見出し画像

「おいスイス!!」

弟曰く、私は我が家のスイスらしい。

ちなみにこの記事、スイス連邦の話ではございません。
…スイス、正式名称は「Confoederatio Helvetica(コンフェデラチオ・ヘルヴェティカ)」っていうんですね。初めて知りましたが、カッコイイ名前ですね!…完全な余談です。

佐倉家には、高校2年生の弟がいる。
ゲーム好きで、休み中の最近は1日中、リビングに置かれた彼のPCの前にいる。

PCの前の座椅子に腰かけて、動画配信を見ながら「あつ森」で島じゅうの木を切り倒したり、ご飯の支度をする母と姉を尻目に大乱闘に勤しんだり。
たまにPCでBGMを聞きながら、分厚い教科書に向き合っているのを見ることもある。
そして夜になると、座椅子を枕にそのまま寝ている。聞くところによると、PCからASMR動画を流して、それを聞きながら寝ているらしい。
リビングの一角が、すっかり彼の(文字通り)ねぐらになっている。


そんな彼、春休みの終わるころになっても、終業式でもらってきたはずの通知表を出していなかった。

そのことが唐突に話題になったときのことだった。
母「そういえば!通知表見てない!あるんでしょ!?」
父「見てないな、一体どこにあるのやら」
あましょく「あ、落ちてる場所知ってるよ(笑)拾ってこようか」

と、無造作に置かれた彼のクリアファイルに近づく私。
その瞬間。弟が

「おいスイス!!」

と叫びながらすっ飛んできたのだった。


…スイス??

あましょく「わかったわかった、ごめん…スイス?スイスって言った?」
弟「うん、スイス」
あましょく「ヨーロッパのスイス?なんでスイス?」

弟「姉は永世中立国だと思ってたから」

…なるほど。

勉強も生活習慣も、一度気になったことに対しては、やんややんや言う母。
基本的に放任だが、学力が落ちるときっちり指導しようとする父。

そんな両親と比べ、「好きにすればいいんじゃない?」と見守(りつつ、半分面白がってい)る姉は、彼にとって「永世中立国」だったらしい。


毎日リビングでゲームに勤しむ弟の学力は、両親の悩みの種だ。実際冬休みには、彼が赤点を取って追試に引っかかった化学の特訓が、両親によって実施されていた。
が、私も高校時代は毎日ゲームをしたり、動画を見たりしていたので人のことは言えない(さすがに赤点を取ったことはないが)。それでも無事に大学には入れたし、何を隠そう、今の仕事に役立っているブラインドタッチは、当時「いつまでPCいじってんの!!」と怒られながらブログを書いていた、高校時代に身についたものである。

…だから弟を放し飼いにしていたのだが、まさかスイス扱いされるとは。
落ちている通知表を拾うどころか、軽率に戦いを仕掛けて、かの永世中立国の理念を貶めることがあってはならない。

スイスの名前と、とっさにその名を叫んだ弟の言語センスに免じて、通知表を両親のもとに持って行くことはやめておいた。そして床の上の通知表は、弟によって彼の部屋の奥底に隠されたのだった。


やはり弟の成績は気になるが、姉としては永世中立国の名に恥じないよう、今夜もリビングで眠る彼を見守り続けるつもりだ。…ベッドで寝ればいいのに、なんて呟きながらだが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?