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短歌研究新人賞応募作品(最終選考通過作)

こんにちは、雨とランプの詩人美容師の大塚です。

雨とランプはどんなお店?と思った方はこちらから。

本日発売の短歌研究9月号は短歌研究新人賞の発表号です。
ありがたいことに、久石ソナ(ペンネームです)の連作「黒ずんだ爪」が最終選考通過作として、10首掲載されました。
ありがとうございます!

今回のブログはその「黒ずんだ爪」30首を掲載したいと思います。

黒ずんだ爪
久石ソナ

父の背が大きく存在し続ける春の就職センター抜けて

大量のタオルを畳む父がいるBGMのない美容室に

退学の届けを出しに昼下がり電車を囲むような屋根たち

「美容師はそんなに甘くない」と言うグラスを磨くバイトの先輩

ちゃらんぽらんって身体から鳴る生きものになった気もするけど

引っ越しの前夜に荷物とゴミを分け雨に別れを告げられている

大学を辞めて地元へ飛行機の片道だけを発券させて

将来について問われて問うてきた母の涙の水底の色

専門の学費を稼ぐ駐車場料金よりも安い素泊まり

誠意には程遠いけど集まったお金で通うべき居場所を

待っていてくれた枕は冷たいねやけに頭をうずめてくれる

あたたかい食事を囲む両親のいただきますに黒ずんだ爪

スプーンを差しこみ掬うプリンにもやけに愉快に揺れる姿が

両親の母校に通う年齢の若い人らに紛れて座る

美容師になろうと思った人々と窓に並んだマネキンの顔

カチカチと鋏が動く音がする誰かが波に似ていると言う

服装は自由でお越しくださいと書かれた就職案内ばかり

風が吹くたびに靡いている髪が影にあらわれ追うように行け

ふくらはぎをほぐしていけば眠くなり怒りも悲しみも沈むのか

髪の毛を集めた袋を捨てに行く過去は言いたくないのも含む

練習を終えて日付を跨ぐとき体を巡る水があること

マネキンの顔を隠して捨てに行く子離れとして右手の重さ

雪の降る街に育った 経験が染み込む髪が緩やかに散る

吹き込めば息のかたちは手となってゴムの擦れるような鳴き声

前髪をかきあげる指その指のひとつに指輪をつけた女性は

昼食を今日は食べれる気がしつつ鏡についた昨日の指紋

休日に講習会へ向かうとき歩幅の異なる人へと変わる

これからの夏の準備を話しつつデジタルパーマの発熱を知る

傘をひらき終えた指には父に似た黒くくすんだ爪を揃えて

鏡を拭く父の姿に似てきたと春の終わりを告げる夕立


今年の11月から父と同じ美容室で働きます。
雨とランプというお店です。
明日からそのためのクラウドファンディングも始まります。どういう思いで作ったか、はこちらのブログに載っております。合わせて、よろしくお願いいたします。

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