは、実は学生時代からの密かな憧れだった。しかし、はじめて髪を思いきり染めたあの頃には、そんな野望を果たす日が来るだなんて、夢にも思わなかった。

今から5年前、新卒1年目の4月。そのとき染めたのは、ごくごく一般的な、10人中10人が「茶」と呼ぶ髪色だった。

新卒で入った会社は、ベンチャーを名乗っていたが、服装規定だけはキッチリしていた。
青っぽい髪に染めた先輩は、翌日には黒髪に戻っていた。そんな一幕を内定者インターン時代に見ていたので、臆病な私には「無難な色に染める」か「染めない」かの選択肢しかなかった。

しかしそんな会社でも、新卒の扱いという点ではかなり型破りで、私を含めた新卒は全員、入社3日めに営業チームに異動になった。
「えっ初日の配属発表はなんだったの?さっきまでの研修は?」と驚く間もないまま、企業にひたすら電話をかける日々が始まった。


しかし物腰の柔らかさ、すなわち押しの弱さに定評があった私が、荷電からのアポイント獲得なんてできるはずがない。
担当がいない、今忙しいと言われたら素直に電話を切ってしまう。かけてくるなと怒られたら、素直にへこんでしまう。

結果、営業チーム内ではアポ獲得数最下位、常にノルマ未達で、毎日定時過ぎにリーダーに詰められるような時期だった。

それでも、新卒時代のフレッシュな私はやる気に満ちていた。

「少しでも強くなりたい、ちゃんと営業として成長したい」
そう思って、髪を染めた。


真面目で優しい印象を変えるべく、地毛の黒よりすこし明るい茶色に。
ついでに、髪型もベリーショートにしてアクティブな印象に。まだアポイントなんてほど遠いが、それでもベンチャー企業の営業らしく。


そうしてできあがった髪型は、やや丸っこいシルエットのせいで、どこかキノコ感が漂っていた。
しばらくは自分の姿に違和感があったし、家族にも同期にも驚かれたが、その翌日からキノコ頭で必死に荷電した。


キノコ頭の果てに


それからやがて、私は立派な営業に成長――というといい話なのだが、残念ながらキノコ頭のご利益はあったのかどうかわからない。

というのは、髪を染めた週末からほどなくして、私は営業チームから異動になった。

さすがに見限られたかと思ったが、驚いたことに異動先は、入社時に第一希望だったチームだった。
どうやら人が抜けるとのことで、翌日から私は、キノコ頭を振り乱しながら、怒涛の引継ぎを受けることになった。


人事異動の果てに

――という波乱の新卒時代から、5年。

そのチームで2年近く働いた後、異動。結婚を機に髪を伸ばして、髪を赤くした。
その後転職した先で季節を一巡りして、この春から、また営業をすることになった。


その人事方針を聞いたときには、上司に詰められたキノコ頭の日々のトラウマがよみがえったが、しかし今度は荷電でごり押しではないらしい。すこし安心した。


しかし安心材料はそれだけではない。
今の私には、その後積み重ねた4年間の社会人経験があるし、なにより赤い髪がある。

黒髪だった頃の私よりは、少しはセールストークもうまくできるような気がする。
暗めの色にしておけば、きっと初めましての企業でも引かれはしないはず。


というわけで、そろそろ美容院の予約を取って、Instagramで好みの「赤」を探さなければ。

#髪を染めた日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?