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冬眠

たぶん小学生くらいからだと思う。
私は今だに冬眠に憧れる。

冬が近くなれば、
森の熊やリスたちは、
せっせと巣穴に餌を溜め込む。
そして温かく心地よい寝床を準備し、
じきやってくる冬に備える。
鉛色の空からふわふわと雪が降りだし、樹々の枝に積もり、いつしか森は白くなる。
そして動物たちはふかふかの穴の中、
温もりに包まれ、夏の幸福な思い出を食べながら、まだ来ぬ春の夢を見るのだ。

昔どこかで読んだ絵本みたいに、
人も冬眠する習慣があったとしたなら。

学校からの帰り道、
よく想像し、
気付かれないよう、
一人わくわくしたものだ。

例えば、
毎年12月1日から3月20日までは、
全ての活動は中断。
学校は休校、役場も閉まる。
電車は止まり、店は閉店。
電気、ガス等のライフラインも止まる。
何らかの理由で、目が覚めても大丈夫なように、人々は事前に食料等の備蓄をし、
12月に入ると、冬眠用の入眠剤を服用し、長い眠りに入る。
眠る直前、いかに幸せな時間を過ごせるか、人々は下手したら夏の頃から、さまざまに思いをめぐらすものだ。
秋は、実りに感謝すると同時に、親しい人と過ごした時間に感謝する季節となる。
春にまた、元気な姿で再開する事を誓い合い、シェルターと呼ばれる冬眠用の部屋に入る。シェルター内には、そんな親友や遠くにいる家族からのメッセージカードが飾られる。
街に今年最初の雪が降る頃、
街はひっそりとしている。
街灯は消え、信号機も消される。
真っ暗な空に無数の星がきらめく。

これは、あくまでファンタジー。

例えば、じゃあ北半球が冬眠中のとき、
南半球はどうするの?とか、
赤道直下の国は冬眠はないなあとか。
地域差はじめ、グローバル化した現代において、現実的でない点は枚挙にいとまない。

でも、それでいい。
みんなが文明を一旦手放した時、
今まで見えなかった大切な何かが、
もしかしたら見えるかもしれないのだから。
だから、私はこうしてたまにだけど、
人類の冬眠の風景を妄想してしまう。

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