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【試写レポ】『理想郷』試写会【27_2023】

ごきげんよう。雨宮はなです。

SCREEN ONLINEさんのキャンペーンに当選し、試写会で鑑賞させていただきました。
ありがとうございます!


作品について

よくある「田舎って怖い!」ではなく、「このじわじわした嫌な感じはなんだろう」という印象が強い作品でした。
主人公たちに危害を加えてくるのはその村(田舎)の住人なのですが、村人全員が敵対しているわけではないところに注目です。

映画『理想郷』公式サイト

観ている間は不穏な雰囲気に圧倒されっぱなしでした。
後で色々考えて見ると、言い過ぎなのではと思ったキャッチフレーズ「理想だと思ったその土地は、地獄でした」も主人公たちに寄り添ったなかなかなもののように思えます。

『理想郷』のココに注目!

1.主人公は2人いる!

映画の前半と後半で主人公が変わるため、「この映画の主人公は〇〇です」と一人だけの名前を言い切ることができません。
はっきり言ってしまえば、前半の主人公はアントワーヌ(夫)で後半の主人公はオルガ(妻)です。
この主人公交代が私にとってはとても驚きの方法でした。

当たり前ですが、見えるものが変わります。
見えるものというよりも、見え方のほうが適切かもしれません。
アントワーヌとオルガとで、時間の過ごし方、ひいては判断の仕方がかなり違うことがはっきりと映し出されます。

判断の仕方、価値観の違いは“理想”の違いにもなるはずです。
夫婦ふたりの考えで移り住んできたけれど、本当にそれは「あって」いたのか。
「あわせて」いたのではないか?
アントワーヌの理想とオルガの理想に明確な違いがあると、私は感じました。
そして、前半(アントワーヌ)の影響を受けての後半(オルガ)だということを、ぜひ覚えていてください。

2.対立があちこちに描かれている!

対立1:都会と田舎

予告編にもあるように、都会からアントワーヌとオルガが移り住んだ先で住人達との衝突が起こります。
アントワーヌとオルガが村人全員から疎外されるような対立ではなく、アントワーヌとある兄弟の対立です。
それが「都会人的価値観」と「村人的価値観」で対立しているのは間違いありません。

対立2:夫と妻

夫婦が仲たがいするわけではありませんが、「証拠を確保して村人(シャンとローレンの兄弟)をやりこめたい」という考えのアントワーヌと、「平和に暮らしたい」というオルガではすでに主張の対立が起こっています。

アントワーヌの“理想”には生命の危険がないとか、村人となんとかうまくやるのではなく、自分の価値観が喜んで受け入れられることが重要で必要な要素なのです。
それに比べてオルガの”理想”は、「実害がなければ平和だとする」もの。
自分の考えや存在が受け入れられたら嬉しいけれど、それを村人全員に求めることはしません。

この夫婦、紐解こうとすればもっと色々なものが見える気がします。

対立3:母と娘

私がいちばん興味深かったのは母と娘の対立でした。
最初は母親を心配するがゆえに勢い余る娘って感じなのかな、と思っていたのですがどうも違う。
段々、娘が母親をコントロールしようとしているように見えました。
そして、「ああ、彼女たちはお互いがお互いを馬鹿にしているのだな」という感想に。

私がそう考えた理由は二つ。
一つは、孫と祖母とのやりとりが描かれなかったこと。
もう一つは、男性経験や”夫”という存在の影響の違いです。

そして、どちらかというと父親寄りな娘を馬鹿にしていたり、一緒に暮らさないことを選んでいるのをみると、オルガはアントワーヌのことも馬鹿にしていたのかもしれません。
台詞にもあった通り「パパ(アントワーヌ)と生きると決めた」から一緒にいただけで。

試写会について

運営について

受付対応そのものに問題はありませんでしたが、30分も前倒しで開場されていたようです。
試写状にあった開場時刻に受付へ向かい中へ入ると、すでにほとんどの座席が埋まっていました。

時間を守った人間の方が選べる座席が少ないって、どう考えてもおかしいと思うんですよ。
行く人は行く人で、時間より早すぎる集合は避けるのがマナーだとも思います。
早く着き過ぎたとしても、良い大人なんだから、どこか喫茶店で時間を潰すくらいできるでしょうに。

トークイベントは大盛り上がり

映画を専門にされているジャーナリストの女性とライターの男性のお二人が、専門性の高いトークをくりひろげてくださいました。
今作の監督の過去作品やプロフィールの紹介だけでなく、過去作品の紹介からどのような作家性をもった方なのかを解説してくださり、とても興味深かったです。

スリラーやサスペンスの軸がありながら、人生/人間そのものを描く方なのだとのこと。
なるほど、今作『理想郷』もまさしくそのとおりで、このお話を聞いてから思い返してみると気になる点が増えました!

とても共感を覚えたのは「この作品はとても現代的なテーマでやっている」とお話されていた部分。
「コロナ後、スローライフを求めて引っ越す知人をみて田舎は甘くないよと思っていた」とのことですが、本当にその通りだと思いました。
私も移り住んだ側の人間ではありますが、田舎って全然「スロー」じゃない!

「スロー」で「癒される」「ほっこりな」生活は築き上げるまでに努力が必要だし、”郷に入っては郷に従え”ということばがあるとおり、その郷に自分を合わせられるかがキーになると言っても過言ではないでしょう。
「田舎はおおらかでみんな優しい」という”理想”だけで移り住んで大丈夫ですか?
そこに住む人たちのことをきちんと考えられていますか?

さいごに

どの映画もそうなのですが、この映画は上映館が少ないことが予想されることもあり、最初の週にさっさと観に行くことをおすすめします!
「もう一度観ておきたい」と思ったときに、上映館も上映枠も減ってしまい、都合がつけられなくなる可能性がとても高いです。

役に立たない、可愛いだけの犬がまったく活躍しない『理想郷』は11月3日(金)より上映開始!


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