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フリースクール活動日記 2024/02/29-奥多摩

 今回の餃子パーティーという名前は、いっそ不吉なる響きを持って皆に受け入れられていた。それは、昨年行われた奥多摩餃子パーティーにてとてつもない障害が立ちふさがったためである。
 米の分量を間違えて各人が持ってきていたというどうしようもないミスによって米が生と半生のあいだという恐るべき状態へと変貌してしまったためである。その折は俯仰不屈の精神を持って、耐えて耐えて耐え抜いて……!とそのまま食うことになったのだが、さすがに2度も同じことになるのは縁起でもない。
 そして翌日。立川駅にて僕たちは眉をひそめていた。中央線の遅れのせいで10分ごろに到着予定の青梅行きの電車が未だに到着していないのだ。そしてそれが到着してもなお、悩みの種は尽きることがない。
 龍角散や御嬢が到来していないのだ。彼らはそれぞれ「餃子の皮」と「キャベツ」を持っているため、彼らが来ない限りは餃子が作れない。そもそもなぜ300枚もの餃子の皮を龍角散ただ一人に持たせたのかは不明であるが。
 このままでは餃子を作ることは難しいかもしれない、やはり奥多摩での餃子パーティーは不吉なのだといった声がどこかから聞こえてきたが、さすがは腐っても龍角散。青梅駅への臨時停車のわずかな時間に追いつき、御嬢たちとともに見事な逆転劇を僕たちに見せつけた。なお、このとき間に合わなかったソースのことは、誰も覚えていなかったようで……
 さて。今回は道路わきに尾羽打ち枯らした鳥の死骸(?)なるものもなく、あっという間に珊瑚荘へと到着した。蚊もいなければそれほど暑くもなく寒くもないというそれだけ見ればとてもよく感じられる日なのだが、困ったことにその日は花粉が飛んでいた。
 洟をすすりながら料理を作るなどと言う芸当は僕にはできないため、とうぜん料理班にははやいこと見切りをつけて裏山に上って火をおこす。小さい枝しか残っていなかったもののなんとか着火したのだが、その際に多量に使用した杉と檜から大量に花粉が散ったようで幾人かは目を空けている事すらつらい状態になってしまった。かくいう僕もその一人であり、洟をかみに下へと降りたのだが、意外にも料理班は未だに必死になって餃子を包んでいる。そんな状況では猫の手も借りたいようで、花粉症の症状が治まった僕にも声がかかった。
 ちょうど右手を怪我して湿布を貼っていたためそれを理由に断ったのだが(すくなくとも僕ならば湿布の香りのする餃子を食べようとは思わない)、すでに時刻は12時30分を回っており、餃子はまだ半分も包めていない。このままいけば餃子を食べられるのは2時ごろか。となると帰宅準備に入るのは3時ごろ。4時に川井駅を出るならば新宿に着けるのは6時ごろか。そんな状況には陥りたくない。頑張って左手のみで手伝うことにした。

 しばらくして大方包み終えたと判断したので裏山に戻る。後ろから「逃げるな卑怯者」などとの声が飛んでくるような気もしていたが、そもそも僕は焚き火班。出張して手伝っていただけで呼び戻されようが行く必要はない。すでに10数個は包んだのだから(しかも不自由な左手のみで)。
 裏山で、整頓作業に戻ることにした。草が生い茂っており、その下には過去に僕が掘った穴(それも落とし穴として設計され、上に草が茂っているためうかうかしていると落下してしまう)などがそこら中に潜んでいる。
 ヨッシーやソースと共同作業で柴を刈り、そのついでに地面を掘っくりかえす。そうすればそこそこの深さの穴ができ、柴をかぶせれば見事落とし穴の完成だ。
 けれどもヨッシーはそうは使わない。いざというときに隠れておくための穴だという。そういえば、僕が小学生の頃に掘った穴に入って隠れていた子がいたなと思いだす。どうしても帰りたくなかったようで親が呼ぶ中そこに隠れ続けていたのだが、ついには業を煮やした親が「じゃあもう行くよ」と車を急発進して見せたことを受けて慌てて飛び出していった。
 つまり、落とし穴は人を落とすと同時に隠れるのには最適だということ。隠れていて飛び出して脅かして見せようということでそれぞれmy落とし穴(便宜上これは「墓穴」と呼ばれた)の掘削にとりかかる。

 そうこうしているうちに餃子も焼き上がり、米も炊けて(今回は半生ではない)食事時になった。レイセンの予想では失敗することを考えて餃子は300枚の皮のうち200個ほどになると踏んでいたようだ。だが、僕たちが死ぬ気で包んだ結果なんと300個すべてがいつでも焼けるように準備されている。もっとも、最後にはついに具が足りなくなったためチーズのみを入れたものもあったそうだが。
 そしてレイセンの出した200個の餃子、水餃子はあっという間に皆の胃袋に収まり、ならばと出したサツマイモもたまたま僕の持ってきていた蜂蜜をかけて完食された(餃子に蜂蜜をかけた愛すべき阿呆たち曰く、「これは絶対にやらないほうが良い」とのこと)。

 そうしていよいよ残る100個の水餃子を食べることになったのだが、すでにこの時点で大半のメンバーは戦線を離脱。たった4,5人で挑戦することになり、当然このままでは残してしまうことになる。それはあまりにもったいない。
 腹を空かせるために僕は裏の山へと上り他のメンバーもあちこち走り回るなどして少しでも餃子を詰め込もうとする(もちろん、おいしく食べることのできる範囲で)。
 餃子を僕やχαοσ、ドクロ仮面などのメンバーで完食し終えたころには僕の穴は既に掘り終わっていた。すでに完成したヨッシーの「墓穴」は縦に深い穴の「座位屈葬」用になっており、それに対して僕のは広く浅い棺桶のような「墓穴」で、足をまげて入る「仰臥屈葬」用に掘っていた。最後に飛び出してみようと柴を刈って自分にかぶせ、皆にも頼んでたくさん刈ってきてもらうことにした。

 おかしいとは思っていた。ここしばらく龍角散による被害は薄らいでおり、池に突き落とされたりした記憶も過去のものへとなりつつある。そんな状況、彼が放っておくはずもない。
 不意に頭頂部に衝撃が走る。思わず痛みに呻き体を跳ね上げると、上からは「あ、すまん」とまるで他人事のようで人を腹立たせるような答えが返ってきた。
 彼は人を怒り心頭にさせるのに十分な才覚を持っているように思えた。奥にいたヨッシーを僕と間違えていたって?そんなのが僕を踏んだ言い訳になるとでも思っているのか。
 皆の笑いの源になったことを恨みに恨み、昨年池に突き落とされたときと同じく復讐を真剣に考えていたとき胸を爽快にさせる出来事が起こった。それは、帰り。駅にてスマホをなくしたことに気が付いて顔色を青くしている彼の目の前で
「探し物は何ですか♪ 見つけにくいものですか♪ 鞄の中も、机の中も、探したけれど見つからないのに、まだまだ探す気ですか♪ それより僕と踊りませんかぁ」と踊りながら歌うのはとても楽しかった。

久しぶりに参加していたドクロ仮面

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