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ホリスティックな生活を求めるお年頃なんだが

 タイのバンコクに住んでいた時に、頻繁に通うようになったのがマッサージ店だ。

「乱立」と言えるほど店の数も多いし、足裏、タイ古式などの定番から、スパやエステとバリエーションも豊かだ。価格も日本に比べて安いため、敷居が低く入りやすかったのだ。

男子フェイシャルに入るべから……落ちた

 その中で、とても気に入っていたのがフェイシャル(顔)マッサージだ。以前は「男子、フェイシャルに入るべからず」と思っていた昭和の頑固なオッサンだった。が、一度サイアム・スクエアにある某店で試してみたところ、病み付きになった。

 どうも自分はフェイシャル・ケアを受けると「落ちる」ようで、海の底でぐっすり眠った後のような、全身がしびれるほど心地よく脱力して気分が落ち着く。前世は女性だったかもしれない。顔の造作が生まれつきのもの以上に改善されることがないのが残念だ。

 やってみて一番、多くを学んだのが「アーユルヴェーダ・マッサージ」だ。アーユルヴェーダとはインドの伝統医学で、マッサージにもその医学体系を支える哲学と健康増進のための手法の一部を応用している。

ピッタな自分をアーユルヴェーダで調整してみた

 特徴は体質(ドーシャ)を重視して、個人個人の体質に合ったオイル・薬草類を用いてマッサージや体内浄化を施す点だ。体質は「ヴァータ(風)」「ピッタ(火)」「カファ(水)」の3つに分かれる。興味がある人はインターネットで「アーユルヴェーダ」「体質診断」などで検索すると、いくつかのサイトで調べられるはずだ。

 筆者の体質は基本的にピッタである。キーワードは火が示す「熱」や「鋭さ」で、性格は体内バランスが良いときは情熱的で精神性を重視し頭もよく働くが、バランスを崩すと短気で批判的、「〜すべきだ」と完璧主義論に走りがちという。

額から頭に精油をかけるシロダーラもやった(写真ACからDLしたフリー写真、扉写も)

 体調も体内の熱が増えすぎるとダメで、辛い食事を取りすぎるとおなかを壊したり、湿疹・炎症に悩まされたりする。

 太陽の下もご法度で、過去の経験でもビーチなら海で泳げるから冷えて多少いいが、乾燥の砂漠地帯を旅すると1週間で体調絶不調となり動けなくなる。よって普段から熱を高め過ぎないようアルコールや塩分の摂り過ぎは避けるのがよいのだが、そこは酒飲みな東北人の悲しさで、飲み歩く生活習慣は簡単には変わらない。

 そこでバランスを整えるピッタ体質向けのアーユルヴェーダ・マッサージに期待をかけたのだった。

体、心、霊の調和をしみじみと目指す

 施術を受けた後は不思議とバンコクの炎天下でも体が涼しく感じ、良いバランスを取り戻した気分になってくる。前世はインド人だったかもしれない。元気になり、調子に乗って飲みに出かけたりするので元も子もないのだが。

 当然、体質が違えばバランスを取るための生活習慣も食事の摂り方も違ってくる。いずれもバランスを良好に保つことで体質による特徴の肯定的な面を活性化させ、考え方や行動でもプラス面を出すのが狙いだろう。

 このように人間を、体、心、霊などが有機的に相関し合う総合体と捉えて、社会や自然との調和を重視する健康促進観を「ホリスティック(心身一体)医療」と現代では呼ぶ。アーユルヴェーダのほか中国の伝統医学である漢方や鍼灸なども、これに含まれる。

 ホリスティック医療は現在、主に西洋の近代科学に立脚して発展した現代医学を補う代替療法とみなされがちだ。だが伝統医学は東洋のものだけでなく、西洋にも古くギリシャに発祥した医療体系があった。現在の「星占い」とはだいぶ異なる、伝統的な占星術体系と結びつき高度にシステム化されて17世紀までは一般的だった。

 しかし、科学の発展と産業革命など現代化の波により、西洋の伝統医療はほとんど失われた。19~20世紀の近代科学の発展と足並みをそろえて世界中に広がった現代西洋医学は、長らく主流だったはずの伝統医学や民間医療からとって代わり、あまねく地球上を席巻した。今では「医学」といえば西洋発祥の現代医学を指す。

心と体が、ゆとりを取り戻すために

 だが、人間は生まれた洋の東西を問わず、体と精神と自然との調和を重視してきた歴史の方が長かったのである。

 インドと中国の間にあり、植民地にされた隣国から西洋の影響も受けたタイは、こうしたホリスティック医療のアイテムが実に豊富で、筆者のようなマニアには極めて魅力的な国だ。

バンコクでは週に3回はマッサージに行けたのに、今は忙しさでムリ。

 日本の、特に東京にいると、なぜかいつも心のゆとりがなくてマッサージにもほとんど行くことがなくなっている。バンコクは喧噪の中にものんきな空気が漂っていて肩から力を抜きやすかった。抜けっぱなしだった、という説もあるが。

 別に怪しげな療法や健康法をやってみたいわけではない。だが、年齢を重ねてきて体が動かなくなりつつある今は、ホリスティックに体だけでなく心を含めた心身・霊体の全体を調和できる食事や生活を送りたくなっている。

(了)


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